第五話 今自分に出来ること

 

ここに来て二度目の目覚め。当然のことながら、暖かい空気も耳に届く水のさらさらという音も変わらない。こうして今日、昨日と同じように布団もろくにかけずにうつ伏せで眠っていることもすでに二度目。変わっているのは、自分は昨日とは違う姿になっているだろうことである。そしてそれが元の人間の形であってほしい、と秋は願っていた。

それでこその昨日と一昨日の痛みである。出来るならばあの苦しみは味わいたくないもので、さらに昨日はまた別の痛みが秋を悩ませていた。

痛みと共に感じる胸の熱さ。そしてつい意識してしまう感情。その感情に慣れていないせいか、頭の中は整理できずにぐるぐる回っている。

 

目を瞑ったままでも感じる手の感触、それは自分と共に苦しんだ仲間、友達、はたまた親友?

自分が昨日感じたものを振り払うように、その手も振り払う。ふわっとした毛の感触が、手を撫でる。

 

(ちくしょう・・・)

 

とりあえず起きて顔を洗わなければならない。こんな気持ちは一緒に洗い流してすっきりさせるのが一番である。そしていつもどおりにラークを起こして・・つまりそれは叩いて、というわけだが・・ラグたちのその後のことも知りたいし、もう少しニックに話も聞きたいし、やることは中々多いものである。

「んっしょっと。」

ゆっくりと身体を起こす。腰をあげて、手をついて、ぐっと伸びをする。頭の先から尻尾の先まで。

ぐーーっと。・・・・・・ん?

 

 

「尻尾?・・・は?戻ってない?」

 

頭の先から尻尾の先。白い毛に覆われているのは昨日と同じ。この時点でもう元の姿に戻っていないことは分かることなのだが・・・。

「・・・さらに酷くなってる?いや、酷い・・・でいいのかな、これは。」

等身の高い身体。目線は人間目線に戻っていた。しかし、毛に覆われている。ということは・・

 

(今度は獣人型・・・。)

それに全裸。服を着ていない状態から姿が戻れば全裸になるのは当たり前、それなのに服を用意していなかったのはちょっとしたミスである。後悔。

元の姿に戻らなかったことが問題。そして別の姿になったことでさらに問題。よって大問題。

 

「そうか・・・。」

自分達は螺旋的に種族を回っているのだ。人間・獣・獣人という形質変化。

秋の変化はこうだ。

一日目は人間・二日目は獣・三日目は獣人。ということは明日にはきっと。

 

(さて、ということはラークは・・・。)

一日目は獣。二日目は獣人。三日目は・・・

(人間、か。)

昨日服を着ていたから、勿論ラークの格好は決まっていて、昨日と同じシャツとパンツ姿。

髪は黒に近いグレー。細い体系にしっかりと引き締まった身体。無駄のない整った筋肉。顔は少し幼い感じだが、乙女心をくすぐるような精悍な顔立ちをしている。獣人の時より、身体が縮まっているためシャツが少し大きい。しかし逆にそれがラフにシャツを着こなしているようで似合っている。間違いなく人間世界のほうに来ればモテるだろう。

 

(寝顔・・・可愛いや。ふふふ。)

秋はいつもどおり叩いて起こすのを辞め、揺すって起こすことにした。こんなに綺麗な顔をしているんだったら、昨日なんか引っかいて起こすんじゃなかったなとか、またそれよりも前のことまで反省をしてしまうほどだ。

「おい、ラーク。起きろー。」

「ん・・・あぅ・・。」

あぅ、だって。寝返りを打って丸くなった姿は、人間なのに犬のように見える。反応を見せたラークは、ゆっくりと瞼を開き、そして秋の方へさらに寝返りを打ち、寝ぼけ眼を擦った。

「あー・・・。」

「起きた?ラーク。凄いや・・・人間に変わったことで、いつもより寝起きがよくなってる。」

四つん這いでラークを覗くと、ラークは、んー・・とまだはっきりしない返事をしていた。そして目の前の秋の姿を見てさらに目を擦る。視線は寝ぼけ眼のまま前へ。

 

 

ただし、全裸の。

 

 

惜しげもなく目の前で晒した秋の全裸の手の間の奥。

奥、ぶらりと垂れ下がっているモノ。

 

秋本人が忘れていたってのもあるけど。しょうがないとかそんなんどうでもよく。

 

「んー、目の前に小さいソーセージー・・・。くぅー。」

 

電池の切れたようにまた布団にラークが突っ伏すのと、

「前言撤回!!いや、前思撤回!!」

赤面した顔のまま、秋が拳を振り下ろすのとは・・・・

 

ほぼ同時だったわけである。

 

 

今日もガゴン!!と一日が始まる。

 

 

「いったぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

***

リビングではテーブルに向かい合ってラグとニックが食後のコーヒータイムを楽しんでいた。食後の優雅なひと時。満腹なお腹に流れ込む芳醇な香りとコクのある深み、そして苦味。すべてを忘れさせてくれるようなそののんびりとしたひと時に、会話と言う花を咲かせる。昨日の夜からすっかりわだかまりを失くしていた二人の、久方ぶりの時間。そんなとき、かちゃりとドアが開く。

来るとしたらあの二人しかいないだろう。

「おぅ、おはよう。ちゃんと戻ったか〜・・・・って。」

ラグがコーヒーを持ったままドアのほうへ目を向け、そして絶句。コーヒーを持つ手が止まり、そして手の揺れがなくなってコーヒーに波紋が一つも出来ないほどに停止した。

「ん、どうしましたか?」

ラグが固まっているのを見て、ニックも同じようにラグの視線を追う。そして。

「は?」

掛け布団にくるまった秋と、頭をさすったラークを見て、同じように固まる。

 

 

「すいません、服を貸してもらえませんか・・・?毛で覆われているとしても何だか落ち着かなくて・・・。」

「あいたたた。」

 

ラグとニックの二人がずっと固まっているのを見て、秋とラークが首を傾げる。

「え?どうしました?」

「ははは、戻らなかったさ。」

 

 

沈黙。

 

 

 

「ほ・・・ほんっっっっと申し訳ありませんでした!!」

秋達の姿を見て、20秒ほど静止した後。ほぼ直角に上半身を曲げて謝ったのはニックのほうだった。深々と何度も頭を下げる姿は、何故か謝りに謝り続けている情けないサラリーマンを思い出す。それを見て、逆に申し訳なく感じて、いえいえと秋達も必死にぺこぺこ頭を下げる。

「いえ、もう二度目ですし。それにもうこの流れだと明日あたりに戻るんじゃないかって分かったような気がしますし。そんなに気にしないでくださいね。」

「俺としては、毛がないのが逆にむずかゆくてしょうがないんだけどなぁ。はよー戻りたいな・・・ってがっ!!」

「ラーク。」

「あ、すまん。」

必死に片手で掛け布団を押さえ、ラークにゲンコツをあびせた秋は、さらに肩を落とすニックへの対応にも大忙しである。

「す・・すまんな。」

ラグのほうはと言えばただ苦笑いを続けている。謝ろうと思ったのだが、その役目をニックに、それも思い切り取られてしまったため、所在なさげに佇むしかなかった。それでも、以前とは違う殊勝な態度がそこにはあった。ニックとしてはこれがラグに望む最高の姿なのだが、今はニックも動転していてそれどころではない。

「お前もちゃんと謝れ、こんのドアホ!!」

「ぐがっ!!」

無理矢理身体を曲げられて、声が身体と共に悲鳴をあげる。こんなところで自分の運動不足を実感するとは思わなかった、とラグは内心で反省していた。

ラグがくぐもった声で腰を押さえて身もだえ、ニックがさらに自分のせいであったかのように謝り続ける。ラークはまだ寝ぼけ眼を擦り擦り、もう飽きたようにあくびを漏らした。

秋だけが、ニックの頭を必死に上げようと対応し、そして言葉を口に出す。

 

「あの、ごめんなさい・・・。それより、服貸してください。」

再度容赦なく、ニックの謝罪の嵐が続いた。秋の下半身がスースーし続けた。

 

 

 

 

**

「とりあえず落ち着いたみたいですね。」

すぐに秋にシャツとズボンが渡され、食事が振舞われた。卵焼きにご飯に味噌汁、海苔。簡素ながらにも食欲をそそられる食事をもらい、秋達4人はリビングでくつろいでいた。

「ええ、すいません。取り乱してしまいました。ほんっとすいません。」

「いえ、もう謝らないでください。」「これ以上・・ふがっ」

これ以上謝られると逆にこっちが迷惑・・・と言おうとしたラークの口を秋が塞ぐ。ちなみに、獣特有の鼻がないので、塞ぐのも簡単である。

 

秋達は、昨夜の報告をラグに向かって行う。発熱、痛み、変化の兆し。そして異常なまでの胸の高鳴り。恥ずかしがってか、自分達の秘部が固くなっていたことは避けて話した。

ふむふむと頷きながら、にやりと顔を緩めた。どうやら完成にたどり着いたようだ。

 

「それで、ニックさん。そっちはどうだったんですか?」

「その様子だと、まあ、うまくいったんだろーな。」

ニックは頷き、やっといつものにこやかな笑顔に戻っていた。謝られているときの近づかれているときの剣幕と言ったらない。間近であれを見た人は、ニックが怒っているときよりも恐ろしいと感じるのではないかというほどだ。細い目から覗く真っ黒な瞳、今にも首をくくりそうな表情。

思い出して、秋が肩を震わせた。

 

「なんとか。ラグともこうしてわだかまりなく話せるようになりましたしね。ありがとうございます。」

「俺は、別に・・・まぁ、なんというか・・強引に納得させられたような気もするが、とりあえずは落ち着いたってところかな。俺からも感謝する。」

「いえいえ、俺達は何もしてないです。」「なー?」

 

4人で笑い合っていた。秋とラークは出されたコーヒーに手をつけ、毛に覆われていないラークがコップを持ってあちっと悲鳴をあげた。秋はやはり飲みにくい、と不平を漏らす。ただ、獣人になったことで手が自由に使えるようになったため、それなりに満足しているようだった。ニックとラグは二人の微笑ましい姿を見つめて、秋達の話に聞き入る。

秋は自分の世界のことと今まで出会った仲間達のことを話し、ラークは自分の時空管理局での働きについて自慢した。ニックはラークが時空管理局で働いていたことを知って大層驚いていた。

(こんな幼い子でも派遣されるような時代になったんですね。世の中変わり始めているってことなんでしょうか。)

一人、そんなことを思う。ラグの方は、自分がこの街に来てから作った薬品について話をする。毛生えに目の良くなる薬、病薬。ここまで何人が犠牲になって来たのかを考えて、秋とラークは苦笑いした。特に毛生えの薬の中では、逆の効果が出てしまったものもいたに違いない。

 

・・・お察しします。

 

 

ニックには魔法の感覚がどんなものなのかを教わっていた。

身体の奥底からイメージし、それを指の先へと通し集中する。そして呼吸を整えれば合図のように身体が動く。そして筆を走らせ、それを具現化させる特殊な、現代語では理解できないような言葉を発する。そうすることで具現化。

実際にまた犬を描いてもらい、触れられないが走り回る犬の絵を眺めていた。

 

 

 

 

そんな和みの時間。

 

それがこんなにも簡単に壊されるとは思っていなかった。最初に気付いたのは秋だった。

「何か・・外が騒がしいような気がしますが・・・それに何だろ・・この臭い。」

「ん?何かあったのか秋?俺は何も臭わないけど。」

秋は獣人になって特化した鼻をひくつかせた。人間になったラークには分からないのだろう。ただ首を傾げ、そしてやがて聞こえてきた声に外を見た。

「私も感じました。何か・・・嫌な感じです・・・。」

「・・・・。」

ニックはゆっくりとソファから腰を上げ、ずれた眼鏡を整えた。ラグはただ黙っていた。

 

「あ・・・・。」

窓へと歩み、そして外を見たラークが絶句し、そして後ずさる。その目は大きく見開かれていて、わなわなと震えていた。

「ど・・・どうしたんだラーク。・・・・!!」

秋も窓を見た。そしてその光景を見て、言葉を失う。口を半開きにして、ただ見つめていた。

 

呼び戻される記憶。

 

「おい、まずいぞ・・・ニック。これは・・・。」

嗅ぎ覚えのある臭い。そして外から漏れ聞こえる叫び声。光景。

「どうやら・・マズイことになってきたみたいですね・・。」

細い目をより細めて、眉根を寄せたニックはラグに手を貸し、立ち上がらせた。

 

「ラグさん、ニックさん!!これってまさか!!」

「・・・これは・・。」

 

「はい!!どうやら街の中心あたりのようです!!行きましょう!!」

 

秋達の見た光景。それは・・・・

 

「人手がきっと足りない!!早く向かうぞ!!」

 

 

 

 

街の中心部を基点に、燃え上がるカルテスの街だった。

 

 

 

 

 

 

 

**

秋達が駆けつける間の道には消火活動に追われる街のヒト達。流れてくる水をバケツで掬い取って、必死に燃えている場所へと振りかけている。下り坂になっている街中を、秋達は噴水広場へと駆けて行く。

 

そして街の中心、噴水広場。そこには凄惨な光景があった。

周りはすべて火の海。建物から建物へと火が移り、手がつけられないほどに燃え広がっていく。

中央広場にはヒトはすでになく、駆けつけるものは今はいない。

むせ返るような熱さ、目の痛くなるような揺らぎと温度。ごうごうとうねりをあげる炎が、次々と街を襲っていく。

 

(くっ。)

 

秋とラーク双方ともがラシエの村での一件を思い出す。

焼け落ちていく家の数々。そういえばあそこにも噴水広場があった。そしてその噴水広場は赤く染まっていた。小さいものから大きなものまで、亡骸が転がっていた。

消えていく命の数々。鼻が曲がるような臭い。家族の死。

思い出した二人はぐっと胸が張り裂けそうな想いを胸に感じて、胸を押さえた。そしてぐっとこみあげてくる嘔吐感をぐっとこらえ、現実の世界へと目を向ける。

しかし、場所も形も・・・あまりにもあのときと酷似している。それが二人を痛めつける。

 

周りを見渡せば建物の影に座って、へたりこんでいる男がいた。すぐに秋がその男を助けに行く。

今の時間帯、噴水は止まっていた。そして噴水が出ていた石台のそばに小柄な人間の男が立っていた。何もなければ声をかけて避難を呼びかけただろう。しかし状況が違っていた。

ただ立っているだけではなかったのだ。

 

男を含めた秋達全員が、その男の異形の姿に驚きを隠せなかった。

 

その身に纏った炎。渦巻くように男の周りを回っていた。それは生きた蛇のようにぐねぐねと蠢き、男の身体をすべっている。しかし男は暑がる様子もなく、寧ろ顔には鬼の形相の微笑を浮かべていた。原因はこいつである、と即効で看破できる状況に、そして一瞬で感じる危険に全員が息を呑む。顔をゆがめて笑う姿は・・・ラシエの村でのエルを彷彿とさせる。

 

「た・・・助けてです・・・。兄貴を・・・助けてです。」

秋に肩を貸してもらい、身体の数箇所が焦げた小柄な男がそうつぶやいた。秋がそれを聞いて、顔をしかめる。

「兄貴?あなた、あそこにいるヒトの知り合いですか!?これは・・・どういうことですか!!」

「てめぇ!!何をしやがった!!」

「ラーク、落ち着いて!!」

言及する秋と、詰め寄り胸倉を掴むラークに、男がううっとくぐもった声を発する。何か言うことを躊躇っているようだった。

「私達・・・ちょっと金目のものを盗みにこの街に入ったんです。それが・・・それは失敗に終わったんです。それでちょっと兄貴いらついてて・・・そんで夜ここを抜け出そうと算段していたらです・・・何か赤く光るもの見つけたんです。で・・それを手にとった瞬間、兄貴がぼーっと動かなくなってです・・・・。ちょっとおかしいなって思ったんですけど、そのときはゆっくり外で野宿してたんです。そして朝・・・私が起きたときにはもう兄貴の姿がなくてです・・・それで来てみればこんなことに・・・です。必死に語りかけたんですが、まったく私を認知してないみたいでおかしいんです。」

 

「な・・・。」

「!!」

それを聞いた秋とラークの顔が曇った。

「ラーク!!まさか・・・ここでも赤い石が!?」

「あぁ!!そのまさかだ!!」

 

どういうことだ、とラグとニックが視線を向けたのを見て、秋が簡単に説明をする。

「最初、見たのはラシエの村でした。願いを叶えてくれる代わりに自我を徐々に失わせ、異能の力を与える石です。それが・・・この街にもあったようなんです。ラシエの村では・・・ラークの家族がそれが原因で殺されました。」

目を伏せて、ラークが唇を噛みしめる。

 

「そ・・・そうなんですか。」

「ちっ、意味分からねえ!!何でそんなもんがここにっ!!」

ニックとラグが熱風に顔をしかめて拳を握りこんだ。自分の愛した街が壊される。それも訳の分からない石のせいで。それが許せないのだろう。

 

「お願いです。兄貴を助けてくださいです!!兄貴は元はあんなんじゃないんです!!もっと優しくて頼れて、それでいて格好いいんです!!」

 

男が嘆願して秋にすがりつく。秋は下がっていてくださいと小さくつぶやいて目の前の状況に対峙した。触れるだけで火傷・・・いや、身体全体を灰にされそうな気もする濃い蠢く炎。彼を纏っている炎には何か憎悪のようなものが感じられる。

 

 

「俺は・・・最高の盗人だ・・・。それを汚されたこの街を許さない・・・。俺は最高の盗人になるんだ!!こんな街・・なかったことにしてやる!!すべて焼けてしまえ。すべて・・・すべて・・・ははははは!!ひひひひひひ!!!」

 

最高の盗人になること、それが男の望み。そして、それを叶える予備軍となっている状況がこの男の状態だ。なるためには何をしても構わない、そういった考えを植えつけられたのかもしれない。

 

高らかに笑い、そして手を突き出す。すると、男の纏っていた炎が秋達をめがけて飛んでくる。うねうねと蠢きながら、一直線に飛び掛る蛇のように。

「くっ!!」

4人が道に伏せると、その上を高熱の炎が通り過ぎていく。過ぎていった炎はそのまま飛び、坂に当たり、地面を穿った。その先にも黒く変色した焦げた道が放射を描くように出来る。それを見て、冷や汗を浮かべる。あんなものをくらったら、きっと黒焦げでは済まされないだろう。

 

「秋!!」

「分かってる!!」

ラークが叫ぶと、秋は頷いて自分の手に力を込める。ニックに教わったものを参考にして、気を練りこむ。秋の持つ意志の力。赤い石の持つ呪われた力を打ち消し、破る方法。

身体の中から街を守りたい、街のヒト達を救いたいという意志が生まれる。男の願いも受け取った。この街を火の海にさせたくない。そして、ラークと同じようなめにあわせたくない!!

 

秋の意志の力、そしてラークのスピードで解決をしようとしたその時。

「!?」

しかし、手に集まる力は霧散してすぐに消えてしまった。

身体に湧き上がる想いは真実。救いたいという願いも真実。真実なのだけれど・・・。

「ラーク!!駄目だ!!この姿じゃ・・・意志の力は使えない!!」

「お・・俺もこの姿じゃ・・・素早く動けねぇし!!それに爪が使えない!!」

 

(くそっ!!ここに来て何も出来ないなんて!!何の為の力だ!!)

(これじゃ・・・この街を救うことなんて!!)

 

こうしている間にも街は燃え広がっていく。街の中心に面していた何軒かの店が、音を立てて崩れ落ちる。色んなものの焼ける臭いが漂い、鼻をつく。

これだけの美しく水の流れる街が壊れていく様を見ていることだけは出来なかった。

 

 

 

 

意志の力をまだきちんと手に入れていないときのことを秋は思い出していた。

 

駆けつけたが間に合わなかったとき、そして自分の大切な家族を失ったときのことをラークは思い出していた。

 

二人の中で黒く荒んだ思いが渦巻く。

守りたい守れない救いたい救えない助けたい助けられない。

 

 

 

じゃあ、何で俺達はここにいるんだ・・・・?

 

 

 

 

秋とラークが自分の無力さを嘆いているとき、さらに第二波の炎が飛んできた。神経が力を使うことに向かっていた秋達は、飛んでくる炎に気付いていなかった。

「秋君!!」「ラーク!!」

ニックが秋を、ラグがラークを道に強引に伏せさせる。

 

「何をしているんですか二人とも!!死にたいんですか!!」

「てめえら!!しっかり前を見ろ!!ちまちま考え込んでいるんじゃねぇ!!」

そう叱り付けられ、びくりと二人は身体を震わせた。

 

「でも・・・俺はこの・・・力を使わないと・・・何の役にも立てないんです・・・。駄目・・なんです。力を手に入れたって言うのに肝心なときに俺は何も出来ない。」

「俺は・・・俺は・・・スピードだけが取り柄なのにっ!!俺にはただそれだけしかないのにっ。それが出来ないんじゃ・・・この街も・・・俺の村みたいに・・・」

拳を強く握って石畳を叩く秋とラークに、ニックとラグは顔を見合わせ、大きくため息をついた。

 

そして、容赦なくゲンコツをあびせた。

 

「馬鹿野郎!!場所や状況が変わっても自分が出来ることをする。それを教えてくれたのはお前らじゃなかったのか!?お前達の力が何なのかは俺達は分からないがな!!何でも自分達で解決しようとするな!!俺達をもっと頼れ!!」

ラグがラークの胸倉を掴み、唖然とするラークをたしなめた。

 

「あなた達がすべて背負うことはありません。あなた達はまだ若すぎます。時に無力なのが当然のことなんです。だから・・・そんな泣きそうな顔をしないでください。あなたの気持ちは・・・よく分かっているつもりですから・・・。」

 

ニックには分かっている。この気持ちが。

戦場では自分の力はほとんど役には立たない。運ばれてくる仲間達をただ救いたいと願いながら治療をする。しかしそれも間に合わない。そこで自分の無力さを嘆く。手に握る力が強くなる。

 

守りたい、そう思っているのに何も出来ない。助けたい、そう思っているのに力が足りない。

 

“手を離してしまった”

 

そんな状況があった。自分には何も出来なかった。何も出来ずに傍観者としていることしか出来なかった。自分を切りつけてしまいたいぐらいの後悔に襲われて、それでも立ち直ってきた。

 

 

だが、こうも同じことが続くことは・・・苦しすぎる。

 

 

秋はすがりつくように涙を零した。すぐに下に落ちて、熱さの為に蒸発する。

見て、ラグは眉根を寄せた。

 

「じゃあ・・・この街を捨てるんですか!!こうやって街がすべて燃えていくのをただ見ていろっていうんですか!!逃げろっていうんですか!!」

「出来ること、って何なんだよ・・・この状況で何が出来るんだよ!!」

 

そう詰め寄る秋とラークをもう一度抱きかかえて横へ飛び退り、建物の影へと隠れる。秋達のいた場所に小さく爆発が起こり、直径3メートルほどの大きな穴が広がった。

 

「ふふふ、すべて・・・燃えてしまえ。そして俺は次の街へ行くんだ。そしてまた最高の盗人に一歩近づく・・・。」

 

忍び笑いをしてぐるぐると尚も炎を纏っている姿は自信に満ち溢れ、それはこの街が滅びるまで終わることはない。

 

 

秋とラークを立たせ、ニックとラグは自分の街の変わり果てた姿を見つめた。

そして中央広場にもう一度目を向け、そして秋とラークに顔を向けた。

 

 

秋とラークが初めて目にした、とびっきりの笑顔で。

 

 

その笑顔に驚いて、不安が吹き飛んでいく。余裕さえ感じられる。

 

「出来ることがないなら、俺達が作ってやる。それなら構わないだろ?・・・ニック、あれ・・・いけるか?」

「ラグ。奇遇ですね。私も同じこと考えていました。勿論、用意できてますよね?」

 

そう言って、目を見合わせにやりと笑う。そしてラグとニックはポケットから“何か”を取り出した。

 

「こっちはもう何度もやってる。抜かりはないさ。あとはお前の力次第。」

「それを私に聞くんですか?はっ。腕は落ちていませんよ。長い付き合いのあなたの台詞とは思えませんね。」

「へへへ、それだけ言えればこっちとしても問題ねぇや。」

 

 

二人が何度か言葉を交わし、何か作戦を立てているようだった。

それを呆然と、加えて信頼の眼差しで秋達は見つめていた。やがて多少言葉を交わした後、二人は秋達へと向き直る。

 

「ラグさん、ニックさん!!この街を救うことが出来るんですか!?」

「何でもしてやる!!だから、俺達に協力させてくれ!!」

秋とラークがそう叫ぶと、ニックとラグはゆっくりと、しかし強く頷いた。胸を張って、自信をその姿に満ち溢れさせて。

 

 

 

「あなた達に確認します。何としてでもこの街を救いたい、それは・・・間違いないんですね?」

秋が頷く。

 

「こうなったなら、もう何かを出来るのは俺達しかいない。俺達が諦めたらそこで終わりだ。街の全員の願いを背負って、お前達はその重みを持って・・・俺達と一緒に戦えるか?」

ラークが頷く。

 

「多少の危険を伴いますが・・・了承してくれますか?」

「俺達の街を・・・救ってくれるか?」

 

秋とラークが、強く頷いた。

そこに、暗くよどんだ迷いはすでになかった。

 

「よっしゃ!!それじゃ、いっちょやったろうか!!」

「さあ、作戦タイムです!!」

「はい!!」「おう!!」

 

 

第五話 終



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