第三章 イベントの街 カーフィス
第四話 イベント当日・前編
次の朝。つまりイベント開始の日。
秋は窓から差し込む光と外から聞こえてくる活気のいい音に目を覚ました。
ぐっと背伸びをして軽く肩を鳴らす。
とりあえず時間を確認しようと腕を見る。
しかし、腕時計はなかった。
「ありゃ?」
そう一言言って気付いた。
「最初から持ってなかったか・・・。」
そう言って苦笑いをして部屋に時計がないかを見回すと、自分の後ろの柱にそれはかけてあった。
短針が七と八の間。長針が六を指している。七時半だ。
時間を確認してから外を見る。イベント日和。空は少しの雲が浮かんでいるが、それ以外は青く澄み渡っている。窓から射す光は惜しみなく部屋の中へと入り、その熱が伝わって部屋の中の温度を上げていた。
暑さによる気だるさ。そして、出てくる汗の量に不快感を募らせながら髪をガシガシとかく。そして、
「ありゃ?」
二度目の疑問符を出し、そのまま鏡の前へ。
「・・・これはひどい。」
寝グセの多さに驚いた。
とりあえず洗面所へ行く際にラークを揺すってみる。ラークはだらしなく仰向けで眠っている。さらに力を加えて揺すると
「う・・?」
ラークが寝ぼけた声で返事をした。秋がラークに街に出ることを告げる。
それでも眠そうにしているラークを見て一つ
「うーっ・・」
と、うなる。そして秋は文字通りラークを・・・
叩き起こした。
「痛ぁ・・今日のは一段と痛かったぞー、秋。」
街の中を少し歩きながらラークは言った。頭の上に小さなこぶが出来ている。
「しょうがないじゃないか、あぁでもしないと起きないんだから・・。」
街の中は昨日訪れた時の状態が嘘であるかのように活気だっていた。
通りでは多くの獣人達と人間達。そして普通の獣達。それぞれが協力し合って準備が行われていた。店の骨組みを作り、天幕を張る。大量のダンボールを運んでいる。おそらくその中には出店の器具や、材料やらなんやらが入っているのだろう。獣達は獣人たちの指示で建物から建物へと飛び移り、旗を通した紐を渡し、通りを華やかに飾っていく。
機械関係に詳しそうな人間と獣人が大量のケーブルを持ち出し、手際よく街中に電気機器をつないでいく。
広場の方も特設ステージが作られ、ステージの上に上った白髪交じりの男が
「マイクのテスト中〜〜。テステス・・。」
とお決まりのセリフを言って調整している。
女性達は朝早くから準備に取り掛かっている人達に忙しそうに飲み物や握り飯を配っている。老若男女、多くの人達、獣人達が準備にいそしんでいた。
「うっわぁ〜、すごいな。こりゃ。」
秋が感嘆の声をあげ、その準備の様子を眺めていた。
「みんなイベントが楽しみなんだな。こうやって街全体で協力し合って準備してるってすごいと思うよ。な?ラーク。・・・・ありゃ?」
ラークの方を向くとその場にいたはずのラークはいなかった。
今日、三度目の疑問符を出しながら周りを見渡す。
・・・いた。
ラークは握り飯を配る女性の近くに寄って握り飯をくれるようせがんでいた。
一つ、その女性が握り飯をラークに差し出すと「やったー。」と大声をあげて大勢の注目を浴びた。
「・・・ったく。あいつはやっぱ花より団子タイプだな・・。」
悪態をついて頭をかき、それでも何か微笑ましい光景に秋は微笑まずにいられなかった。
もっとくれ、と言ってねだるラークを強引に回収して、秋とラークは海の方へと足を向けた。波は穏やか、寄せては返す波が一定のリズムで音を立て、流れていく。
どこまでも青い海が続く。光の関係でグラデーションをつくり、光を反射して、ちらちらと星のように輝いていた。
そして、その海の上に何槽かの船が浮かんでいた。そこには何人かの男達が作業をしていた。
「・・・お、いた。」
その中に秋達はタカトとユウタの姿を見つける。
二人は昨日と同じように甚平姿で、揺れる船の上で準備をしていた。
一番開けている場所、つまり海の上から花火を発射するのだろう。時折、何人かが海の中へ飛び込み、そして出てきては「大丈夫」とうなずいているように見える。
その光景を木陰で眺めているとユウタがこちらに気付き、大きく手を振った。
その顔は笑顔だった。
秋とラークも手を振り返す。
「うまくいったみたいだね。」
「あぁ、安心だ。」
タカトの方は気付いていないらしく、後姿のままだった。
そしてユウタはタカトに呼ばれたらしく、また急がしそうに準備を始めた。
パン、パーン!!
遠くで二つ大きい音が聞こえた。
「さて、そろそろイベントの開始みたいだ。行こう、ラーク。せっかくだから楽しもう。」
「おぅ!!」
秋達は走り出した。
正午、イベント開始。
広場に、街の住人のほとんどが集まっていた。特設ステージ上でタンクトップにハーフパンツ、はちまきをつけた男がイベント説明をする。
広場内はこれからマジックショーの準備に入ること。
マジックショーをやり、大食い大会をやり、カラオケ大会をやり・・と特設ステージ上は常に何かイベントをやっていること。
通りでは出店が立ち並んでいること。
出店の商品もショッピングモールでの商品もほとんどがいつもの値段の半分以下で手に入ること。
海は花火の最終準備ということで入れないこと。
などを告げた。
最後に街の長らしい年老いた男性が演説を加えると、皆、散り散りになって目標の場所へと向かっていった。
「さて、俺らはどこへ行こうか?」
秋がラークと共に人ごみからいったん外れ、そう言うと
「昼飯〜!!」
ラークがルンルン気分でそう答えた。
「うん、言うと思ったよ。」
「よっしゃぁ!!食うぞぉぉ!!」
ラークが叫んで、また人の目を引いた。
通りの出店は種類が豊富だ。
食べ物はカキ氷、たこ焼き、お好み焼き・・・というお馴染みのものが多く立ち並ぶ。
人形焼きではなく獣焼き。(もちろん本物の獣ではなく、色々な動物を真似て作った人形焼きということ)この地方で育ったフルーツを食べやすい大きさに切って飴につけたもの(アンズ飴の類)、そしてチョコバナナ、チョコリンゴ、チョコミカン、チョコブドウ、チョコマンゴー・・・。(?)
すべてチョコに入れればいいってもんじゃないだろう・・と秋が呆気に取られる。
ラークはそれをすべて一つずつ食べ、秋は少しラークに分けてもらった。
意外においしかった・・。(注:真似はしないでください。果物によっては本当にあわないものとかあります。)
さすがはお祭り。ギュウギュウとまでは行かないが多くの人が通りを行き来している。
子供や獣のような背が低いものは大人に肩車してもらったり、ピタリとくっついて歩いていたりする。
と、いうことで・・・。
「うぅ・・重いよ、ラーク・・。」
人ごみの中、ラークの下で秋が苦しそうな声を出した。
「はぐれちゃあ、まずいだろ?我慢、我慢♪」
ラークは秋の上でいまだルンルン気分だ。
「よっしゃ!秋。今度はあっちだぁっっ!!」
ラークが出店(もちろん食べ物)を指差し
「だぁ〜!!負けるかぁ!!」
秋がふんばって声を張り上げる。そしてから、
「う〜・・・。」
小さくうなった。
朝飯を食べていなかった秋達はほとんどタダ同然(というかほとんどがタダ)の出店を次々と回っていた。
そして、さらにその出店の中には食べ物以外にも射的、金魚すくい、型抜きなどのものもあった。
この関係には秋がはしゃいで、次々にと挑戦していた。ラークは変わらず同じようにはしゃいでいた。
秋達は今度は広場の方へも足を向ける。
広場では丁度、マジックショーがやっていた。
演目は「プリンセス月光のマジックショー」らしい。(・・・・・)
少しきつめの化粧をした女性がこれからマジックをするようだ。きらきらと光る、見るからに高そうな服をひらつかせ、ステージの上で観客にアピールする。
テーブルマジック。
手元の様子がスクリーンに映し出される。机の上で、もとは一つだったコインがぱちんと指を鳴らしただけで二枚、四枚と増えていく。そしてそれを一つにまとめて手の中にいれ、ふっと息を吹きかけるとそのコインはもうすでに手の中にはない。つまり消失。
歓声。
カードマジック。
一人の気弱そうな青年がステージに上げられ、その青年にカードを選ばせ、会場に見せる。
女がそれを言い当てる。トランプを女が受け取り、青年がステージを降りると女がカードを宙に投げる。すべてのカードが一瞬にして燃え、消える。
拍手。驚きの声。
ボックスマジック。
アシスタントの男が数個の小さな穴の開いたボックスを持ち出す。
回転させてタネのないことを観客に見せる。アシスタントの男がそのボックスの中に入る。
女はもう一度ボックスを回転させ、それから鎖を巻きつけ、錠をする。
そして、穴に剣を次々と突き立てていく。
客の間で悲鳴が起こる。そしてすべての穴に剣を突き立てたあと、さらにそのボックスに火をつける。するとボックスはすぐに焼け落ち、剣だけがガラガラと音をたて落ちる。
そこにアシスタントの姿はなかった。唖然と見ていた司会進行に何かゴソゴソと耳打ちし、その司会進行が驚く。
「み・・みなさん!!後ろをご覧ください!!」
左後ろを振り返ると家の屋根の上にそのアシスタントがいた。
一瞬のどよめき。そして拍手喝采!!
「イリュージョーン!!」
女がステージ上でそう叫んでマジックショーは終わりを告げる。
次の演目はカラオケ。
カラオケではこの獣人界で有名なアイドルが駆けつけたらしく、街の全体が盛り上がった。
カラオケと言うよりライブみたいだ。と秋が正直な感想を述べる。
ラークのほうを見ると、
「俺、そーいうのうといんだわ。」
と苦笑いしていた。知らないらしい。
大食い大会。当然のようにラークは「俺も出る〜」と秋の上でばたついたが、秋は
「せっかくのイベントなんだからもっと色んなとこまわろうよ。」
と言ってラークを連れて広場を離れる。ラークが切なそうな目で広場を見つめている。
楽しい時間は刻々と過ぎていく。熱気は耐えることなく続いていく。
街は熱気に包まれる。しかし、それは嫌ではなかったし、それが祭りの醍醐味だと感じることが出来る。ケースバイケース。
すべてのものがタダ同然。ラークは食べ物を、秋は今後のことを考え、旅に役立ちそうな携帯食料や品物を買った。
「祭りではしゃぐなんて久しぶりだよ。」
そうラークに聞こえないようにひとりごちた秋は郷愁の念を感じる。
それとは裏腹に、
「さぁ!!祭りはまだまだこれからだぜぃ!!」
そう叫んだラークに苦笑いし、秋はまたラークを背負って走り出す。