第三章       ”イベント”の街 カーフィス

第二話   カーフィスの街

 

「誰もいない・・。」

街の入り口に辿り着いた秋とラークは街の光景に唖然としていた。

レンガで建てられた家、色々な遊具のある公園、普段は大いに賑わっていただろうショッピングモールらしき場所。

少し街の中を見回ってみたが、どこそこにも人の姿はなかった。

まだ昼頃。この時間に人がいないというのは不思議だった。

どこからかの賑やかな声も聞こえない。聞こえるのは家の間を通り抜ける空っ風の音。

そして・・・

ぐぅぅっ・・・と鳴る自分達の腹の音だけだった。

「誰もいない・・。」

ラークが秋の言った言葉を繰り返すように言った。

「これ、どういうことだろう。」「さぁ・・。」

口々にそう言って周りを見渡した。そうしている間に誰かが現れるかと思っていたが誰も現れない。

(もしかして・・)

秋は突然思い浮かんだ可能性に不安になった。

(この街の人たちはあの赤い石の力のせいで街ごと神隠しか何かにあってしまったのかもしれない・・・)

こんな考えを出してしまったのは、あの赤い石の力を知ってしまったからだ。願いを叶える石。それは時として危険な代物にもなる。そのことを秋は感じ取っていた。

 

「どうした?」

神妙な面持ちになっている秋にラークが顔を覗き込んで聞いた。

「ん・・・なんでもない。」

そう言ってはみたものの秋の顔には不安がよぎっていた。

「ん・・・これは臭うぞ・・。」

突然ラークが鼻先をひくつかせてそう言った。

「え?・・・あ。」

秋も気づいた。人が前からやってきた。

何か大きな袋を二つ持っている。

街の向こう側から歩いてきたのは見える草履を履いた足の大きさ、足の長さからするにまだ子供。大きな紙袋を持っているため顔は見えなかった。しかし尾が見えないことから人間の子であることが分かった。

その子はふらふらと袋を落とさないように注意をしながらこちらへ歩いてきた。

しばらくそのまま秋達が見ていると、子供は秋達のすぐそばまで来た。

「ん?兄ちゃんたち、誰?旅人?」

子供がこちらを向いた。

「そう・・・だけど。」

秋がそう言うと

「お腹、減ってる?」

そう子供が袋の横から見せた表情を変えずに言った。その時、

 

ぐぅぅ・・・・

 

ラークの腹の虫が鳴った。

「あ・・・。」

減っていると答えるまでもなかった。前の街と同じことをしてしまったことに恥ずかしくなってしまい、二人は苦笑いした。

「聞くまでもなかったね。うん、うちにおいでよ。材料買い過ぎたから一緒に食べようよ。」

 

秋とラークはその少年と共に道を歩いていく。

少年の荷物の紙袋を一つ持ってあげると、その少年は一つ、ありがと、と言った。

道の途中、秋とラークはその少年にいろいろと話を聞いた。

 

 

この少年(草履を履き、紺色の甚平を着ていた。黒の髪は逆立っていて、ねじりはちまきをしていた。)の名前はユウタと言った。少し遅めの昼飯の買出しに来ていたそうだ。

歳は8つらしい。それにしては口調もしっかりしていた。

 

この街の名前はカーフィス。暑い中でも元気に暮らしている街。

この街では毎年一回、この時期に街の住人総出で“イベント”を行うらしい。

聞くに“イベント”というのは祭りのことのようだ。

そのイベントでは毎回、多くの催し物が開かれる。マジックショー、出店、カラオケ大会、喉自慢、大食い大会なんてものもある。

そしてそれらは専ら昼の催し。夜になるとそれは最高潮に盛り上がる。このイベントは夜通し、必ず全員参加となっている。明日は準備を朝早くやり、そして昼からイベント開始。

夜は騒いで朝まで続く。スケジュール的にはそんな感じだ。

そのイベントのために今は街の住人は寝貯めをしているそうだ。

(そこまでする必要はあるのか・・?)

 

秋はその話を聞いて、自分の考えていたことが実現していなくてよかったと文字通り胸を撫で下ろした。

 

そしてこの少年ユウタは夜のイベントをより盛り上げる催し、“花火”を作っている花火職人の家の子らしい。その家の歴史はまだそれほど深くはなく、今の先々代の職人が他の街で習った技術をここで披露したのがきっかけであるという。

今の代は三代目。自分の兄ちゃんなんだと言った少年は自慢げな表情をした。

 

一つの小さな狭い路地を抜けると視界が一気に開けた。

そしてそこには一軒の大きな家が建っていた。

「ここだよ、僕の家。」

そう言ってユウタは紙袋を持っていない方の手で家を紹介した。

木でしっかりと作られた一軒家。先々代が和風好みだったのか家は伝統的な家作りの様にしっかりと建てられていた。

がっちりとした柱。陽に照らされて光る黒瓦。緑がかったのれんには丸字に花と大きな文字で書かれていた。

 

「兄ちゃん、ただいま〜。」

ユウタがそののれんをくぐって中へと入る。それに続いて秋達も中に入れてもらった。

「お、ユウタか。お帰り。」

中には一人の男が右へ、左へと荷物を運んでいた。

兄ちゃんと呼ばれたその男は歳はユウタと一回り近く離れているだろう。頭に濃い緑のバンダナを巻き、後ろで縛っている。ユウタと同じ色の甚平を着て、ガタイのいい体をしていた。その物腰からはユウタの元気で活発という性格とは逆に物静かな印象を与えた。

おそらくこの男が“三代目”なんだろう。

 

ユウタがちょっと待ってて、と笑顔で奥の方へと姿を消す。

(ここでは何代目と言われたもの以外のものが料理を作ることになっているらしいが、ユウタがまだ幼い事も考えて、二人で交互に作っているらしい。)

ユウタが完全に消えると男は静かに秋達を見つめていった。

「それで・・・あんたたちは?」

 

「俺は秋、こっちはラーク。俺達、時空管理局を目指して旅をしている最中なんだ。」

 

そう秋が自己紹介をする。ラークは軽くおじぎをするように顔を下げ、そして部屋をせわしなく見回していた。

「どうした?」

男がそんなラークを見て言った。

ラークは視線を戻して言う。

「ん・・いや・・ちょっと聞くが・・・。」

ラークがまた視線をはずして部屋のある一点を見た。

 

部屋の中は職人の家というには整っていた。おそらく工場は別にあるのだろう。

塵一つも、とまではいかないがそこには清潔感があった。

そして、壁にはいくつかの写真が額縁の中に入ってかけてあった。

それを見て秋も気がついた。男の後ろにかけてあった白黒の写真に目がいった。

「あぁいう風に飾ってあるってことはあれが先代、先々代ってことだよな。」

ラークはその写真を見てそう言った。

「あ?・・・あぁ。」

その写真には一枚に一人、獣人が写っていた。

「ということは・・・もしかして。」

ユウタはあのときに「じいちゃん」「父ちゃん」と言っていた。

「あぁ、あれは俺らの義父、義祖父だ。」

 

ユウタが軽い料理を持ってくる。

四人は食べながら少し話をした。

 

ユウタの兄、名前はタカト。

この兄弟の祖父、つまり先々代が花火職人を始めたのは約30年前。

祖父は四十と言う歳でその技術を覚えた。旅の途中で意気投合したものに教えられたらしい。

作り方、鮮やかに見せる方法。形のあるものの作り方。一度に多くの色を出す方法。

様々な技術を教えてもらった。

 

そして祖父はしばらくそこでやっかいになり、五年後にはまた、ここの街、カーフィスに戻ってきていた。祖父の代からもうすでに“イベント”はあった。しかし、内容は今に比べて華やかさや活気さがなかった。村の皆もそのつまらなさのためかそれに参加せず、五年もイベントを行わない時期もあったらしい。

そんな時に祖父が帰ってきた。“花火”イベントの催し物として提案した。その技術をまったく知らなかった街の人々はそれを受け入れ、そしてそれをきっかけに一気に活気だっていった。

 

出店が並び、ちょうちん作りの職人が精を出し、パフォーマーたちが現れ・・・・。

そして、今の活気に至る。祖父の残した花火はそれからずっと続いているのだ。

それはそれから父にも技術が伝えられ、二人で協力し合ってイベントを成功に導いていた。

 

タカトは今から八年前、まだ幼い十歳と言う歳でこの街にやってきたらしい。

その時、タカトはまだ生まれたばかりのユウタを抱いて波打ち際に倒れていた。

ボロボロで、うす汚れた服は何か痛々しさを感じた。

それを発見した祖父は二人を家に連れて行った。

新しい服を与え、食事を与えた。

最初は遠慮気味に何もしゃべらず、ただただ黙々と行動していたタカトもだんだんと祖父や父になついていったらしい。

 

祖父と父はどちらもすでに妻を亡くしていた。

ユウタも少しずつ大きくなり、男四人の荒々しい生活が続いていた。部屋はぐちゃぐちゃ、食事も適当。しかしそれでも楽しい日々を過ごしていた。

 

その部屋は今は役割を決めてしっかりと整頓されている。

遊びに関しては祖父と父はあまり知らなかったため、代わりに花火の作り方を分かりやすく、おもしろおかしく説明していた。タカトは大いに関心を示し、飲み込みがはやく、約二年でその技術を完璧にマスターし、祖父を感心させた。子供の勉強能力が高いとはいえ、自分が五年もかけて覚えたものを二年で覚えられてしまったから。

 

その祖父も父も今はいない。祖父は一年前、イベントが終わって三日後に亡くなり、父はその後に他の街に材料を取りに行くといって出て行ったきり帰ってこなかった。

事故にあって死亡したという説もある。


 

一通り話をし終わってタカトが顔を上げた。

すべて話したころには食事は終わり、お茶を二杯飲み終わっていた。

 

「ふぅ、こんなところか。それにしてもどうしてだろうな・・・いつもはこんなには話さないのに何故かあんたたちには話したくなった。長話、すまなかったな。」

そう言うと、秋が答える。

「いや、話してくれて嬉しかったよ。・・・・それで、タカトたちはどうしてこの世界に来たの?」

タカトは一度ぴくっと眉根を寄せたがすぐにまた普段の顔に戻り、

「あぁ・・・知らない。」

そう言った。

「?」

「ここに来た時、俺は記憶喪失になっていたんだ。だからここに来てからの事しか覚えていないんだ。」

そう言ったタカトの顔は・・・・

 

どこか・・・

とても悲しげに見えた。




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