第九話   笑ってはいけない街 〜その街は暗く淀む〜

 

川沿いに歩いた道、その先に小さな街があった。そろそろ食料も尽き、生活用品も変え時と思っていた秋は、多少なりと値がはってもここで生活用品を調達しようとラークに提案した。ラークもすぐに同意し(食料を多めに買うということを秋に提案して、だが。)その街へ向かうことになった。

 

その街は周りを薔薇に囲まれた街だった。しかし赤だったらどれだけ良かっただろう。その薔薇はすべて真っ黒だった。黒という色は人に不安や恐れを植えつける。それが街を囲むように多数咲いているのだから違和感をおぼえずにはいられない。現に辿り着いたとき、秋とラークは入るのを躊躇ったくらいだった。しかしこの先、街があるという保障はまったくといっていいほどない。とりあえず見渡してみても別の街はなさそうだった。結局は、ここで食料やらなんやらを調達するしかないのだ。

 

「よくぞいらっしゃいました。えー・・秋さま、ラークさまですね。」

「はい・・・。」

「えっと、よろしく。」

トーンを一個も二個も落としたような声で、その警備員は言った。つられて秋達も声のトーンを落とす。今まで出会った街の入街を検査する警備員は明るめの制服を着ていたが、この警備員は全身真っ黒であった。ネクタイが赤であるということだけが救いである。そして顔は白いものであっても、その表情は黒といってもいいぐらいに淀んでいた。

 

(黒が好きなのかな・・・。)

そんなレベルでは済まされないものである。全身が黒のオーラで囲まれていると思われるぐらいにその人は暗く淀んでいる。

 

「こんな顔を見て驚いたでしょう。いや、言わなくても分かってます。こんな表情を見れば誰だって一歩引いたところから見たくなりますよね。そうですよね。」

ぼそぼそと、何とか聞き取れる声で喋りながら、警備員は入街審査で使用した書類を整理していく。5枚ほどあった紙をしっかりと束ねて、そしてファイリングする。几帳面に付箋までつけてそこに二人の名前を書いた。雰囲気から想像するに、警備員の小屋の中には黒い世界、つまり書類でもばらばらに撒かれたような世界を想像したのだが、どうやら意外に几帳面らしい。

人を見た目だけで判断してはならない。雰囲気だけで判断した自分を、秋は恥じた。

 

「はい、審査は終了です。どうぞ。」

そう促されて、秋とラークは二人しっかりと礼を言いながらその街の入り口をあけた。そしてそこで、一歩踏み出してすぐに足を止める。

「どうです?驚いたでしょう?」

まったく気配を感じさせずについてきていた警備員に体を一瞬はねさせたが、すぐにまた街へ向き直る。

 

街は外に咲いていた黒薔薇のように黒い。それは外装が黒いとか、街のヒトがすべて黒いとかそういうわけでもない。勿論、皆が腹の中真っ黒とか、そんな馬鹿な話でもない。

皆が皆、警備員のように暗く淀んだ顔をしていたのだ。

街全体が暗い靄に飲まれたような、そんな空気を醸し出していた。空は透き通っているのではないかと思うほどに青く澄んでいるというのに、その青が濁って紫に見えてしまうぐらいにそこは異質な空間となっていた。

全体的に暗いのだ。街全体の表情が。普通の街にあるのどかさ、あるいは活気さというものが感じられない。そこかしこで話している姿はあっても、その顔は笑っていない。ただ事務的に会話を交わしているようにも見える。

 

「ここは・・・。」

「え・・・あ・・・?」

思わず息を呑んで、その空気に自分も当てられて表情を少し暗くしているのに気付いた。すぐに払うように首を横に振った。平静を少しでも取り戻す。

「ここは・・・笑ってはいけない街なのです。」

「笑ってはいけない街・・・?」

「そうです。笑ってはいけないんです。だからこうして皆が皆暗い表情をしている。昔この街を作ったお偉いさんは、別の街に住んでいてその時に嫌な思いをしたらしくこうして自分の街を作ることで自分を満足させたといいます。それがこの街なんです。前の街で、そのお偉いさんは笑いが大層嫌いだったようで。だからこそ自分の知識をフル活用してこの街に笑わないようにするためのシステムを作り上げました。街に移り住んだヒト達は最初は異を唱えていましたが、移り住んでだいぶ経った後には、ここから出られなくなっていました。訳ありのものが来たときには、もう元の街には戻れないから、という理由でした。普通にここに居住を求めてきたものは、笑うことは好きだったのですが貧困が激しいところに住んでいたために食料豊富なこの街に惹かれたんだそうです。皆が皆、笑うことは大事だとは思っていますが、住んでいるうちにこの街以外で生活することを恐れるようになりました。この街で住むことに慣れすぎて、外に出られることが出来なくなったんです。旅に出ようと考えたものもいましたが、すぐに帰ってきました。やっぱりここから出られないんです。」

街のヒトの冴えない顔を、悲しい瞳で見ながら警備員は話した。その間中、勿論秋は笑うことも泣くことも出来なかった。ただ、同じように悲しい瞳をしていた。けれどラークは違っていた。いつもの前向き姿勢でその街を眺め、常時首を傾げていた。

秋は警備員に尋ねる。

「それで、笑っちゃいけないって実際どういうことが起きるのですか?何か身の危険を感じるようなことでも起こるんですか?」

「それはですね・・。」

そう真剣に話している秋と警備員を見ながら、ラークはまだ首を傾げている。そしてその会話に割り込むようにして口を開いた。

「いやいや、絶対おかしいって。食料を持って出かければ色々旅にも出られるだろ?そんでもって、他の街でも移住すればいい。どんなシステムがあろうとも、離れれば問題ないだろ?ほらほら、前向きに考えていこうぜっ?なっ??ははははははってwww・・・って、いだっ!!!」

 

ゴーンっガラガラガラガラ!!


 

「説明する手間が省けました。実際、笑うとこうなります。」

突然上からタライが降ってきた。

 

 

もうそろそろ読者の方々には「またかよ」と飽きられそうな展開がやってきました。

 

 

勿論落ちてきたのは銀ダライ。そしてそれはどこから現れるでもなくやってきて、そして落ちるとすぐに何もなかったかのように消えてしまっていた。痛がっているラークだけが無様に残る。

 

「ったく!!こう毎回毎回タライを落とされてっ!!俺の役目って身体張って笑いを取るしかないんかっ!!あぁっ!!?」

そう怒って空に叫んで、それが頭に響いてまた頭を抑えた。街のヒトの視線が一気に集まる。そして痛がっているラークを見ると、

「ふっ。」「んぷっ。」「・・・クス。」

吹き出すように若干名の人間が笑った。どうやら本当に笑顔が失われたと言うことはないようだ。

しかしその後。

 

ゴーンっガラガラガラガラ!!

ゴーンっガラガラガラガラ!!

ゴーンっガラガラガラガラ!!

 

その吹き出した何人かの頭に、タライが落ちてきた。痛がってその場にうずくまる。

 

「笑うとああいう風になります。私は・・なんとか平気ですが、それが伝播して皆に笑いと痛みを渡してしまうのです。そうなれば連帯責任。街のヒト全員が険悪なムードになっていきます。嫌な話です。」

警備員は冷ややかな視線を街中に向けた。痛がっていたヒトもちくしょうっと悪態をつきながら去っていく。

「それにしても、ラークさん。あなた前にもどこかでタライを喰らうようなことがあったんですか?何だかさっきの台詞だと大層タライ地獄にあったようですけど?」

「そうそう。ラーク、なんだかおかしんだよなこのところ。タライをくらっただの頭をタライが襲ってくるだの寝言で言ってたものな。」

警備員と秋が首を傾げると、それにならうようにラークも首を傾げた。

「なんでだろな?」

「いや、こっちに聞かれても。」

 

二人は一層に首を傾げる。

 

「それで、さっき見ている限りでは皆は本当は笑いたいんじゃないかって思ったんですけど?」

秋が尋ねると警備員は一つ黙って頷いた。

「そうなんです。本当は皆、いつだって笑っていたいんです。他愛もない話で盛り上がったとき、子供がいつにもなく成長したのを見たとき、ちょっとした悪戯が成功したとき、大好きなヒトが近くにいるとき。笑いたいんです。現に私も。皆がそう思っているのにこの街から出ることは出来ません。皆でこの現状を改善しようと思ったこともありました。しかしこのシステムを取り仕切っているところが存在しないのです。だから何もすることが出来ません。空しいものです。」

警備員は寂しげな顔でまた街全体を見やる。街のヒトの顔は未だに暗い。とぼとぼと歩く姿は生気すら感じられない。

「なんとかならないんですか?」

「そうだぞ、笑いたいときに笑えないなんて、ヒトであることを禁じられているようなものだろ?俺達でなんとか出来ないか?お前の力でこう、システムを一気に壊すとか。」

「出来たらいいんだけど、そのシステムがどこにあるか分からないんじゃ・・・。」

腕を組んで、二人考える。警備員も真剣に街のことを考えてくれている二人に、必死になって協力して悩んでくれている。

 

(どうしてだ?この二人なら何かをしてくれそうな気がする。)

そう思いながら。

 

「何か対策はしてみましたか?」

「そうですね。頭の上にクッション材を置いてみたりとかはしましたね。しかし直に痛みが伝わるのでそれも無駄だと分かりました。あとはシステムの流れを感じ取ろうと学者を呼んだこともありました。しかし流れが複雑すぎて結局分かりませんでした。でもシステムの概要は分かったみたいです。」

「システムの概要?」

「はい。どうやら笑うと、その陽の気持ちが流れ出すみたいなんです。これは一人のヒトに協力してもらった結果なんですけど・・。それがシステムの中枢にぶつかってすぐに陰の流れへと変わってタライを生み出す。そういった仕組みになっているようです。その流れがどこへ向かっているのかは分かりませんでしたが、この街のどこかであることは間違いないです。」

「なるほど。」「ふん。」

 

秋とラークはより一層悩んだ。悩んで悩んで悩みつくす。街を見回ることすら忘れて、まだ入り口付近で策を講じていた。そしてラークも腹が減っているにも関わらず参加している。えらい。

 

 

 

 

 

「だったら・・さ。こんなのはどうかな?」

「ん?」「はい?」

 

可能性に過ぎない意見。勿論今はそれに頼るしかない。そしてその意見を、ラークが出した。

 

 

「ちょっと街のヒトには迷惑かかっちまうことになるかもしれないが・・・。これなら流れを強く感じ取れるんじゃないか?そしてそこを秋と俺で突き止めて元から断ち切る。やったことあったか?」

ラークが提案すると、秋も警備員も目を丸くした。

「それは・・危険だけど、いい案かもしれない。ラークは赤い石の力を感じ取れるし、俺は意志の力を持ってるから、別の力も感じ取れるかもしれない。」

「私は・・正直驚きました。確かにそうすれば流れを感じ取れるかもしれません。警備員という立場ながら、そういった意見は本能的に出したくはなかったのでしょう。きっと。というか、システム自体にそう言う風な意見を思いつくことを禁じられていたのかもしれません。今、こうして外から来たあなたたちがいるおかげでこうして意見が出た。素晴らしいです・・・。」

 

「皆さん!!街の皆さん!!集まってください!!」

感嘆していたかと思うと、すぐに警備員は皆を呼び寄せるために大きく声を張り上げた。少し興奮した様子で喋ったせいで、一回タライが頭に落っこちたが動じずに呼び続けた。

「なんだ?警備員のヒト・・珍しいな。」

「どうしたんだ?その旅人さんがどうかしたか?」

「何々?何かあったの?」

騒ぎが伝播して次々とヒトが集まってきた。女子供、男。獣人から人間からすべて。面白いことでもあるのか、と思ったヒトの何人かがタライの直撃を受けた。

 

警備員は皆に事情を説明する。すると街のヒト総出で腕を組み、その案に唸った。

「た・・確かにそんなことしたことなかったな。」

「ですよね・・。そんなこと怖いと思ってたからやろうとはしませんでしたね。」

「でも確証はあるわけじゃないんだろ?」

「だが・・。」

 

「皆さん!!今やらなければずっとこのままです!!この旅人さんたちは、確かに確証は持ってないですが、力の流れを知る方法を持っていると言っています!!」

 

警備員がそう叫ぶと、街の住人はまた唸った。

「あんな子供が?」「大丈夫なの?」「けっ、信じられないぜ。」

 

秋とラークが浴びせられる非難の数を正面から受けて俯いた。しかし警備員が二人の肩に手を置いた。心配するな、大丈夫だ・・・という気持ちがその手の強さから伝わってきた。その強さが秋とラークの背中を押す。ラークが秋に目を向けると、秋は一つ、深く頷いた。

「皆さん、見ててください。」

そして、秋は意志の力を発動。(久しぶり。)

手に光が収縮したかと思うと、その光が秋の静かな呼吸と共にゆっくり形作られていく。その形は暗いこの街には少し眩しい光輝く弓。そして紡がれた矢。

秋はそれを真上へと放った。その筋は暗く淀んだ空気を引き裂いて上へとのぼり、そして拡散して消える。

 

(実際弓道をやるときは、真上には向けないようにしましょう。何でか、なんてのは言わないように。)

 

おおっと街の皆から歓声があがる。希望を見出したのか、顔を少し綻ばせたヒトもいたが、今回はタライは落ちてこなかった。ここは皆に真剣に力を見せて信じてもらうためのシーン。

さすがにタライも場の空気を読んでくれているようです。

「俺のときはお構いなしだけどな。」

ラークが誰に言うでもなく言った。

「?」

光の弓をしまった秋が、そのラークの言葉に首を傾げる。

 

秋の力を目の当たりにして、しばらく口をあけていた警備員が、口火をきった。

「皆さん・・・もうこんな生活嫌ですよね。私はずっとここから皆さんの生活を眺めていました。皆さんは顔は暗くても、ずっと笑いたい気持ちを抑えてきたんですよね。見ていて分かるんです。その証拠に、今の皆さんは暗い顔も吹き飛んで、小さな希望に期待してみようという澄んだ顔になってますよ。」

 

そう警備員が告げると、

 

「やれるかもしれない。」

「虎穴にいらずんば虎児を得ず・・・ってやつか?」

「賭けてみたいと・・・思う。」

 

口々に街のヒトがそう声を発した。

皆が皆、笑いたいと願っていた。しかしこの街から出ることは出来なかったのだ。皆、ここで生まれ・・・ここで育ったのだ。今更出て行くなんて、簡単に出来ることじゃなかった。しかし、今回やっと街のシステムを壊してくれると言うものが現れたのだ。

もうここまで来たら、反対するものもいなかった。

 

 

 

 

そして。街はしんと静まり返った。街のヒト全員がその場所に集まっていた。街の入り口。警備員が皆を集めた場所。その場所に老若男女、すべてのヒトが集まっていた。

「それではこれから始めます。もし途中で倒れても、皆何も言いません。無理に頑張る・・・ということのないようにしてください。」

最初に会ったときに比べて、警備員の声は明るくなっていた。これも秋とラークから何かを感じ取っているからなのだろう。その顔は、顔の色に応じた希望に満ち溢れた決意のようなものが浮かんでいた。

 

「いいですね。秋君、ラーク君。」

「はい。」

「いつでもいいぜ。」

 

 

「それでは皆さん、準備は整いましたでしょうか。それではまいりましょう!!せーーの!!」

 

 

 

警備員がそう叫ぶと、街のヒトが一斉に笑い出した。

老若男女、すべてのヒトたちが。

子供も、大人も、老人も。男も女も関係なく。皆が一斉に。今まで笑えなかったぶんを一気に吐き出すように腹から力を入れて笑った。そしてその笑いに対するように。

 

 

ゴーンっガラガラガラガラ!!ゴーンっガラガラガラガラ!!

ゴーンっガラガラガラガラ!!ゴーンっガラガラガラガラ!!

ゴーンっガラガラガラガラ!!ゴーンっガラガラガラガラ!!

 

数百、いや・・数千のタライが街のヒトの頭へと落ちてくる。

それは街のヒトの頭の上に真っ直ぐ当たったものもいれば、ちょっと軌道がずれて角が当たったものもいた。さらには自分に落ちてきたわけではないのに、隣のヒトに当たったものの巻き添えとして当たったものもいた。そして悶えると、自分が笑った分のタライが落ちてくる。

 

笑いの世界としてはおいしい光景か。しかし数がはんぱではない。笑いとしてはちょっとやりすぎなのでは、という理由でボツネタとなりかねない。

そういえば前に土曜枠のある番組で、上からタライが落ちてきてもノーリアクション・・・というコーナーがあった。それを自分は腹を抱えて笑っていた気がする。

と、それとこの話は特に関係はないのだが。

 

とにかく頭から落ちてくるのはタライにタライにタライにタライにタライ。時々、金のタライとか落ちてくれば当たりかと思わず思いたくなるがやはりただ当たるだけ。こんなシステムの当たりは嬉しくない。

 

街のヒトは笑い続けた。いくら口元が引きつろうとも、いくら頭にたんこぶが出来上がろうとも、意地で笑い続けた。出来るだけ上を向かないように、出来るだけ頭のてっぺんに神経を集中させて痛みを緩和しようと奮闘する。

一人、一人また脱落していく。まずはお年寄りが倒れた。助け起こそうと思って近づいた街のヒトが、周りの人間に止められた。気絶する直前に、お年寄りは穏やかな笑みを浮かべる。

「さ・・先に行くんじゃ・・わしに構わず・・・。」

「どこへって突っ込んでる暇はないんだよな!?まかせろ、気付いたときにはきっとまた・・。くっ!!」

「放っておけっ!!ここは戦場なんだ!!」

「だがっ!!」

「構ってる場合じゃないんだ!!それが戦争ってもんなんだよ!!」

 

なんだそれ。

 

 

また一人、また一人。それは地獄絵図にも似た・・・。

認識されないとタライは消えることはないため、気絶したヒト分のタライがたまっていく。街の中が銀に染まっていく。

 

約三分近く。

 

貴重人物として笑っていなかった秋とラークは(二人も参加するんだよな、と言われなくて内心はほっとしている。)周りを見渡して、そして思わず顔を綻ばせる。

タライが落ちてきたが、秋は研ぎ澄ました感覚を使ってそれを手で受け止めた。

(それはルール違反な気がする・・・。)

そう思ったラークも、タライを瞬時の判断で避けていた。

 

「分かる、分かるよ。こんなに簡単なことだったじゃないか!!」

「ん、俺もこうびりびりと感じてるぜ!!」

 

それを聞き取った警備員は、両手をあげて皆の笑いを制止させた。

生き残り・・・もとい立っていられたのは半数近く。男性と女性の比率はだいたい5分5分。全員が気絶することなく、何人かが残された。

それでも犠牲者は出てしまった。もちろん気絶しているだけだが。

 

 

周りを見渡して、そのタライの数にまず驚嘆、そして唾を飲み込んで、秋は声を発した。

「この街のシステムの根本・・・それは!!」

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございますっ。こうして街は救われたのですね。本当にありがとうございます、秋さん、ラークさん。」

いつのまにか、さん付けに格上げされていた秋とラークは、街のヒトからお礼にともらった食料品やら日用品らを抱えてこそばゆい感覚をおぼえながら、“微笑んでいた”。勿論、もうタライが落ちてくる様子はない。

「いえ、こうして街が救えたなら・・・俺達も嬉しいです。」

「だなっ。やっぱ笑ってなきゃ!!うんうん!!」

 

「それにしても、まさか街を囲っていた黒薔薇の根の数々がシステムの根幹を担って、花びらが拡散をさせて街をシステムの領域に覆っていたとは思ってもいませんでした。私達は昔からあの薔薇はこの街の象徴だと言われ続けて世話してきましたので、なんとも思わなかったのが歯がゆいです。」

分かりやすい説明をしてくれた警備員に感謝。

秋達はあの後、街の周りに咲いていた黒薔薇をすべて撤去した。勿論、根ごと。

そして、今度は明るい街づくりをしようということで、ひまわりの種を植えた。きっと来年には街を囲うようにひまわりが輝くだろう。そしてこの街はどんどん明るくなっていくのだ。

(夏以外のひまわりは・・・ちょっと酷いかもしれないけど、大丈夫だろう。)

そんなことも思ったがお構いなし。とりあえずは皆がそれで満足していた。

 

「それでは、俺達は行きます。」

「じゃーなー♪」

「はい、それではいってらっしゃいませ。明るくなった街に、またぜひ来てくださいね。」

 

秋達は歩き出す。しばらく秋達は手を振っていた。

もうすっかり笑顔を取り戻した警備員は、黒の制服のままだったが、それはもう下だけになっていた。上は夏を感じさせるような空色のワイシャツ、そして頭にかぶっていた黒の帽子もはずしていた。そして顔はいつまでも笑顔のまま。

 

 

「これでやっと解決、かな。」

「何が?」

「タライが、だよ。」

「タライ?・・・あぁ、確かに解決したな。でもやっと、って何だ??」

「んと・・・とにかくまぁ・・解決なのよ。」

 

またイマイチかみ合わない会話をしながら、秋とラークは歩き出した。

 

そう。

さすがに辛いので・・・ここでタライ関連の話は、ラストなのです。

 

「何か知らない力が働いているような気がしてたのも、もうすぐ解決・・・なのかな?」

「秋?何言ってるのかさっきから分からないんだけど・・・って・・・えっと、俺もなんとなく感じるけど・・・。」

「ん?何、ラーク?」

「あともう何話かあって、そのうちの一つが少しやばい話のような気がする・・・・。とっても、なんかこう・・・この旅とは外れたうような。」

「え・・。まさか、アレ?」

「アレ・・・だよな。でも・・まさか、な。」

 

 

 

 

周りを囲む薔薇がなくなったその街を背にして歩く。

他愛もない話を続けながら。

 

秋達は歩き続ける。

そして、

その街は、明るく輝き続ける。




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