第八話 パネルの街  〜勉強は体で感じるもの?〜

 

「何だ・・・これ。」

「さあ?どうやっても街のデザイン・・とは思えないな。」

「だよな。」

 

秋とラークは、一つの街の中に入っていた。

街の入り口にいた警備員に簡単な審査を受け、扉を開けて中に入れば、その街全体の地面に隙間なくグレーのパネルが敷き詰められていた。

そしてさらにそのパネルには文字が刻まれている。一つのパネルに一文字。すべて平仮名の黒文字で書かれている。街の地面全体に敷き詰められたパネルは、見ているだけで目がちかちかとしてしまうほど。家は普通の趣きあるものであるのに、地面だけが異質なものであった。

それが、街の入り口から境界線としてそこら中に広がっている。現在は街の人間が視界に入っていないため、その意味するものは分からないが、普通でないことだけは確かだった。

 

「驚いたかい?ここは、“パネルの街”なんだよ?」

「パネルの街?」

先ほど審査を行った警備員が、慣れた口調で声をかけてきた。秋はそれに伴い首を傾げる。どうやら疑問を持つのは自然なことで、今までに来た旅人も目を丸くしたに違いない。

「街の人間である私が言うのも何なんだけどね。この街の人間は少し語学力に欠けているところがあって、だいぶ前にそれを改善するための策をとった。それがこの地面に敷き詰められたパネルの数々なんだ。」

「語学力とこのパネルと、どう関係があるんだ?それに警備員さんと話しているかぎり、語学が欠けているようには聞こえないが?」

ラークが聞くと、警備員は一度頷いた。

 

「書く事と話すことは別。それは分かるだろ?話すのは頭で理解して自然に声を発することが出来るけど、書いたり読んだり文章構成をしたりするにはやはり語学力がいるんだ。それも基本的なね。だからこそ、私達の街ではこの措置をとった。都合上、学校を作ることが出来なくてね。その代わり、街全体で自然な語学力を身につけるために、街全体を自動学習装置に変えたんだ。」

言っていることが支離滅裂としているような気がするが、話が進まないので頷いておく。もっと別の学習方法があるんじゃないかと疑問に持ったが、それも一応言わずに。

「それで。この仕掛けはどうなってるんですか?」

秋が聞くと、待ってましたと言わんばかりに警備員は顔をにやけさせた。

「パネルに文字が一文字ずつ平仮名で書かれているだろう?この街の住人は、その文字を使って単語を作りながら歩いていくんだ。例えば・・えぇっと・・・そことそこ。」

そう言って警備員は二つのパネルを指差した。目を向ければ、“あ”と“き”という二つの文字。

「秋、という単語を作ることが出来る。とりあえずこれで一つ。さらに次に自分のいる場所から文字を踏んで単語を作る。これの繰り返しだ。文字数は自由で、一度通った場所はその一回のうちの単語制作で重複して使ってはいけない。一ヶ月のうち、一番長い単語を作ったヒトには後に賞与が与えられ、さらには五回分の失敗が免除される。このパネルは一日ごとに総入れ替えになる。特殊なシステムで変わるらしい。俺にはよく分からないがな。とまあ、こんな感じだ。」

そう一気に喋って、警備員は息をついた。秋とラークは

 

(うげ、また変なとこ来ちゃったよ・・・でも、今更出て行くなんて言えないしな・・・。)

(パネル・・・平仮名・・言葉・・・・単語・・・ぐちゃぐちゃ・・うげっ・・・頭いたっ。)

外面では平静を保ちながらも、心の中では苦い顔をしていた。そして秋は会話の中のある部分を思い出して首を傾げた。

「五回分の失敗の免除?つまり、失敗をすると何か罰があるというわけですか?」

それこそ待ってましたと言わんばかりににやけた顔になり、警備員はまず腕時計を確認した。そして丁度いいころだな、と呟いた。

 

「ここにいつも同じ時間に通る少年がいます。その少年は、母親にもっと勉強をしなさいと急かされているようで、毎日のように言語の勉強を外で行ってます。ほら、出てきましたよ?」

そうやって警備員が指差した先には、一人の小さな人間の少年がいた。髪をつんつんに跳ねさせ、背は低い。ぴょんぴょんと軽快に飛び跳ねる様子から活発な少年だと言うことを見て取れた。

「えっと・・・か・・・た・・・ぎ・・・。ね・・・る・・・と・・・ん・・・?い・・ん・・・・こ・・・・うっ・・・。」

一文字一文字慎重に選び取っているらしい。何だか子供が知るべきではないような単語が並んでいるがきっと気のせいだろう。

気のせいに違いない。

気のせいってことにしといて?

 

「そろそろですよ?」

「え?」「ん?」

真面目に取り組んでいる姿にエールを送りたい気分になっていた秋とラークは、警備員の言葉に首を傾げる。そして子供を見た。

 

「い・・・ん・・・ぽ・・て・・・ぉ・・・・っととっととっとと!!!うはっ!!」

どさっ!!

 

飛ぼうとしたけどあまりにもその次の言葉が、(おそらくは、いんぽて○○○だろうが)遠かったのか、“ん”という言葉の上に飛び込んだはいいものの、体勢を崩してその場に尻餅をついた。その瞬間、手をついた場所、両手、尻餅をついた場所、足のついた場所すべてに赤いランプがついた。すべてを一気に選択することはきっとルール違反なのだろう。びー、と警告音に似た音が地面から響いた。そしてその瞬間。

 

 

 

ゴーンっガラガラガラガラ!!

 

 

 

 

「いってぇぇええええ!!!」

その少年の上に銀ダライが落ちてきた。そしてその銀ダライは何か特殊な力が働いているのか、すぐにその場から消えてしまう。そしてそこにはただ頭を抑えて痛がっている少年だけが残った。傍から見ていると何が起こったかは分かるが、知らない人にはただ頭を抑えて痛がっているという奇異な状況が映るだけである。

その騒音に一度は驚いたものの、秋達はすぐに平静を取り戻した。何故だかこういった状況に慣れているような気がして、何でタライが・・・どこから・・どこへ・・・?なんて疑問を抱くこともなかった。

 

「見ましたっ!?見ましたよねっ!!」

これを一番に見せたかったのだろう。警備員が若干興奮気味に秋達に迫った。それを身を反らせてかわしながら秋はただ、見ました・・・と呟いた。

「あれが失敗したときの罰です。あの子はここ数日、何回も同じ時間に母親に外に出されるのですが、毎回一度は失敗します。まだまだ私から見れば半人前にもなっていない・・・というところですかね。ご覧になったとおり、失敗して言語を作れなかった場合、その単語が何かをちゃんと説明できない場合、特殊すぎてこの国に登録が許可されない単語が出てきた場合にはあのように銀ダライが上から落ちてきます。昔の僧侶が作った仕掛けで、どこからともなく現れたタライが失敗者を粛清いたします。頭で覚えられないなら体で覚えさせる。それがこの街に代々伝わる教訓、というべきものでしょうかね。」

 

まだ少年が痛がっていると言うのに、それを警備員は嬉々として説明した。その姿に呆れを隠せない秋とラークは、彼に背を向けて大きくため息をつく。逆に警備員はもう説明をすべてし終えたらしく、秋達がもう中に入っていくと見込んで、二人の背中に。

「もう行かれるんですね。少し不便なところもあるでしょうが、他から来たあなたたちには問題ないでしょう。では、今日一日、存分に楽しんできてください。」

 

そう言って警備員は手を振った。

すでに一日・・・と、この街に入るときに言われている。そしてそれは決定事項であって、変更は不可であるとされた。

 

今日は・・・戻れない。

 

秋は確信していた。そしてラークも諦めたように俯いている。

(こんな街だって知ってたら、入ることもなかったのに。)

(不便だらけだよ。)

また心の中で愚痴った。

 

「どうする、ラーク。やっぱりとりあえずは夕飯にする?」

「そうだな。とりあえずそこまで行かないと、俺にとっては話にならないな。」

ラークの腹がぐうっと盛大な音をたてた。凄い音だな、と秋がからかうと、今度は秋の腹も音をたてる。お互いに鳴らして顔を赤らめた。

これは早く飯を食わねば。そう二人で決意を固めて街の定食屋と思われる看板のついた建物を見た。だいたい単語を10個ほど作れば届きそうな距離だった。

 

「俺は多分大丈夫だけど・・・ラークは大丈夫?いける?」

「ん、俺だってやるときは・・・やれるさ。・・・・多分。」

「慎重に選んで。あとはラークは前足後ろ足あるから気をつけて。そうしないとタライだからね。」

そう秋が忠告すると、ラークは大きく息を吐いた。どうやら強がってはいるが心底不安でいるらしい。

「くそう、またタライなのか?また痛い思いをするオチになるのかよ・・・。」

そうラークが呟くと、秋は首を傾げた。

「“また”タライ?・・・また、なの?前にもタライなんて落ちてくる場所あったっけ?」

「お?・・・ん?あったっけ?いや・・・ないよな?」

「変なラーク。」

そう言って秋は一歩踏み出した。踏んだ場所が黄色く光る。

「最初ぐらいはどれを踏んでもなんとかなるだろ。最初から遠くに飛んで一気に距離を稼いじまおう。」

ラークはパネルのない部分の街の出口付近から、助走をつけて飛び上がった。

空を切って銀色の毛並みが揺れる。尻尾が風にたなびく。心地よい風が吹きぬけ、定食屋のものと思われる香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。

 

そして着地。

 

平仮名の場所は。

 

 

 

 

“ん”

 

 

 

ゴーンっガラガラガラガラ!!

 

 

 

いきなり落ちた。

 

 

 

 

 

「ちょっとラーク・・・。いきなり“ん”の場所に飛び込むなんて無謀にもほどがあるよ・・・。ゴキブリのはびこる廃墟に一人飛び込んでごろごろのたうちまわるくらいに無謀だよ。」

「ぇ、何。秋・・言っている意味がよく分からねえんだけど・・。ってえぇえ・・それにしても何なんだよ、この街は・・。」

「まあね、まさかここまで徹底しているとは・・・。」

秋達は二人、何とか定食屋を訪れていた。中は陽が良く当たり、落ち着く木の匂いが漂っている。静かなBGMと共に時間はゆったりと進んでいるように思われた。

しかし、そんな落ち着く雰囲気は視線を上に向けている間だけだった。下に視線を向けてみればここにもパネルの数々。すべてグレー一色で同じように平仮名が一パネルに一つ書かれている。

 

ようするに、ここでもやれというわけだ。

 

秋とラークは恐々と視線を落とし、席へとついた。うまく席につけるように言葉を探して、言葉が出来上がって了解の合図が一度出たところから、一気に椅子へと飛び込む。

 

座っている間にも足が地面につかないよう、秋は椅子の足がけの場所に足を乗せ、ラークはいつもどおりちょこんと椅子に座った。

どうやら椅子には反応しないらしい。それだけが救いだった。

 

「おきゃ・・く・・・さまっ!!おまた・・せ!!いた・・しま・・したっ!!」

ウェイトレスと思わしきエプロン姿の人間の女性が銀色の盆に料理を乗せてやってきた。視線を下に向けながら一歩一歩慎重に。

秋達は、彼女がどんな言葉を踏みつけてきたのか・・・それを知るための視線を向けることなく、料理だけに目がいっている。

 

ちなみに秋が頼んだものは、和食セット。ご飯に味噌汁、さらにはとんかつという中々豪勢なものである。そしてラークはホットドックにミルク。2人前だが。

 

ここでは学習のほうに力を入れているため、料理の方は特に料金を考えていないらしかった。つまりほとんどただ同然だった。

喜んで頼んでみたものの、実際運ばれてきて、料理の方を考えていないということを料金だけの観点で甘く見ていたことに気付いた。

 

飛び跳ねて持ってきたため、味噌汁は銀の盆に飛び跳ねて容量が少なくなり、ご飯のお椀ももう少しで中身が出そうなほど傾いていた。一緒に持ってきたミルクのせいで、味噌汁とミルクが奇妙なコラボレーションをかましている。一遍に運ばずに盆ぐらい分けてくればいいのに、と二人は目を逸らしながら心で呟いたが、とりあえずそのままテーブルに置かれることなく、銀の盆以外を置いていってくれたため助かった。

 

味は、普通だった。

それでも久方ぶりの食事に舌鼓を打った。

「贅沢は言わない。食えればいいさ。」

「・・・そうだな。」

 

二人でもくもくと食べ続ける。ヒトは食べている間は幸せなものだなと実感し、椅子に座ってのんびりと過ごせることを嬉しく思う。

張り詰めた空気の中での安寧。休息。この穏やかな時が長く続けばそれでいいと思ってしまうほどそれは・・・優雅な時だった。

 

 

 

ゴーンっガラガラガラガラ!!

 

 

 

束の間の休息だけど。

 

 

 

「あぁっ!!店長すいませんっ!!」

「なにやってんだお前は、いつになっても慣れないな、ほら、こうしてこうしてこうして!!」

 

ゴーンっガラガラガラガラ!!

 

「だーっ!!いてーーっ!!こんちくしょうっ!!俺もまだまだってか!!!」

「店長、素晴らしい向上心ですっ!!」

 

ゴーンっガラガラガラガラ!!

ゴーンっガラガラガラガラ!!

ゴーンっガラガラガラガラ!!

 

 

 

もう、色々突っ込むこともやめた。

 

 

 

 

そして秋達はホテルへとやってきた。

こちらもほとんどただ同然。旅人がやってくることがあまりないということもあって、料金は格安であった。しかし、設備もよく手入れも行き届いている。こんなのでよく経営が成り立つのかと思ってしまうほどだが、そこはこの街での財政管理がうまく成されていると言う結果なのだろう。

そこまで首を突っ込む気はないが。

 

そしてやはりここにもパネルが敷き詰められていた。時々ホテルの従業員が体勢を崩してタライを浴びる。それを見て秋達は肩を持ち上げた。もう慣れてきている・・・としてもあまりにも豪快に音が鳴るためについ目は行ってしまう。

(慣れてきている?・・・ここが初めてなのに?)

なんてことを頭に思い浮かべながら、ホテルでチェックインをする。少しカウンターの中を覗いてみれば、やはりそこはパネルでいっぱいだった。チェックインカウンターの中は狭く、それほどパネルはない。その中でずっと立っている従業員を見て、ご愁傷様、と思わず言いそうになった。

それと共に、椅子に座ればいいのにな・・・なんてことを考えたが、提案はしなかった。

関わりたくない、それが一番に浮かんでいた。

 

 

ゴーンっガラガラガラガラ!!

 

そしてまた、音が鳴り響く。

 

 

 

 

部屋に入ってもパネルは敷き詰められていた。旅人にもしっかりとこの街の歴史を体験してもらおうということなのだろう。しかしまあここまでとは思ってもいなかった。これだと部屋の中でも気持ちは治まらないし、字のせいで目がちかちかとしてしまう。

唯一、ベッドや椅子の上にはパネルがないことが救いである。まあ、当然のことだが。

「なになに?ベッドからの転落による事故・・・といってもタライなのですが・・・を考えて、ベッドに低い壁をつけさせていただきました。これで寝ている最中は安眠を期待できることでしょう。ごゆっくりとおやすみくださいませ。だって。」

秋が、ベッドに置かれていたメモ書きを見て、そのまま読んだ。ラークがそれを聞いて今日何度目かのため息をつく。

「安眠を期待できないレベルまで達してるなら、もういっそパネルごと取り外しちゃえばいいのにな。何をそこまでこだわっているのか分かりゃしねぇ。明日朝早くにでもここ出ようぜ。」

「そうだな。ラークにとっちゃここは頭が痛くなるだけの場所だしね。とりあえず、今日は寝ようか。」

「ああ。」

 

ここまで来るのに、秋は3回・・・ラークは10回ほど天からの制裁を喰らっていた。頭がその痛さでふらふらとするし、さらには星やひよこまで見始める始末だ。ラークに至っては花畑まで見えてしまったらしい。これはやばい。

 

二人はそのままベッドに寝転がろうとしたが、秋は身体が少し汗臭いのに気付く。さすがにそのまま眠るのはどうかという考えに至り、シャワー室まで足元の文字を選びながら辿っていった。

そして。

「嘘だ・・・。絶対嘘だ。」

服を脱いでドアを開ければ。そこはパネルの浴場でした。

 

秋はここでもう一度タライを受けることになった。

4回目だ。

 

 

二人が眠っている間はタライなどは気にしない極楽の時が保障されている。二つあるうちの一つずつに秋とラークが眠り、精神的ストレスを眠りが癒していく。夢の中では自分達が小屋の中で炎に当たって座る姿や、変な言動を繰り返して皆が皆頬を赤く染めている姿、そして嫌なことにラークがタライを頭に受けて悶絶している姿などが写った。妙にリアルな夢だったがやはり朝になればそれは曖昧な過去話になる。夢の中は夢の中。現実に戻れば眠気と共にそれはぼやけて白けて消えていく。断片的にしか思い出せないその数々が頭から離れ、かすかな痛みだけが頭の中の記憶として残った。

「いって・・・たんこぶになってるよ。」

欠伸より先に出たのはそんな言葉だった。

ぐっすりと眠っていつの間にか明けた朝は、秋達にとってはここを抜け出すと言う嬉しい時だった。早めに外に出て昨日買ったものを食べよう。朝ごはんを食べて次の街へ出発しよう。きっと次の街はいい街だ。ここよりはきっといい街だ。だから早く起きようラーク。寝惚けてないで起きよう。

起きないとタライより痛いたんこぶを作ってやることになるぞ。

ほら、起きるんだ。早く出ようって言ったのはお前なんだぞっと。

そうやって半身を起こし、ベッドの壁に手をついて隣のベッド、ラークが昨日の夜に眠ったベッドへと目を向けた。そしてそこには。

「あれ?ラーク?」

 

誰もいない。

 

秋が不思議に思って目を擦っても、そこにはやはり誰もいなかった。ラークが先に起きていることはまずありえない。それならば・・・。

そう思い当たって、ベッドの上で立ち上がってみた。するとラークが寝ていたベッドを越した部分が目に入る。

 

「あ・・・。」

思わず言葉を失った。

驚愕で、ではない。呆れ、だろうか?

 

 

ラークは壁を飛び越えて床に落ちていた。

つまりは寝相を駆使してその地雷床へと降り立ったのだ。つまりは・・・。

 

タライ。

 

 

気付かないほど自分は爆睡していたらしい。

そこにはたまりにたまってタライが転がっていた。それも5つほど。

どうやら本人が認識しないとそのタライは消えない仕組みになっているらしかった。つまりはラークはそれだけの量をくらっても起きないほどの図太さを持っている、ということだ。

寝起きが悪いのにもほどがある・・・。

 

(いや・・・?あまりにも連続でくらって失神して意識不明?打ち所が悪くて死亡?・・・なーんてね・・・。ははははは。)

秋はラークのベッドの方へと移動してラークをベッドと言う安全地帯から揺すった。すると、

「ん・・・。」

反応があった。どうやら死亡はしてないらしい。でも、多分重症。

 

「えっと、大丈夫?」

一応聞いてみる。

「痛い。」

返ってきた。

 

当たり前だ。

 

 

 

 

 

 

 

秋達が俯き加減で、肩を落とし、街を出た頃にはもう時間は昼ごろになっていた。

「また来てくださいねっ!!」

そう警備員に歓迎の意を示されたが心の底から断っておいた。とりあえず礼儀として、

「ありがとうございます。」

とだけ心無く言っておく。警備員はこの言葉だけで終始笑顔のまま秋達を見送ってくれた。

 

 

そしてその街。一時間後のこと。街の中にナレーションが流れた。太い男の声である。

「えー、今の旅人さんでこの街の来訪者が10万を超えることとなりました。これを記念して、そしてさらなるこの街の発展を目指して、パネルに少々の仕掛け変更をしたいと思います。」

街に出ていたヒトがわぁっと歓声をあげた。どうやらこの街のシステムに不満を抱いているヒトはいないようだ。

 

「この街のシステムは素晴らしい。これだけの文字の中で暮らしていけるんだからね。私は昔は本の虫と言われていて・・・。」

街の作家が言った。秋が考えた。

本の虫がここにいていいのだろうか。

 

「私はこれで読み書きすべて覚えたのよー。懐かしいなあ、頭にタライを受けながら過ごした日々。文字が出来上がるたびに嬉しくてお母さんに報告しにいったっけ。」

街の主婦が言った。ラークが一歩引いて思った。

随分と変わった懐かしさですね。

 

「パネルが変わる仕組みをずっと研究してるんだ。これが毎日変わるのってなんでなんだろうな?」

街の中の研究員が言った。二人が苦笑いした。

ただ、パネルの中の文字をランダムに設定しているだけだと思います。そして研究しなければいけないのはパネルでなくタライにあると思います。

 

そしてナレーションは続く。

「パネルに漢字、を加えました!!これを加えることにより、さらに言葉のバリエーションが増えることになるでしょう!!ただ、漢字とひらがなの組み合わせというものはそうはないので・・・えっとあるんでしたっけ??いや、きっとあるはずだ・・。まあ、そういうことなんで漢字を多く使用した方にはボーナスが加算されます。これを機に、もっともっと頭を良くしていきましょうね。では、あと半日・・・よろしくお願いします!!」

 

ぶつん、とナレーションが切れる。

その瞬間、街のパネルが総入れ替えで漢字が混ざったパネル群になった。

平仮名との対比は 8 : 2 ほど。

明らかに漢字のほうが少なかった。思い切り飛ばないと踏めないような組み合わせになっているものもある。

 

きっと頭は良くなるどころか、たんこぶが増えるだけの結果になるに違いない。

そしてタライの連続で、頭はこのシステムの必要性について興味を抱かなくなる。結局は皆、このシステムを受け入れ続けていくのだ。

 

 

 

ゴーンっガラガラガラガラ!!

ゴーンっガラガラガラガラ!!

ゴーンっガラガラガラガラ!!

ゴーンっガラガラガラガラ!!

ゴーンっガラガラガラガラ!!

ゴーンっガラガラガラガラ!!

 

 

 

 

そして、今日もまた。タライは音を空に響かせる。

 

 

さて?重複なしでいくつ単語できる?

んー・・・。

 


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