第三章  “イベント”の街  カーフィス  

 

第一話 苦悩を消す誘惑

 

潮の匂い。風。波の音。それは穏やかで子守唄のよう。

寄せては返す波が砂を少し削り、また戻す。繰り返す。

 

空を眺めると月、星。

夜の海は薄暗い、何もない世界。

それがどこまでも続いている。そしてどこまでも続いて途中で途切れる。それは夜明けが近いことを意味していた。

 

波打ち際に一人の男が立っていた。まだ若い(二十歳ぐらいだろうか?)ガタイのいい体をした男だ。頭にバンダナを巻いていた。暗さのためにはっきりとした姿は見えない。

 

 

 

海を眺めている。現在、切羽詰っている状態だった。俺はあと数日で行われる“イベント”のために頭を悩ませていた。いまいち自分の納得のいくものが出来ない。

 

量、形、質。決して悪いものではない。

しかし、何かが足りない。

決め手が足りない。

自分のつくったものに自信がもてない。

これでいいのか?こんなんで満足させられるのか?

考えれば考えるほど頭の中に不安がよぎる。

頭によぎるそんな不安をかき乱すようにバンダナの上から頭をかいた。

・・・・それでも不安は消えなかった。

 

少し歩いてから浜辺に腰掛ける。

夜の浜辺は涼しい。それでも浜辺の砂は昼の名残だろうか、まだ少し温かみを帯びていた。

海の上に浮かぶ一点の月の光。空を見上げると満月から少し欠けた月が覗いている。近いうちに満月になりそうだ。

月の光で照らされた砂がちらちらと輝く。それは空の星をそのまま落としたかのように輝いていた。それは星の絨毯。

 

そんな絨毯の上に、一点異色を放ったものを見つけた。

「なんだ?」

砂を踏みしめてその光のそばまで寄ってみる。

肌色の砂の中で淡い、赤い光が見えた。

それは脈動するようにそれでもゆっくり、ゆっくりと光っていた。

「?」

その光に魅入られるように砂を掻き分けてみる。すると中から拳大の大きさの赤い石が見つかった。それは透き通った色をしていて、手に取ると勝手に掌の上で浮き、ゆっくりと回り始めた。

そこには何かの力を感じた。

「・・・・」

それを見つめる。どれだけ見ても飽きないような美しさ。

「これは・・・」

もしかして使えるかもしれない。この石があれば自分の満足したものが出来るかもしれない。

そんな気がした。

そう考えると次々とアイディアが浮かんでくる。これなら・・・。

体がうずうずと沸き立ってくるのが分かる。

 

俺は・・・このイベントを成功させてみせる・・・そして俺は・・。

 

気づくと夜は白み始めていた。水平線から太陽が現れ始める。

 

 

あぁ・・・夜明けだ。

 

今日も新しい、暑い一日が始まる・・。

 

 

 

 

誘惑に負けて

 

「うぅ〜暑い〜・・・。」

「うるさい・・。」

今日も時空管理局への秋とラークの旅は続いていた。

サンタマーナを出て、大分歩いた頃、そこには前のような涼しさはなかった。現実世界での夏の気候のように暑かった・・。

秋はガトの家でもらった緑のジャケットを脱いで黒のシャツ一枚。

じりじりと容赦なく照りつける太陽。地面に当たって反射して体全体に伝わってくる熱。

時折吹く風も熱を帯びている。

「これはさすがに・・。」

熱波に頭をくらくらさせながらもそれでも一歩一歩踏み出していく。

ラークにいたってはもう喋る気力も残っていないらしく、ただただ、ぜぃぜぃと舌を出して温度調整を行っているようだ。

そして乾いて熱くなった道を歩いているのでラークの足には直接熱が伝わる。

足の皮が厚いといってもこの暑さでは長くは耐えられないらしく、いつもより歩幅を小さく、時折跳ねながら進んでいた。

 

汗によって肌に張り付く服の感触が気持ち悪い。秋は立ち止まってリュックから水筒を取り出した。中は美咲さんに入れてもらった冷たい麦茶が入っていた。

コップに注いで一口飲んだ。喉を通る冷たい感触。少しだが喉の渇きは潤った。

「ふぅっ・・・」

と息を吐いた。それと共にラークの視線がこちらに向いていた。

「俺・・・にも。」

その目は血走っていて、飢えた獣のようだった。

実際、そんなにも多くの食事をしているわけでもないから獣のようではなく本当の飢えた獣、なのだが。

秋がラークに水筒を渡す。するとラークはそれを器用につかみ、グビグビと喉を鳴らして飲んだ。

「くはぁっ・・・これであと飯があればなんの文句もないんだが・・。」

口の周りを手でぬぐってそう言った。そしてその後、ぐぅっとお腹を鳴らした。

「しょうがないだろ?食料なくなったんだから。」

少し冷たい態度で秋が言った。

 

サンタマーナの街を出て、ラークと秋は次の街へと向かっていた。

距離にしては三日くらい歩いてつく距離だ。

そういうことで三日間もつぐらいの食料を受け取っていたのだが・・。

「なんで食料足りなくなるんだよ。あんなにあったのに・・・。」

そう不満げな声を出すラーク。

秋は遠くを見つめながら言った。

「お前が悪いんだよ・・。」

 

確かに三日分の食料はあったのだ。

しかし来る途中に、ラークが二人分の食料を一日で平らげてしまったのだ。

秋ににらまれてラークが「あぅっ」といって言葉を詰まらせる。

結局、二日分を一日で食べてしまい、食は昨日で尽きてしまった。

残ったのは水筒の中身が少々。

「お前が悪い・・・。」

秋がそう、もう一度言ってラークの水筒を受け取り、それをリュックにしまってまた歩き出す。

「食べ物の・・・恨みか?あわわ・・待てって!!」

秋の後を急いで追いかけるラーク。

前を見るとそこには新たな街の影が見え始めていた。

静かに波の音が聞こえる・・。





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