第二話 入れない街 PART2 〜あなたには何に見える?〜

 

周りを背の高い岩山に囲まれたその場所に、一つの街があった。周りを外から見えない背の高い壁に囲まれ、正面入り口には2メートル以上もある鉄製の扉がまるですべてを拒むかのように聳え立っている。そんな堅固な扉とは対称に、その扉の脇には小さな木製の簡素な小屋が建てられていた。中には一人の若い警備兵が座っていた。それ以外には誰もいなく、ただしんとした空間だけが広がっている。しかし、小屋の中にはそれとは別に雑然と白いキャンバスが置かれていた。周りには何かの木の実をすり潰したのか独特な臭いが漂っている。

 

そんな街に向かって、一人と一匹の旅人が近づいてきていた。

一人は人間の少年、小向井 秋。黒髪に幼い顔つきをして、背は170ぐらい。暑いのか黄緑のジャケットを腰に巻きつけ、黒いシャツ一枚にグレーのリュックを背負っている。

一匹は狼、ラーク。銀色の毛と額のグレーの毛を持ち、さらに額には異様な紋章が浮かび上がっている。彼のモノクロの姿にアクセントをつけているのは首輪の赤と金色に輝くペンダント、さらに右前足につけている黄緑色の布である。

「やっと着いた・・。ここが“あのヒト”が言っていた場所、その1だね。」

「その1って、何だかその2でもその3でも何でも出てきそうだよな。まぁ、2までだけどな。ここで合ってる筈だ。途中の分かれ道を左、間違いない。」

ラークはふん、と鼻を鳴らす。先ほどおいしいアップルパイをご馳走になったもんだから上機嫌である。

「そういえば、あのヒトの・・・警告ってことで言ってた言葉、覚えてる?しっかりと守れよ?」

「あぁ、分かってる。“どんなことがあっても本音を零してはならない”だろ?」

「そうそう。その“どんなこと”は行ってからのお楽しみ、って言ってたけど・・・何があるんだろな?」

「さぁ?でも、あんな実話を聞かされたから、軽はずみな言動だけは出来ないよな。」

 

10分ぐらいの映像。そこへ訪れた人間が本音をもらしたところ、街に引きずりこまれて惨殺されたという。勿論その証拠として、白骨化した遺体の映像も映し出されていた。

“信じるも信じないもお前ら次第。だが、それで命を落としても知らないからな。”

 

まだ彼らは20にも行かない子供である。まだまだ命は惜しい。さらに、そのヒトのあまりにもおどろおどろしい剣幕から、信じるしかなかった。

ごくり、と喉がなった。

 

彼らは街の前にまでたどり着いた。扉の前にまでたどり着いて、その堅固さに思わず感嘆の息を漏らした。

「ここ・・・こんなに頑丈になってるけど・・・本音漏らさないでちゃんと答えられたとしても、入れるのかな。」

「中は賑やかみたいだから、ヒトはいるみたいだけどな。」

 

二人は周りを見回した。近くに設置してある簡素な木製小屋がどうやら入街管理を行っているところらしい。

秋は軽く扉をノックする。

「あ、はいー。開いてますよー。」

そういった声が聞こえたため、秋はゆっくりと中へと入っていった。

「お邪魔します。」「どもー。」

中で椅子に座って考え込んでいたのは若い警備員。しかし普通の警備員のように整った制服をしているわけではなかった。目に付くのは身体いっぱいの色、色、色の数。元が群青一色であったでものの上に赤やら黄色やら水色など、群青にそのまま落としたように広がっていた。さらに考えこんでいる警備員は白いキャンバスの前で、左手に絵の具を落とす板を、右手に絵筆を持っていたため、どうやら絵を描いているだろうことは分かった。

その警備員は、秋達が中に入ったことを見ると、絵筆と絵の具板を放すことなく、さらに椅子から立つこともなく首だけをこちらに向けた。

「あ、どうもどうも。ちょっと手が放せなかったもので。・・・街に入りに来たんですね?それでは・・・えっと、手がふさがっていますのでこの状態で失礼いたします。」

「は・・・はい・・。」

「あぁ。」

言葉を選びながら、秋とラークは言葉を発する。いつ、本音が危ないという警告が発生するのかが分からないため、自然に言葉も途切れ途切れで、少なくなる。

 

「さて、簡単な質問の後、ちょっとした問題を出すのがこの街に入るための審査の特徴となっています。まぁ、肩の力を抜いて答えてください。」

「分かりました。」

「あぁ。分かった。」

 

質問はこういった審査が必要な場所で聞かれる様なことと同じであった。

滞在人数、滞在日数、滞在目的、滞在途中のホテルの要望、旅の目的などである。

ラークが答えると若干心配なところがあったので、すべての質問に秋が丁寧に答えた。途中途中、丁寧すぎて警備員に怪訝な顔をされたが、殺される要因とはさすがになりえなかった。

「はい、これにて質問は以上です。お疲れ様でした。」

「あ、ありがとうございます。」

「あとは、問題だけだな。」

意外に楽勝だな、とラークがぼそっとつぶやいて、秋はこれ以降の“問題”ってのが曲者なんだよ、きっと、とラークに耳打ちした。

 

・・・そしてその予想は見事に当たる。

 

 

「先ほど行った問題っていうのは、これから私が描いた絵を当てることです。私が簡単な生き物の絵を描くので、それが何かを当ててください。簡単でしょ?」

そう警備員は嬉々とした表情で言った。さらに続ける。

「私は、この街の中で最も絵がうまいとされている人間です。この審査を行う、ということが決まってから誰が適任かということを話した結果、私が選ばれました。いつだってゆっくりと絵を描くことが出来るし、静かだし、それに絵がうまいっていう称号を得たようなものですから、こんな名誉あることはありません。」

「そうですか、それじゃお願いします。」

「よっしゃ、そんなヒトの絵なら大丈夫だ。」

 

ここに来るまでに言っていたことは嘘だったのだろうか。悪い本音を言うようなところなど、どこにもなかった。むしろ、うまい絵を見ることが出来るのだから得であるような気もするのだが・・・。

10分ほど待った。その間秋とラークは、用意された小さな椅子に静かに座っていた。

秋とラークの場所からは、何を描いているのかはまったく見えない。警備員は警備服が汚れるのをまったく気にすることなく絵筆を動かし続ける。その顔は生き生きとしていて、まるで無垢な子供のようだ。言葉をかけることも憚れるような姿に、秋達はただ呆然と見つめているしかなかった。

 

「出来たっ・・。」

恍惚とした表情で、警備員はキャンバスの横から秋達の顔を見た。

「出来ましたよ。あなたたちはラッキーです。私が描いた中で一番の傑作ですよ。

この独特な色使い、それでいて斬新なデザイン。傑作中の傑作。これを街の中で売れば、何億という値がつくこと間違いなしです。」

「そ、そんなにですか。俺達のために、ありがとうございます。」

「早く、早くっ。」

「いえいえ、私が好きでやっていることですから。それでは見てもらいましょう。タイトルはなんでしょーーーか?」

 

ばん、とキャンバスを両手で持って秋達のほうへひっくり返した。

 






 

 

 









「!!」

(・・・・。)

秋とラークは唖然としていた。そして、妙に突っ込みたい衝動に駆られた。しかしそんなことをすれば、あのとき見た映像の中の人間の二の舞だ。喉のあたりまで出掛かっていた言葉をごくりと飲み込んで、何とか心の中で叫ぶだけに留まった。

(へ・・・下手くそっ!?)

(な・・なんだこれっ!!これが・・・・最高傑作!?)

ここで亡くなった人間は、この本音を思わず出してしまったのだろう。突っ込み性には耐えられない・・・そんな絵だ。現に、そんなに突っ込み性ではない秋達でも、思い切り突っ込んでやりたい。

 

(そんな下手なの・・分かるわきゃないっ!!!!!)

 

秋達が黙っているのを、考え込んでいるのと勘違いした警備員は、尚も嬉々とした表情で答えを待っている。

「どうしました?・・・あ、傑作すぎて分かりませんか。ごめんなさい、ちょっと描き始めるとこう湧き上がる思いを止められないもので。」

「そ・・そうですね。」

「あ・・・あぁ。」

 

これは何だろう・・。ヒト?モノ?だが先ほど、問題でイキモノと言っていた。しかしかろうじてイキモノに見えたとしても何だかはさっぱり分からない。

見慣れたイキモノであろうか?それともこの世界だけのイキモノであろうか?

ラークならこの世界のイキモノを知っているだろう、というわずかな希望を持ってラークを見てみれば、ラークと目が偶然合った。ラークは目だけ左右に動かして分からない、と暗に答えた。ラークも、本音を言ってはいけないという意味を悟ったのだろう。あの時言っていたのは、これに違いない。

 

「さて、そろそろ時間です。答えていただきましょう。」

秋はラークに目配せして、黙っててと小さく言った。秋は自分の精一杯の機転を利かせて、こう答えた。

「ごめんなさい。僕達にはちょっとうますぎて分かりませんでした・・。もっと絵の勉強を一からやり直して出直してきます。ホントにごめんなさい。」

そう秋が言うと、警備員はあからさまに残念そうに、というわけではなくあからさまに哀れむような視点を向けた。秋はそれが少し癇にさわったが、ここでも本音は言わなかった。

そして警備員はラークにも目を向けたが、ラークは素早く目を逸らした。秋がラークに目を向ければ、ラークは口をむずむずと動かしていて、喋りたい衝動に駆られているようだ。



長居は禁物かもしれない。そのときラークが鼻を天井に向けて、思い切り・・

「へ・・へっ・・へっ・・・・へったくっしょん!!!」

 

そう、明らかにおかしいくしゃみをした。秋がびくりと跳ね上がってラークを見た。そして警備員を冷や汗をかきながら見た。しかし、警備員はきょとんとした顔をしていて意に介していなかった。

 

「そうですか、残念ですがこの街に入れることは出来ません。・・・お連れの方がちょっと体調崩れないようですけど・・・お気をつけてお帰りくださいませ。それになんでしょう?ここに来る方はよくくしゃみをされるそうです。ここの絵の具の臭いが合わないのでしょうか??ずっといると何ともないんですけどね。」

「いえいえいえいえ、こんなとこでおっきなくしゃみをしてしまって申し訳ありませんでしたっ。それでは失礼しました。ありがとうございましたっ。」

矢継ぎ早にそう言って秋がラークを連れて外へ飛び出た。走って、走って、走った。

 




街が半分くらいしか見えなくなって立ち止まったとき、秋はラークを下ろして思い切り叩く。

「な・・なにやってんだよっ!!死ぬかと思ったじゃないか!!」

「だ・・だってよぉ。あんなん見せられたら叫ばずにはいられないじゃないかっ!!生きて出れたんだし、よしでいいじゃないかっ。」

「だとしても・・・あれで俺達死ぬことになったら格好悪いにもほどがあるってんだよ!!確かに下手だったけど!!もう、ホントなんだよあの生物ってほどのへたくそだったけど!!もう、こんなんだったら子供が描いたほうがまだマシなものが描けるんじゃないかってほど下手糞だったけど!!」

「・・・お前も下手糞下手糞言い過ぎ。」

「あーー!!もう、もう一つの街行くぞっ!!」

「あー・・別に先進めばいいんじゃね?あのヒトのススメだからって行くことないんじゃ・・・。」

「ヤケクソだっての!!」

「・・・そっか。」

 

二人ともが溜まっていたすべてのものを道すがら吐き出し続けながら、今度は分かれ道の右の道を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

彼らは街の前にまでたどり着いた。扉の前にまでたどり着いて、ここでも同じような街のつくりをしている扉の大きさ、その堅固さに思わず感嘆の息を漏らした。

二人は周りを見回した。近くに設置してある簡素な木製小屋がどうやら入街管理を行っているところらしい。まったく同じだ。

(ほとんどコピペですもの。)

そうどこかで声が聞こえた。

秋は軽く扉をノックする。

「あ、はいー。開いてますよー。」

そういった声が聞こえたため、秋はゆっくりと中へと入っていった。

「お邪魔・・・します。」「どもー。」

中で椅子に座って考え込んでいたのは若い警備員。しかし普通の警備員のように整った制服をしているわけではなかった。

目に付くのは身体いっぱいの色、色、色の数。元が群青一色であったでものの上に赤やら黄色やら水色など、群青にそのまま落としたように広がっていた。さらに考えこんでいる警備員は白いキャンバスの前で、左手に絵の具を落とす板を、右手に絵筆を持っていたため、どうやら絵を描いているだろうことは分かった。その警備員は、秋達が中に入ったことを見ると、絵筆と絵の具板を放すことなく、さらに椅子から立つこともなく首だけをこちらに向けた。

「あ、どうもどうも。ちょっと手が放せなかったもので。街に入りに来たんですね?それでは・・・えっと、手がふさがっていますのでこの状態で失礼いたします。」

「は・・・はい・・。」

「あぁ。」

対応がまったく同じなので、若干肩を落としながら答える。

 

「さて、簡単な質問の後、ちょっとした問題を出すのがこの街に入るための審査の特徴となっています。まぁ、肩の力を抜いて答えてください。」

「分かりました。」

「あぁ。分かった。」

 

質問はこういった審査が必要な場所で聞かれる様なことと同じであった。

滞在人数、滞在日数、滞在目的、滞在途中のホテルの要望、旅の目的などである。

今回の街では、本音を言っても大丈夫ではあるが、あまりに言い過ぎると殺される・・という忠告を受けていた。まぁ、そこまで他人を馬鹿にするようなことは、秋達はしない。きっと。

 

「はい、これにて質問は以上です。お疲れ様でした。」

「あ、ありがとうございます。」

「あとは、問題だけだな。」

 

(さて、来たよ。問題。結局ここが入れない状況を作り出すんだよな。)

(どーせ入れないんだ。気軽にこたえよっと。それか・・秋にまかせるのが一番だな。)

 

もうどうでもいいと思いながら、秋達はそれに備える。若干前の街よりは落ち着いているようだ。

 

・・・そしてその予想は一度ならず二度までも。

 

 

「先ほど行った問題っていうのは、これから私が描いた絵を当てることです。私が簡単な状況絵を描くので、どんな場面かを答えてください。簡単でしょ?」

そう警備員は嬉々とした表情で言った。さっきと違うな・・と秋は心の中で呟いた。

さらに警備員は続ける。

「私は、この街の中で最も絵が下手・・・とされている人間です。この審査を行う、ということが決まってから誰が適任かということを話した結果、私が選ばれました。絵を描くことは出来ますが、静かで誰もいないし、それに絵が下手だっていう称号を得たようなものですから、街のヒトに見限られて孤立させられたと考えてもいいぐらいです。でも、絵を描くことが一番の楽しみですから、あまり苦にはなっていません。私の絵が原因で入れなくても、恨まないでくださいね。」

嬉々とした表情が、一気に暗くなった。

「そうですか・・・それじゃお願いします。」

「きっちり当ててやるぜ。それなら文句はないっしょ。」

 

今回は先ほどと違って、とことん後ろ向きだ。街の中で一番下手糞・・ということは前の街より下手であったりするのだろうか?それは絶対にありえない。

というか、そんな人間の絵を審査に使うなんて・・・街に入っても歓迎する気はないのだろうか?

いや、街に入れる気すらないのだろう。

 

10分ほど待った。その間秋とラークは、用意された小さな椅子に静かに座っていた。

秋とラークの場所からは、何を描いているのかはまったく見えない。警備員は警備服が汚れるのをまったく気にすることなく絵筆を動かし続ける。その顔は生き生きとしていて、まるで無垢な子供のようだ。言葉をかけることも憚れるような姿に、秋達はただ呆然と見つめているしかなかった。

 

「出来たっ・・。」

恍惚とした表情で、警備員はキャンバスの横から秋達の顔を見た。

「出来ましたよ。まぁ、出来は普通です。でも、いつもよりはうまく出来たような気がします。といっても、街に持っていったらすぐにでも下手糞だって燃やされてしまうんですけどね。」

「そ、そうですか。・・・俺達のために、ありがとうございます。」

「早く、早くっ。」

「いえいえ、私が好きでやっていることですから。それでは見てもらいましょう。どんな状況でしょーーーか?」

クイズ番組のような声と共に、ばん、とキャンバスを両手で持って秋達のほうへひっくり返した。

 

 

 

 

「?」「??」

下手、ではない。さっきの街とは月とすっぽん。象とみじんこ。そのぐらいの差があるぐらいにうまかった。芸術・・という域ではないだろうが普通に見れる。絶対に悪くはない。

「絵、うまいんですね。」「あぁ、さっきの街より・・・ふがっ。」

思わずラークの口を塞いでしまった。何となく、だが。

「皆さんよくそう言われます。でも、同情してくれてるってのが分かるんです。私が、街の中で一番下手糞ってことを聞いたからそういうことを言ってるんでしょ?」

「ち・・違いますって。」

「おうおう、ぜんぜんっ!!さっきのより・・・・ふがっ。」

また、口を塞がれる。

「そうですか・・・全然・・ですか。全然ってことは・・後に否定語が来るんですよね。全然駄目。分かっています。分かっていますとも。」

とことん落ち込んで落ち込んで。そしてゆっくりと弱弱しく微笑んだ。

「それでも・・・好きだから止められないんですよ。絵を、描くことを。・・・それでは答えてくれますか?」

 

さぁ、と警備員が言って、秋とラークは考えた。やはりここは簡潔に答えるべきじゃないのか、と考え・・今度はラークが答えた。

「待ち合わせ・・・シーンだな。どうだろ?」

うんうん、と秋が頷く。すると警備員は、わずかに顔をあげて・・・そして深くため息をついた。

(・・・間違った?)

(嘘だっ。それしかありえないでしょ・・。)

 

「ごめんなさい、やっぱ分からないですよね。それと共にもう一回ごめんなさい。あなた達を入れることは出来ません。規則ですので。」

はずれたらしい。警備員はさらに肩を落として、別のキャンバスを持ち出して絵を描き始めた。その空気が、もう出て行ってくれという空気をかもし出していた。

 

「そうですか・・残念です。でも、くじけないでくださいね。描けば描くほど上達していくものですから。頑張ってください。陰ながら・・応援してます。」

「何だか・・ごめんなっ。」

 

そうやって、扉に手をかけ・・外へ出て行こうとする。そして聞きそびれたことを、秋は聞いた。

「で、答え・・・なんでしょう?」

 



 

警備員は、はっと我に返ったように顔をあげ、それはもう嬉しそうに答えた。

突然立ち上がり、演技を始めた。

 

「もう!!30分も遅刻っ!!私が待たされるの嫌いだってこと知ってるでしょ!!お詫びとして何かおごってよねっ!!」

「悪い悪い。ちょっと電車が遅れちまってさ。」

「それでもメールぐらいよこしたらどうなのよ。遅れる、ゴメン。そんな10文字程度の文章でも伝わるでしょ!!」

「ゴメンなぁ。ちょっと電源切ってて。あとでおいしいとこ連れてってやるからさ、カンベンしてくれよ。」

「ふん、分かったわ。それじゃ、あなたに任せるわよ。期待していいのよねっ。」

「ホントごめんな、大好きだよ、ちゅっ。今日の夜はゆっくり・・な?」

「ちょ・・ちょっと何やってるのよ!!こんな街中で!!べ・・別に嬉しくなんかないんだからっ!!それに・・今度遅刻したら許さないんだからね!!ふんっ。」

「待ってくれよ〜っ。」

「私だって大好きですよ〜。べ〜っだ。」

 

 

「・・・・というのが答えですが、何か?」

 

 

 

(・・・・分かるわけねーって。)

(一人二役・・・かよっ;;)

 

その場を釈然としないままに離れていく。

怪訝な顔を、ずっと警備員はおくっていた。

 

 

「それで、どうしました?」
そのヒト、別れ道を戻った先にある小屋の住人・・・猪獣人は言った。

思ったとおりだ、という顔でけらけら笑っているのが少々気に障ったが、言うならこのヒトは命の恩人でもある。
それにこのヒトが焼いてくれたアップルパイは格別だ。気に障ったことなど思い切り吹っ飛んでしまう。げんにラークは上機嫌だ。

「どうしたも何も、そのまま居たたまれなくて帰ってきちゃいましたよ。あれは・・・誰でもきっとそうします。」
「だよなぁ。前の街もひどかったしなぁ。あれは結局何なのか聞いてくるの忘れたな・・・。何だったんだ、あれ?」

そう言った後、ラークは器用にペンと紙をもち、すらすらっと描いてみせた。やはり今でも何の絵だかは皆目検討もつかない。秋が悩んでいると、どれ・・と言って猪獣人はその絵を覗いた。ふむ、と一つ息を吐くと、答えはすぐに出た。

「ふむ、これはあのあたりに生息するチュキカチャラズという生きものですね。」
即効で答えた彼に、二人が深くため息をついた。
「なんだよ・・・それじゃ分からないも当然、絵がうまかろうが下手だろうが関係ないじゃん・・・。まぁ、どんな生物か分かっていても描かれているのが何か、というのは分かるとは限らないけど。」

「俺も初めて聞いたぞ。チュキキャチャラズ・・・。」
「チュキカチャラズ、です。」
「・・・チュカラカラデズ?」
「・・・もういいです。」


「でもあの二つの街の詳細を知っているってことは、あなたもあの街のどちらかの生まれなんですよね?絵は、描いてるんですか?」

秋が尋ねると、よくぞとばかりに猪獣人は立ち上がり、部屋の奥へと消え、すぐにキャンバスを持って戻ってきた。

「私は、絵の上手い方の生まれです。それでは私の作品をお見せいたしましょう。」
その作品は、まさに芸術と呼べるものだった。クマが寝そべり、のんびりと陽だまりの中眠っている。見ているだけで心が和み、そして癒される。

温かい光が体を包み込み、そして心までもが照らされているようにぱっと明るくなる。

そんな絵だ。

「素敵な絵・・・ですね。」

「そう・・だな。」

それしか言葉が出てこないぐらいの作品であった。

「この作品の名前、何て言うんですか?」

秋は聞いた。そしてすぐに気付いて、後悔したがもう遅かった。ラークも気付いたらしく、あ・・と一言発した。

 

「この作品の名前はね・・・。」

 

 

 

 

 

「“くまちゃん、日向ぼっこで、ぷかぷかぷー”だが?」

 

 

 

・・・・・結局、イミワカンネ。

二人は心の中でつぶやいた。

 

 


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