第三章 ”イベント”の街 カーフィス
「さっきから気になっていたんだが・・・。」
ラークがいきなり発言をした。
なんだかいつもと違って妙にせわしなくしていて、秋はその行動が気になっていた。
「なんだ?」
タカトが静かに聞く。
「この部屋に赤い石はあるか?」
「!!」
その場の全員がぴくっと反応を示した。
「ラーク!?分かるのか?」
秋が言った。するとラークは鼻をひくつかせた。
「あぁ、なんだか臭うんだ。それに、あの洞窟で感じた嫌な感じがなんとなく伝わってくるんだ・・・・。秋は感じないのか?」
秋は首を横に振った。
驚いた。ラークはずっと赤い石の気配を感じ取っていたのだ。
街に入ってすぐのときもラークは「臭う」と言っていた。
あれはユウタが来た事に対して言った訳ではなく、おそらく赤い石の気配を感じ取っていたのだろう。
「あぁ・・・あるさ。」
そう言って懐から拳大の大きさの赤い石を取り出した。
それは前に見たものをそのまま小さくしたようなものだった。
淡い、赤い光を放っていた。
秋とラークは驚いた。これを大事に持っていると言うことは何かしらこの石の力を使おうとしているに違いない。
「タカト、悪いけどそれ渡してもらう。」
そう言って秋は手を差し出した。
「・・・?何でだ?」
秋とラークは赤い石に関わった事件のことについて語りだした。
ラークがおおまかに話をして、そこに秋がいくつか細かく付け加えた。
それを聞くとユウタがタカトの甚平の裾を掴んで
「兄ちゃん!!やっぱそれ使うのやめたほうがいいよ!!話の意味わかったでしょ!?危険なんだよ!それに・・こんなの使っても父ちゃんは・・爺ちゃんは・・・。」
涙混じりにそう訴えて一層手に力を入れた。
しばらく沈黙があった。ユウタの泣く声だけがこだまする。
タカトが泣きじゃくるユウタの頭に手を置く。
そして秋とラークを真剣な目でまっすぐに見つめた。
「秋、ラーク。教えてくれてありがとう・・。」
「それじゃあ・・・」
秋がもう一度手を差し出そうとしたとき、
「ありがとう、これで納得がいった。」
タカトは突然立ち上がり部屋の奥に行ったと思うと金槌と作業机を持ち出してきた。
そして、
ガン!!
赤い石を思い切り砕いた。それは粉々に砕けて砂上になった。
「こうすれば・・・使っても大丈夫なんだな。」
真剣な表情でそう言った。
「!!」
他の三人は驚いた。
「兄ちゃん、まさか!?」
ユウタが声をあげた。
「ユウタ、この力は必要なんだ。俺は危険を犯してでもこの力を使いたいと思っている。
そうしないと親父はきっと・・・。それに花火を楽しみに待っていてくれている人達に俺の花火は・・きっと失礼だ。」
タカトはユウタと目をあわさずそうつぶやいた。
「兄ちゃんのバカ!!」
ユウタは家を飛び出していった。
「ユウタ!!」
それを追ってラークも飛び出していく。
秋とタカトがその場に残された。
タカトは何も言い出さず、ただ俯いている。
そんなタカトを秋はまっすぐに見つめた。
「タカト・・・君は・・・」
そう一言言って、秋も家を飛び出した。
そこにはタカトが一人たたずんでいた。
顔を手で覆い、
「俺は・・・・。」
一人そうつぶやいた。
外は夜が広がってきていた。
潮のにおい、波の音。夜の海は肌寒い。
「くしゅん!」
と、一つくしゃみをして秋は身を震わせた。
腕をまくっていたのを元に戻し先にこちらへと向かった二つの影を探した。
そしてそれはすぐに見つかった。
浜辺の中に落としたかのように見える二つの影。
「ラーク、ユウタ。」
その影が月明かりによってぼんやりと見えてくる。
ラークはユウタを暖めるように体をすり寄せていた。
ユウタは顔を伏せ、声を押し殺して泣いていた。
二つの影がこちらを向く。
秋もユウタのそばに腰掛ける。
「寒いな・・・。」
そうつぶやいてから、半袖でいたユウタに秋はジャケットをかけた。
「兄ちゃんは・・・」
ユウタが顔をぬぐってからそう言った。
「兄ちゃんは・・・・不安なんだ。爺ちゃんがいなくなって、そして父ちゃんもいなくなったから。今回、兄ちゃんが初のイベント参加になる。きっと、単に自信がもてないんだ。だからあんな石に頼るように・・・。」
ぬぐっても、ぬぐってもあふれる涙。
秋とラークは黙って聞いていた。
「僕達、父ちゃんは死んだかもって聞かされてはいるけど、本当はまだどこかで生きているんじゃないかって思うんだ。だから父ちゃんに気づいてもらえるように、って。だから兄ちゃんは悩んでいるんだ。より目立つものを作ろうとしているんだ。」
そう言ってからユウタはまた涙をぬぐった。そして自分を挟むように座っている秋とラークを一度交互に見てから言った。
「お兄ちゃんたち!!お願い・・。兄ちゃんを説得してくれよ。赤い石なんかに頼るな、って。そんなものがなくたって兄ちゃんのつくったものは凄いって。父ちゃんにも僕達の思いは届くって・・・。お願い・・・・。」
最後の方は嗚咽交じりに・・。
波が静かに音を立て、冷たい風が通り抜けていく。
秋とラークはお互い顔を見合わせて軽く顔を横に振った。
「!?・・・どうして。」
ユウタが立ち上がる。それにあわせて秋とラークも立ち上がり、秋はユウタの目線にあわせるように座り込む。そしてユウタをまっすぐに見つめて言う。
「駄目だ、・・・・・駄目なんだよ。俺たちが言っても多分タカトは分かってくれはしないだろう。これは、ユウタ自身が伝えなくちゃいけないんだ。ユウタがタカトや父さんのことを大事に思っているなら。本当にやめて欲しいって思っているなら・・・・。」
「!」
ユウタがはっとした顔になった。
「ユウタ、お前らは兄弟だろ?兄弟なら兄弟らしく思い切りぶつかってみろよ。俺たちよそ者が言うより、絶対そっちの方がいい。」
今度はラークが言った。
ユウタはもう一度、涙をぬぐった。くしゃくしゃだった顔が笑顔に戻る。
その顔に迷いはなかった。
「ありがとう、秋兄ちゃん、ラーク兄ちゃん。・・・僕、やってみるよ。」
秋とラークは笑顔を返した。
「さぁ、ここは寒い、戻ろう。」
「あぁ。」「うん。」
秋とユウタが返事をした。
家までの帰り道、明日は朝早く出てユウタ達は準備があること、秋達は二階の奥の寝室を使ってもいいこと、朝はゆっくりと眠っていてもいいこと、明日の正午にはイベントが始まるということ、夜は八時には花火が始まること、それに加えて、他の人が知らない花火を見る絶好の場所まで教えてくれた。
二階の一室。秋とラークはそこにいた。
窓側に腰掛けると満月に近い月がこちらをのぞきこんでいた。
布団の上に寝転がった。
天井を見つめた秋はすうっと息を吸い、吐いた。
「どうなっただろうね・・・。」
秋がぼそっ、と言う。
「あぁ・・。」
ラークはまだ起きているようだ。
「あぁは言ってみたけど実際不安なもんだね。」
「きっと大丈夫さ。」
ラークのほうを見ると片方の目を開け、にっと笑っていた。
「そう・・だよな。・・・・ぶつかりあいながらも理解しあえる、それが・・兄弟なんだよな・・。」
「あぁ、気にすることはないさ。」
布団の上で一つうなずいて、また天井を見る。
暗闇に目が慣れたのか、天井の木目がくっきりと見えてくる。
「兄弟・・・か。」
そうつぶやいて瞳を閉じた。
「お休み、ラーク。」
「お休み、秋。」
月が雲に隠れて部屋は暗くなっていく・・・・。
そして・・・・・・。
夜も深まった頃。僕は一人、物音を立てないようにそっと歩いていた。
部屋を覗き込むと、兄ちゃんは一人で明日の準備に向けて最終作業をしていた。
その場には兄ちゃんしかいない。
僕は緊張して汗ばんだ拳をぎゅっと握りしめ、そして甚平でぬぐった。
言わなくちゃ・・伝えなくちゃ。
僕達は兄弟、家族なんだから。
意を決して音を立てて部屋に入る。
その音に一瞬驚いたように兄ちゃんは顔を向け、それが誰かを確認する、顔がゆるむ。
「どうした、こんな夜遅くに・・・。」
兄ちゃんが優しい口調で言った。
僕は・・・・・・
「兄ちゃん、・・・・話がある。」
向かい合った。