第七話 和を乱す違和感 〜気付かぬならそこでおしまい〜

 

 

「ようこそいらっしゃいました〜〜旅のお方。単なる資材調達のために来られたとはいえ、私達は大いに歓迎いたしますよ。よーいよぃよぃっと歓迎しますよ!!」

酔っているのかいないのか分からない大袈裟な言い回しで、街に入った直後にそう話しかけられたのは毎度おなじみ秋とラーク。繰り返して旅を続け、多くの場所が常軌を逸している中、今回は意外とまともな街に入ったようだ。誰も彼もが特異な行動をすることなく、街中を渡り歩き、思い思いの行動をしているのが分かる。

 

るんるん気分でスキップをしながら一人の女の子が、秋達の前を通り過ぎていった。

「食べ物食べ物〜っっと・・・。とにかく飯を食ってそれからにしような、秋?♪」

「浮かれてるな〜ラークは。腹は俺も減ってるから、一緒に食べるところ探そっか。」

「か〜〜っ!!ってなわけでレッツゴーーー!!♪」

 

 

 

 

 

ゴーンっガラガラガラガラ!!

 

 

雷鳴が鳴り響いたようにその音が聞こえたとき、二人はゆっくりとベンチに座りながらおやつの時間を楽しんでいた。

たっぷりとあんこの詰まったたい焼き。

きらきらとラークが瞳を輝かせていたときに最初に目が行ったのはそのたい焼きで、秋もその匂いにつられて思わず6つも買ってしまっていた。楽しそうに鼻唄を繰り返して食べていた時にその音が鳴り響いたものだから、ラークは若干不機嫌に音の方へと顔を向ける。

 

 

ルックスのいい女性が、頭を必死に抑えながら悶えているのだ。

誰もがその光景を目にしてはいたが、何事もなかったかのようにすぐにまた各々の行動へとうつり、女性もすぐにおっかっしーなーとか言いながらも走って去っていく。

 

くるくるとまわりながらその場にあったのは、あのお笑いなどでよく見かける銀タライ。

いつしか止まったその銀タライは、すぐに誰かが来て回収していってしまった。

ただただ秋とラークはその状況を見て、首を傾げるばかりだ。

 

大音量を突然鳴らしたタライはどうして落ちてきたのか、それ以前に、どこから落ちてきたのかはさっぱりと見当がつかない。

 

「一体何なんだ、この街は・・・・。入ったときには普通の街かと思っていたが、何だか変なところだな。」

「何か俺もよく分からないや。やられた人も、見てた人も、これが当然だと思っているみたいだし。しっかしまぁ。あんなにでかい音立てたってのに、どんだけ頭が固いのか・・。」

「考えただけでも身震いがするぜ。絶対、頭の中ぐわんぐわんになってるはずだ。大丈夫なわけあるめぇ。」

「えっと・・・とにかく聞かないことにはどうにもならないな。何か思い当たることとかない?」

「一切、分からん。」

 

 

 

 

 

ゴーンっガラガラガラガラ!!

 

 

 

 

 

「いってぇぇぇええええええ!!!」

「え?ええ??」

 

 

円形のタライが、ラークの頭に突然落下した。高い音を立てて、タライは転がって、ラークは、うがーとかおがーとか言いながらベンチから転げ落ちた。ただ唖然と秋はそれを見ていた。

 

「た、助けろっての!!のんびり見てないでさ!!」

「・・・さっきも凄い音だったけど、今回のも凄かったな・・・。」

「何か感心してるのっておかしくないですか!?かーーーっ!!ってぇぇぇえええっ!!」

 

 

土を身体につけながらも、ラークは地面の上で頭を抑えながらゴロゴロと転がった。

タライはくるくると回転したあと、突然やってきた若い男に回収されようとしていた。ただただ過ぎていたおやつタイムに突然おとずれた思わぬ事態。一体何がこの街に起こっているのかを秋はその若い男に聞いてみることにした。

 

 

ただ・・・ラークは放りっぱなし。

 

 

「知りたいんですが、この街は一体何が起こっているんですか?勝手にタライが降るようになってるってのは何となく分かるんですけど。」

 

どうも何か言葉がうまく紡げなくていじらしく感じながらも、秋はそう若い男に尋ねた。

 

「確かこの街に先ほど訪れた旅人さんでしたか。簡単に言うと、この国はある種のシステムのようなものが働いていて、そこには何かしらのルールが存在するらしいのです。」

すっと、立ち上がって秋とラークを見る。ルールとは何か?ということを頭を抑えて若干落ち着いたラークと、未だのんびりとベンチに座っている秋に教えてくれた。

 

「ただ私たちにもよくは分からないんです。すぐにタライを始末することが私達の役目。面倒なことではあるのですが、これも仕事。とんでもないことに、この突然落ちてくるタライのシステムは、私の生まれたときから存在していました。たくさんの人は、もうこのシステムに違和感を覚えることなく過ごしている状態。いつか旅人か来たときには、このシステム・・まったくもってわからああぁぁぁん、なんて叫んで、頭におもいきりタライをくらっていましたよ。酔っ払いみたいにふらふらとふらついて噴水の水の中に落ちたときは皆で思わず笑ってしまいました。」

 

 

「単に、何かの拍子に突然タライが落ちてくるってわけですか・・・。簡単に言いますけど、やっぱり何か原因とか起こるきっかけとかあるんですよね?」

「念を押しておくが、こんな状態が継続するようなら、間違いなく頭がいかれて何も思い出せなくなるヤツが出てくるようになるからな。」

何とか痛みは治まったらしいラークは、指を立ててそう若い男に忠告した。

 

「ただ、それはこの生活に慣れきっている私達には問題ないことです。すぐに思考も回復、通常通りの生活に戻ることが出来る。ルールを知らない私達は、こうしてこのまま生きていくしかありませんから、自ずともう適応させてしまっています。すっかりなくなったわけではないのですが、まぁ起こって一日に十回あるかないか。会話が何か関係あるのではないかということが分かってはいるので、それに気をつけるだけです。」

 

すっと、その若い男はタライを後ろに担いで、深く二人に礼。いきなりポケットを探り出して、旅人さんがこのシステムにかかったときに渡すようにと言われているんです、とその男は袋に入った飴をラークに手渡した。ただそれを見つめ、ラークはどうもと返事をする。

ルールがいまいち分からないだけに、どうも痛みの代償がこのちっぽけな景品ということに納得があまりいかないようだ。

 

「誰かがこの謎を解いて、さらにはこのシステムをなくす方法を提案してくれるまで、このシステムは稼動し続けるでしょう。うちら住人にとっては問題ないことですが、旅人さんにはちょっと辛い一撃のようですから。楽にはいかない街ですが、あとで笑い話をするにはもってこいだと思いますよ、まったくこれは。」

 

 

はははと若い男は笑って、呆れたような顔で秋とラークは顔を見合わせた。

 

「旅人さんは、資材調達だけと聞いていましたので、これでもうお帰りなんですよね?念頭に置いておいたものでまだ何か買ってないものは?」

 

はいと秋は返事をしてから指折り指折り数えて、もうすべて揃いました、と笑いかけた。

 

「旅人さんをそれじゃあ街の外までお送りいたしましょう。家の嫁や子供の話とか、ちょっと興味ありません?」

 

 

 

 

ゴーンっガラガラガラガラ!!

 

 

 

「いでっ!?ったく・・・。くそー、そうやって調子に乗って何かを話そうとしたときに降ってくるのって酷いっての!!脳の皺が伸びちまうよ〜。」

 

世の中で、もう慣れているらしいその男は、確かにそんなに痛がっているようにも見えなかった。ただ少し首を竦めただけ、という状況に、二人は感心せずにはいられない。

 

 

「意外にヒトって慣れれるもんには慣れるもんだな、秋。うんうん。」

 

 

 

ゴーンっガラガラガラガラ!!

 

 

 

「でっ!?ったく何で、俺にばっかり!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして街の外。

二人は先ほどの若い男と共に、扉の前に立っていた。この街の入り口である。

 

「今日は中々楽しい時間を過ごさせていただきました。どうも、ありがとうございました。」

「俺は楽しい時間を一気に崩されたけどな。」

そう言って、秋は深く男に礼をし、ラークは機嫌悪そうにそっぽを向いた。

「まぁまぁ、これも旅の思い出の一つとして考えればまぁ、後になっていい思い出の一つになりますよ。こんなこともあり・・・それが旅の楽しみなんですから。」

 

そう言って、男ははきはきとした表情で笑った。先ほどより、何故か会話がスムーズに進んでいるのは気のせいだろうか?

 

「それにしても、何だか凄くすっきりした気がします。何でしょう?街とここでは繋がっているはずなのに、何だかここに来るとほっとするっていうか、空気がおいしく感じられます。」

「秋・・・それって酷くないか?」

 

「いえいえ、もう慣れてます。ここに来た旅人は皆、出て行くときそういったことを言って旅立って行きますからね。やっぱり、ルールの範囲外だからでしょう。」

 

「そう、ですね・・きっと。」

「だな、もう何だか楽だわ。」

 

 

 

二人は、男に別れを告げて道を戻っていく。そして男は、鼻唄を歌いながら街の中へと・・・確立されたルールの中へと戻っていった。

男にとってはそれが当たり前の日常となっていた。しかし、やはり街中には違和感が渦巻いていた。それに気付くものは現れるのだろうか?

 

もしこの街が、強いルールを元に、中に入ったものに強力にそのルールを植えつけるものだとしたら。それに気付かれないように力を使っているのだとしたら。

 

勿論、街の人間はそれを日常と認めているため、それに違和感を覚えることはあっても気付くことはありえない。

そして旅人も、その強力なシステムの前に、違和感を覚えても答えを出すまでには至らない。

 

 

 

そして、きっと誰にも分からず・・・その街は存在し続けるだろう。

それがいつまで続くのかは・・私にも、分かりません。

 

 

 

 

 

 

ゴーンっガラガラガラガラ!!

 

 

 

 

 

 

あいたぁぁぁあぁあぁっ!!えっ??ここで?

 

 

 

・・・何で?

 

 

 

 

 

 

 

 

街に入ってから出るまで・・何が違和感として存在してたか?

あなたには勿論分かっていますよね?分からなかった人は、もう一度見返してみては?

 

見えますか?

強力なまでに影響を及ぼしている“ルール”。

 

 

 

分かっても、他の人に教えては・・・・

 

 

 

駄目ですよ?

 

 

 

 

 

 

 

終。

 






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