第三話 入れない街 PART3 〜のんびり行こうよ〜

 

周りを背の高いひまわり群に囲まれたその場所に、一つの街があった。周りを外から見えない背の高い壁に囲まれ、正面入り口には2メートル以上もある鉄製の扉がまるですべてを拒むかのように聳え立っている。明らかに不似合いである。そんな堅固な扉とは対称に、その扉の脇には小さな木製の簡素な小屋が建てられていた。中には一人の若い警備兵がただ一人、ぼーっと陽だまりの中座っていた。半分瞼が閉じかかっていて、時々頭ががくんと前に落ちる。

 

そんな街に向かって、一人と一匹の旅人が近づいてきていた。

 

一人は人間の少年、小向井 秋。黒髪に幼い顔つきをして、背は170ぐらい。暑いのか黄緑のジャケットを腰に巻きつけ、黒いシャツ一枚にグレーのリュックを背負っている。

一匹は狼、ラーク。銀色の毛と額のグレーの毛を持ち、さらに額には異様な紋章が浮かび上がっている。彼のモノクロの姿にアクセントをつけているのは首輪の赤と金色に輝くペンダント、さらに右前足につけている黄緑色の布である。

「こんなところにあるなんて・・きっと綺麗な街なんだろうな。」

「確かにな。でも・・俺にとっては花がありすぎて匂いで鼻が曲がりそうなんだよな・・・花だけに。」

「おもしろくない。」

「あ、そう。」

ラークはふん、と鼻を鳴らす。秋がははは、と苦笑いをした。

「この国では毎日のように街に入るための管理員が変わるって前に聞いたよ。だから、街に入るための審査の方法も様々なんだって。」

「なんちゅー迷惑な話だ・・。それじゃ、その人の気分によっては入れないこともあるってことじゃないのか?」

「まぁ、そうならないことを祈ろう。食料に余裕はあるから、ベッドで眠れない以外はなんとかなるしね。この温かさなら夜だって安心だし。」

「だとしても、温かいベッドで眠りたいってのはあるよな?というか、お前のこの世界への適応力は何よ?」

「え・・・何が?」

「いや、もういい。」

 

彼らは街の前にまでたどり着いた。扉の前にまでたどり着いて、その堅固さに思わず感嘆の息を漏らした。

「ここ・・・こんなに頑丈になってるけど・・・あまり入れる気がないのかな・・。」

「中は賑やかみたいだから、ヒトはいるみたいだけどな。」

「さて、今日の運勢も兼ねてるな、これは。吉と出るか、凶と出るか。」

二人は周りを見回した。近くに設置してある簡素な木製小屋がどうやら入街管理を行っているところらしい。

秋は軽く扉をノックする。

「あ、はいー。開いてますよー。」

そういった声が聞こえたため、秋はゆっくりと中へと入っていった。

「お邪魔します。」「どもー。」

中で椅子に座って考え込んでいたのは若い警備員。秋達の姿を見て取ると、どうやら今まで寝ていたのか、眠い目を擦って立ち上がった。緊張感のない顔に欠伸が加わり、さらに緩みに緩む。

 

「ふぁぁぁ・・。・・・・あ、どうもどうも。ちょっと手が放せなかったもので。街に入りに来たんですね?この街への旅人の訪問は久しぶりです。」

「は・・・はい・・。」

「あぁ。」

(寝てたよな・・・。)(眠ってたよな・・。)

秋とラークは、その緊張感のなさに若干呆れながらも返事を返した。こっちまで緩んでくる。

 

「さてこの街では、・・・えっと・・ん?」

そう言うと、警備員は頭に指を当てて、む・・・ん・・・?と考え込む仕草をした。どうやら、入街の際の口上を忘れてしまったらしい。これだけ忘れているということは、よほど寝ぼけているのか、それともあまりにも久しぶりの旅人のため、言う機会がまったくなかったのか、それは定かではない。

(忘れやすい性格だっていうこともありえるがな。)

(天然・・か?)

秋とラークがぼそぼそと呟く。警備員はあれでもないこれでもないと縦横無尽に、かつゆっくりと歩き回り、最後には立ち止まってポケットを探り始めた。するとそこには小さな紙が。

 

カンペだ。

 

「それでは、ですね。おっほん!!げふげふげふげふ!!」

意気込んだ挙句、むせる警備員。秋達は呆れ果てて大きくため息をついた。

(あー・・ただの面倒くさがりや?やる気がないとか。)

(いやいや、ボケだよ・・。天然。天然ボケ。)

 

「はい、えっと・・・この街に入るものたちにこのような審査をすることー・・・」

(うぇ・・注意書き?)

(げ、それなのにまったくこの人気付いてない!?)

「質問内容。いち〜。」

警備員はゆっくりと話はじめた。

質問はこういった審査が必要な場所で聞かれる様なことと同じであった。

 

滞在人数、滞在日数、滞在目的、滞在途中のホテルの要望、旅の目的などである。

すべての質問に秋が丁寧に答えた。途中途中、丁寧に警備員が質問内容の返答を書き込んでいく。それはもう、風のように滑らかなペンの動き、自由気ままな鳥のたゆたう雰囲気。

あくびを噛みしめながら、途中いい加減な答えも出しながら、秋とラークは交代交代に答えていった。一人ですべて答えられるほど我慢強くはない。お互いが休憩を取りながら、眠くなるのを我慢しながら答える。20問近くの問題をすべて答え終わるのに、どのくらいかかったのかは・・二人には分からなかった。時計を持っていたら記録として残しておきたいぐらいだった。

 

「はい、これにて質問は以上ですー。お疲れ様でしたー。」

「・・・ありがとうございます。」

「ふぁぁぁぁああああ・・・」

ラークが大きく欠伸をして、秋は眠気を覚ますために自分の頬を一度強くつねった。

 

 

 

・・・そしてまだまだこれから地獄が待っていようとは二人には予想だにしなかった。

 

 

 

「次はですねー・・・えっと、自分が好きな審査方法を使って、旅人が中に入っていい存在かどうかを見定めよ。かっこ、例えばあなたが戦闘が得意なら、軽い武術審査を行う。例えばあなたが喋るのが好きならおしゃべりの中で見定めるー。かっことじー。」

ほう、と紙を眺めながら警備員はまた頭に指を当てて考え始めた。その姿に、秋達からまた深いため息が出るのは言うまでもなかった。しかし、今回だけはすんなりと・・・

 

「私の得意なものは“心理テスト”です。これから心理テストを出しますんで、テストに答えてくださいー。えっと・・・」

 

いかなかった。もうすでにあたりは暗くなってきている。

 

「何がいっかな・・いつもなら番号で選んでもらってテストするんだけど・・・その番号の紙は持ってきてないしな・・。じゃあ、精神面のテスト・・かな。それとも恋愛に関するテストかな・・。」

そう警備員が悩んでいた。そのあたふたと考え込む警備員を見越して、言った。

「じゃ、それでいいです。あなたが一番街の中でされていたテストでお願いします。」

「お、秋。それならなんとかなるよな。」

ラークがはっと目を開けて、秋を褒めた。しかしその後に頭に疑問が浮かぶ。

 

(でも・・そうなると恋愛テスト・・・なんだけど・・?)

そんなことは関係ないという感じに、さらに秋は話を進めようとする。

「それではっ・・。」

恍惚とした表情で、警備員は今までとは違う少し得意げな顔で話し始めた。どことなく口調も軽く、早くなりそうだ。

 

「それじゃー、恋愛関係の心理テストで。じゃ、出しますね。」

「はい、お願いします!!」

「早く、早くっ。」

口調はまだ秋達にとってはのんびりではあるものの、こうなればあとはこの心理テストが終われば入ることが出来る。心はこののんびりとした雰囲気から抜け出せる安心感と、どんな質問をされるのかという高揚感でいっぱいだ。

 

「第一章・・・“僕は彼女と出会ってしまった”」

「は?」

「ふへ?」

 

第一章?

意味不明なタイトルと共に、嫌な予感がし始めた。

(秋・・・これってまさか。)

(いや・・まだ分からない・・まだ・・・分からない・・・)

秋は冷や汗をかきながら心の中でつぶやき始めた。頭の中に浮かんだ予感を必死に消し去るように何度も何度も呟いた。

 

 

 

「何やってるんだい、この子は!!もう、本当に役立たずねっ!!やっぱりアイツの子だよっ、あの愚図な父親の!!分かっているのかい、この子は!!びしばし!!びしばし!!」

「あぁ、やめてよ母さん。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」

「母さんじゃないって何度言ったら分かるのよ!!私は預かっただけだって言ってるでしょ!!何言ってるのよ、この子は。分からない子ね!!今日は外で寝なさい、分かったね。」

「あぁっ、お願い入れて母さん、お願いお願いお願い・・・・・。」

 

こうして僕は・・一人、街の片隅に残された。目の前の扉はうんともすんとも言わず、お願いと懇願しても中からは何も聞こえなかった。そして僕は諦めて街を歩き出す。

 

雪の降る夜だった。

 

この寒い冬の街の中だというのに、僕は半そで短パンで、さらに裸足だった。冷たくて冷たくて・・もう体中が凍ってしまっているんではないかと錯覚してしまうぐらいに僕はすべての感覚が麻痺してきていた。しかし不思議なことに体はちょこちょこと前に進んでいる。不思議でならない。

僕を助けてくれる人はいなかった。大人達は僕を一瞬見るだけで、すぐに関係ないかのように笑いながらまた過ぎていってしまう。まだ幼かったためか、そういった大人たちに憎しみを覚えることはなく、羨ましいという感情もわくことはなく、ただ無気力に歩き続ける。

ちょっと感覚を戻したかと思えば、来るのは足の痛覚だった。見れば足の皮膚は赤くただれ、ところどころが切れていた。なんとか歩いている間は耐えられていたが、その傷を見た途端、あまりの痛さに倒れこんでしまった。

 

痛い・・・痛い。

 

「ううっ。」

そう僕が呻いていると、僕の視線の前に赤い・・・雪の積もった白い道路の中にぽつんと。

赤い長靴が僕の前で立ち止まった。

「どうしたの?」

済んだ・・しかし、かぼそい声。頭の上から降ったその声は、僕にはとっても温かい響きに聞こえたのだ。見れば茶色のコートを着た、僕より少し年上であろう少女(16歳くらい?)が立っていた。白い雪の道に、赤い傘の花が咲いていた。

「あ・・・。」

「どうしたの?」

少女はまた聞いた。僕達は・・・この時、出会ってしまったのだ。

 

 

 

 

(う・・・。)

(なんだこれ・・・。)

恋愛風の心理テスト・・というより恋愛ドラマに近い。まだまだ・・続くことは間違いない。

それに、ドラマ(?)を語っているときには顔は生き生きとしているため、止めることも出来ない。

二人はあー・・とかうー・・とかうなり始めた。警備員は気にもとめなかった。

 

「第二章・・・。“君に告げたい言葉があった”」

 

(ほら。)

(第何章まで、ある・・?)

さらに予想を裏切ってくれる言葉が次に続く。

「第一話、“ありがとう・・・”とぅるるる〜る〜♪」

 

(第一話!?)

(て・・テーマソングまで!?)

 

そのとき、夢中で話す警備員のポケットの中から、一枚の紙がはらりと落ちてきて、秋の足元に落ちた。それを秋は屈んで取る。ラークもすぐにそれを覗き込んできた。

ちなみに、警備員は夢中でドラマを演じきっているので、こちらが何をしていようと気付くことはない。もう一人5役ほどやっているため、何が何だか分からない。でも、その演技は賞賛に値する。

 

「えっと・・これは・・・ん!?」

「あ・・・」

唖然としてその紙を見ていた。その紙の内容・・・。紙の一番上には、“一番自信あり。恋愛心理テスト内容。”と自信満々の字で書かれていた。

 



 

 

一番自信あり。恋愛心理テスト内容。

 

 

第一章     僕は彼女と出会ってしまった

第二章     君に告げたい言葉があった

第一話 ありがとう・・

第二話 ごめんなさい・・

第三話 また会いましょう・・

第四話 ただいま・・

第三章     僕の決別

第一話 父と母と

第二話 君と僕と

第三話 僕とこの世界

第四話 僕自身

第四章     僕の中で何かが生まれる

第一話 彼女と僕と

第二話 逃避行

第三話 追手

第四話 悲しみの決別

第五章 昔の自分にサヨナラを

      第一話 過去の僕

      第二話 過去の彼女

      第三話 今の僕と彼女

      第四話 叔母にサヨウナラ

第六章   僕は君をアイシテル

第一話 悲しみの邂逅

第二話 僕はきっと

第三話 僕が君に出来ること

最終話 アイシテル

 

続編も期待されてる。だから早めに考えよう。

 



(おおおお・・・)

(あれ?あれれ??)

プログラムだった。これはもう心理テストとかそういうレベルではない。

というか・・これをどう心理テストにすると?

 

 

 

「こんなに寒い中・・シャツに短パン・・どうしたのよ!?」

彼女は驚愕して僕の手を取った。手袋に包まれた、温かい手だった。僕は思い切り引っ張られて引っ張られて、そしてどこかに辿りついた。その場所は、小さなレストランだった。

「お母さん!!お湯!!それと・・・何か温かいものと着るものお願いっ!!」

彼女がそう告げると、母親らしき人物が出てくる。すぐにそれは彼女と同じ驚愕の顔をして、部屋の奥へと消えていった。

 

僕はがくがくと震える体をきつく自分自身で抱きしめて、照明として揺れる蝋燭を見つめていた。見ているだけでふらふらと身をまかせたくなる。ふらふらと・・・ふらふらと・・・。

ばたん!!

 

「ちょ、ちょっと!!大丈夫!?ねぇっ!!ねぇってば!!起きなさいって!!」

そんな言葉が、遠く遠く・・・聞こえて消えた。

 

 

 

 

「ラーク・・・。」

「秋・・・。」

二人は一言呟いて、頷いた。

このままこの話を聞いていれば、明らかに何日も寝ず食わずの生活が続く・・。きっと。

そう感じてならなかった二人は、そこから気付かれないように、そろそろと抜け出した。

 

それでも気付かない警備員は、ずっと演じ続ける。

その演技力は驚きのものである。きっと演技指導の人や、役者だって唸らせる。

しかし、秋達は・・今、それをすべて見るほどの余裕はなかった。

 

 

・・・結局、今回も街には入れなかった。

(今回も?)

(ん?何でそんなこと思うんだ?)

よく分からないまま、彼らは外に出た。すっかり周りは暗くなっていて、風が吹くたびにひまわりがさらさらと音をたてながら揺れる。

 

驚くべきことはその光景である。

暗い中に浮かぶ黄色の花が、夜空に輝く星のように煌いているのを見て、秋とラークは感嘆の声をあげた。通常はひまわりはそんな風に輝くことはない。

月の輝く中での神秘か、それともここの土の性質上の変化なのか。

ちらちらと月の光も反射して、周りに蛍が飛び交っているようにも見える。その美しさは、見ているものをずっと惹きつける。惹きつけて離すことはない。

 

少し歩けば、そこにベンチが設置してあった。こんなところに何故ベンチが・・。とかそんなことは今はどうでもよかった。

 

 

「ゆっくりと聞いていたら、きっと感動するような話ではあったんだろうな。」

「あぁ、今ではもう遅い。戻る気なんてない。そうだろ?」

「そう・・・だな。まぁ、もっと時間があったら・・見てたかもな。」

「時間はあるけどな・・。それでもそれは旅の時間であって・・・劇を見る時間ではない。」

「だな。何にしても・・。」

「あぁ・・。」

 

二人は周りをちらちらと輝く花に包まれながら、頭の上を数多の星と大きな月に照らされながら、ぼんやりと呟く。

 

「これが見られたから・・もう何でもいいさ。」

 

 

 

警備員は、ただ演じ続け・・・二人はただ眺め続ける。

誰もが自分の好きなことを楽しんでいる・・・至福のとき。

 

 

 



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