第三章 イベントの街  カーフィス


 第四話   イベント当日・後編

 

夜は深まってくる。それでも家の光は灯らない。灯るのは街の中に設置した堤燈に見せた電灯。それが淡い黄色の光を伴って街のどこそこで光っている。もしもイベントの最中でなかったら不気味であるに違いない。

しかし、今はイベントの最中。人々の熱気が交じってそれは夜の闇の中で色鮮やかに映えている。それに加え、出店の方も大きな電球をつけ、売り出しに精を出している。

 

人々がごった返している中、秋達はユウタの教えてくれた場所へと足を運んだ。

ユウタとタカトが住んでいる場所、その近くには道なりに進めばそのまま浜辺へ行く。しかし、その道をはずれて小さな、普通なら目に付かないような小道がユウタ達の家の傍にある。

その森の中に出来た小さな道を抜けていくと誰も知らない開けた場所に出ると言う。

教えてもらったとおりにその道を抜ける。ちょっと小高になったその場所は海を眺めるのには最高の場所のようだ。後ろを振り返ると今まで歩いてきた小道が見えるだけ。街の囃子の音は聞こえるがまったくと言っていいほどその姿は見えない。

目の前には大きな海が広がる。今日は満月。その光が海面に反射し、夜空をそのまま映し出しているかのようにきらきらと輝いている。そしてそこに何艘かの小さな舟が浮かんでいる。

「はぁ・・・いいところだなぁ。ここで朝陽とか見たら綺麗なんだろなぁ。」

秋がその場所から見える景色にみとれながら言った。

「はふぅ・・ほろほろはひはるんひゃなひは?」

ラークが口に物を含みながら言う。ここに来る前に大量に買った食べ物の一つ、フランクフルト。

おそらく、言っていることは「そろそろ始まるんじゃないか?」だろう。

「ラーク・・・ちゃんと飲み込んでから喋ろうよ。分かりにくい。ってか食べすぎ。」

そう秋が言うと、「ひぃの、ひぃの」と言ってニコニコ笑っている。これはおそらく「いぃの、いぃの。」だろう。・・・・ちっともよくないと思うんですが。

ここに来る前の時計は確か七時半を少し過ぎた頃だったはずだ。だからおそらくもう少し。

予定通り、遠くで花火の開始を告げるアナウンスが流れ始める。そのアナウンスには「急がないでください」「つめてください」「混雑します」というものも含まれている。

「ちょっと複雑な気分・・・。」

秋が独りごちる。それがしっかりとラークに聞こえ、

「いいんじゃね?見るものは同じだし。」

と、今度はカキ氷を口にする。

ははは・・。と秋は苦笑いして・・・

「まだ食うんかいっ!!」

と、ラークに一発かます。

 

ビーーッ。

八時。正確には二十時。遠くでブザーが鳴り響く。いよいよ開始だ。遠くで拍手が起こっている。

「おっ、始まるよ。」「ほうはな。」

今度は「そうだな」である。もう突っ込むのも疲れた。

 

バーン!!一つの花火ではない音をきっかけとして、暗がりの中の舟の上から火花が散る。

それは小さな粒を上に打ち上げ、波形を描きながら昇っていく。それは空に煙の線を描いていく。秋とラークはそれを目で追う。ラークが咥えていたフランクフルトを喉につっかからせかけて、「うぐっ」とうなったが秋はそれを無視して眺めている。

白い線がだんだんと速度を落として頂点まで達しきる。するとそれは赤い粒子となって四散する。

そして若干遅れて耳を突くような破裂音が砂浜に響く。観客の中で拍手や歓声が起こる。

そして絶好のタイミングで次の花火が起こる。それはオレンジ色の花を夜空に咲かせ、そしてすぐに放物線を美しく描いて海へと落ちていく。落ちて消えかける頃にそれは爆竹のようにキラキラと光を拡散させて輝かせ散っていく。おぉ〜と感嘆の声が上がった。

連続的に一定のリズムで繰り返されていく。

 

「お〜、いいねぇ。最高!!」

秋が缶ジュースを開けて花火に乾杯するように手を高々と空へ向ける。

「秋・・親父くさい。」

すっかり口の中を整理したラークがそう一言言った。

しかし、それは聞こえることなく花火の繰り出す大音響にかき消されていく。

 

花火は続く。

また小さな火種が飛んだかと思うと、それが夜空で姿を消す。

不発かと思いきや、そう思ったすぐ後にそこから小さな花火を生み出し、赤青黄色・・・ほかにも色々なものを花園のように咲かせる。

次々と白い線は上がっていき、特大の花火を形作る。そしてそれが二重にも三重にも重なって一つの色が様々な色彩を生み出す。

今度は、形を変えて花火が起こる。最初に夜空に上がったのは大きな獣の顔。

ネズミ、ウシ、トラ、ウサギ、リュウ・・・見始めてすぐに干支を題材にしていることが分かる。

花火で形を作るというのは簡単なことではない。形、向きなどが合わさってよりよい作品を見せる。

それは申し分なく、秋達にも観客達にもしっかりと見えているだろう。そう感じさせられるほどいい出来だった。几帳面そうなタカトだから出来る技だろう。

その後は花、扇、蝶。正確に作られた花火が鮮やかに空に上がっていく。

 

開いては消え、開いては消え。

連続的にそれは繰り返す。それでも飽きない、その花火には人を惹きつける「力」を持っていた。

 

 

「え〜、しばらくお待ちくださいね」

花火が一端止まり、アナウンスが流れると海に浮いていた舟が動き別の舟がまた動き出す。

 

そして、また火花が散る。次々と打ち上げられる花火。

今度は一つの舟の上、太い管から何発もその場で花火が打ち上げられた。俗に言う、スターマインっていうもの。それは低く上がり、そして一本の色を帯びた線がいくつかにわかれ、そしてまた放物線を描いて落ちていく。

 

「はわぁ・・・・家の近くで見た花火とまったく違うねぇ。俺の世界、負けてる。やっぱこの世界の人との技術力の違いかな?」

先々代が教わったのは日本人だとタカトは言っていた。その技術がここまで発展しているということはやはりこの世界との技術の違いか、それかこの花火師たちの発想力の差か。

何にせよ・・・

「すごい、それしか言えない。」

秋がそう言って缶ジュースの中身を飲んだ。

「だな♪だな♪すごい!!すごい!!あんなの作ってるのかよ、あいつら。すげ〜!!」

ラークははしゃいで、はしゃぎながらカキ氷を食べている。

そして・・・・

「頭、キーンって痛い。」

自業自得のことをやっていた。

 

花火はもうすぐ始まって一時間がたとうしていた。楽しいことは時間がすぐ過ぎる。それを再認識。

「この連発が最終です。」

そうアナウンスが聞こえ、花火が打ち上げられ始める。

それは今までのものを集大成しているようなものだった。花火が空中で色々な色を出し、そして形作り、そして放物線を綺麗に描いて散っていく。

そしてそれは先程までと比べ物にならないくらい大きく、そして小刻みに破裂音を繰り出していく。

最後は連続で特大の花火が上がり、そして幕を閉じる。

観客が名残惜しそうに、それでも大きな拍手を送っていた。

 

 

秋達も夜空に向けて、海面に向けて拍手をしていた。

「いやぁ、すごかったなぁ。うん、満足♪」

そう言って感無量のような顔をしてその場に仰向けに寝転んだ。

「俺、花火初めてだったんだぁ〜。いやぁ、よかったなぁ・・・。あいつら、本当にすげぇよ。」

ラークも同じようにその場に仰向けに寝転んだ。

 

突然起こる静寂。今まで大音量が鳴り響いていたということも忘れさせるほどに夜の海は静かになった。

そしてその静寂をかき消すように近くでがさがさと音がした。

「!?」

その音に驚いて顔を向けると、そこには息を切らせてタカトが立っていた。

「タカト!え!?今終わったばっかなのに・・・・。」

「おぅおぅ、花火師さんの到着だぁ♪」

驚く秋とは別にラークは緊張感のない声を発する。

「はぁ・・はぁ・・よかった、まだいた。ユウタにここにいる、って聞いてな。旅立たれてたりしたら話せることも話せなくなるからな。急いできた。」

肩を上下させながら、タカトは言った。

「あ、ごめん。いつ、出発するって決めてなかったからつい。言わなかった。」

「そうか・・・よかった。」

「で、話すことってのはなんだい?♪」

ラークはいまだ緊張感がない。

「こんなイベント当日の日にこんなこと言うのもなんだがな・・・。俺たちの前の世界でのことだ。」

「!?覚えてないんじゃないの?」

秋が驚いた顔をした。ラークも顔を引き締め、話を聞く準備をする。

「八年前に、浜辺でぼろぼろな格好をしていたっていうことに関係しているのか?」

そうラークが問うとタカトは一瞬驚いて見せ、頷いた。

「あ・・・あぁ。」

「分かった。話してくれよ。」

満月を背にして秋とラークは座りなおす。そしてタカトもその場に腰掛けた。

 

「ここに来る前、俺は・・・・・」

タカトの顔が満月の光で照らされる。

そして突然それが雲で隠れると険しい表情をしたタカトのその顔に影が生まれ、険しい表情をさらに険しく見せる。

 

それが正しいことであるとは限らない。

むしろそれは常識としては正しくはないのだろう。

それでも・・・・

 

「俺は・・・前の世界で・・・。」

 

満月が顔を出し、タカトの顔を照らし出した。







「本当の父さんを殺したんだ。」




一人、ゆっくりと・・・語り始める。






BACK                          TOP                  NEXT