第二章 サンタマーナ
第五話 緑の光・赤い光
「なんだ、これは?」
奥の部屋、緑がかった光に導かれてガト、秋、ラーク、ルークの四人はその部屋に着いた。
そこには
オォォォォォ!!
信じられない様な光景が広がっていた。
見た目は・・・木だ。
しかし、根が触手のようにうねうねと波打っている。
葉はついていない。枝までもが触手のようにうねっている。
黒がかった茶色の幹には模様が顔の形のようにうごめいていた。
オォォォォォ・・・・太い、それでいて低い声、体の奥底まで届くような声だ。
その声がするたびに、洞窟の中でその声が反響し、やかましい音を立てる。
枝や根が波打ち、動くたびに土埃が舞う。
その木は生きているようだった。
「マジ・・・かよ。」
ガトが言った。
「ラーク!!この世界にはこんな生き物もいるのか。」
「いるわけねぇだろ!こんなの見たことないぜ!」
木がうねうねと気持ち悪く動いている。
そしてその黒がかった茶色の中に小さく明るいオレンジ色の姿が見えた。
「ケント!!」
ルークが叫んだ。するとケントもそれに反応して「ルーク!」と叫ぶ。
そしてルークはガトにしがみつく。
「おじちゃん!ケントを助けて!お願い!」
「おぅ!わかった!」
そう言ってから白衣をルークに預け、小型のナイフを二つ取り出す。
そして触手が動く中へと走っていく。
「ガト!!」
秋が叫んだ。
ガトが揺れ動く触手の中に突っ込む。
それを察してか、木は根と枝を使ってそれを防ごうとする。鞭のような枝がしなり、ガトに狙いをさだめたが、それをガトが素早く避けたため、地に思い切り打ちつけた。
今度は二本同時に。
それをガトが素早い手つきで小型のナイフを使って切り落とした。
「な・・・ガトってあんな強かったのか?」
呆然と見ていたラークがそう言った。秋もその横で呆然としていた。
「おじちゃんはね。昔、東部で軍人をやっていたことがあるんだって。だからナイフの腕は相当のものだよ。その後、発明とかも色々やっていたみたいだけど、戦場に嫌気がさしていたらしくてこの街に戻ってきちゃったんだ。おじちゃん、強いよ。」
この状況で一番泣きそうなルークが泣いていなかった。
それはガトに対する信頼の証だろう。
ガトが触手の間をすり抜け、襲ってきた枝を切り落とし打ち付ける根の鞭をくぐりぬけ前へと進んでいく。
そして襲ってきた根や枝を踏み台にしてケントの捕まっていた枝を切り落とした。切って巻きつきがゆるんだ枝はケントをあっけなく放す。
落ちてきたケントをしっかりと受け止め
「しっかりとつかまってろよ。」
そう言ってまた秋のほうへ向かって走り出す。
「危ない!!ガト!」
木が突然、種を勢いよく三つ飛ばした。頭より少し小さめの、それでも大きさがある種。
「くっ!!」
反応が一瞬遅れたガトはそれに対応することが出来なかった。
・・・・しかし、ガトには当たらなかった。
一つは秋が光の矢で、一つはラークが蹴りで、もう一つはルークが棒でそれを打ち落としていた。
「ふぅ・・」
秋が一つ小さく息をついた。
「ガトにばっかまかせてはいられないからな。」
ラークが言った。
「僕だって・・・ケントを守るんだ!!バットの扱いには慣れてるよ!」
棍棒を持っていたルークが少し手に負担がかかったのか右手を振りながら言った。
「お前ら・・下がっていろ。」
ガトがルークとケントを後ろに下げさせた。
秋・ラーク・ガトがその木と向き合った。
その木はさらに根や枝を動かしている。切られた部分はいつのまにか元に戻っていた。再生能力が計り知れない。
「くっ・・らちがあかないな。」
と舌を噛み締める秋。
「でもなんなんだこいつ!?すぐに再生するし・・・まずこんなことありえないだろうが!!」
ラークが言う。
「何だかおまえらが言っていた、エルとかいう子供のときの状況と似ているな。ありえない状況、何かあるのか?」
ガトが言った。
そう、それはあのときの状況と酷似していた。
姉に会いたいというエルの望み。それが力となってエルのあの姿を作り出した。
・・・・・望み。
秋は思う。
この木も、何か望みがあってこんな状態になっているとしたら?
しかし、望みを聞こうにも木は喋ってはくれないだろう。
秋が周りを見回してみる。この場所には・・・何かが足りていない。
ここにあるもの・・・。
湿った空気、土、緑色の光。・・・・・・!!
「・・・・・そうか!!」
秋が光の弓を作り出す。そして矢を作り出し、それを斜め上へと向けた。
「光の・・・弓か。」
「ピカピカー。」「綺麗〜。」
ガトや子供達がそう感想を述べた。
「ガト!この上って何かある?」
触手の立てる地響きに負けないぐらい大声で、秋は叫んだ。
「いや、上はおそらく何もない!!」
ガトも負けじと叫んだ。
「おい!秋!何をするんだ!?」
ラークが叫んだ。
「まぁ、見ててくれよ。・・・さぁ、うまく壊れてくれよ!!」
秋が力を込めて光の矢を放つ。それは木のいるところまで飛んで、そこから急なカーブを描き、そしてそこから急激に上へとのぼり、天井を突き破った。
その天井にぽっかりと小さな穴が開いた。
と、そこから一筋の光が差し込んだ。
すると光に照らされた木が手を伸ばすように枝や根をその光に向けた。
「オオォォオ!!ヒカ・・リ・・ヒ・・・カ・リ・・・」
低い、それでも嬉しそうな声をあげたあと、その大木はだんだんとその高さを低く、低くしていった。光を浴びて、成長するはずの木が、逆に縮んでいくのを見て、その動きにあわせて視線が動く。
そしてその場には小さな双葉の芽だけが残った。
秋達はその芽のそばまで寄って、そしてその芽を見つめた。
「こいつ、ただ光が欲しかっただけだったんだ。」
秋がそう言って葉を指でちょん、と揺らした。
「まったく、面倒なこったよ。」
ラークがふん、と鼻から息を出す。
その葉は光に照らされ、小さな緑の光を放っていた。
暗闇でもしっかりと根を張る、その健気でたくましい姿が、そこにあった。
暗闇が戻ってくる。あるのは一筋の上から漏れる光。そして・・
「おじちゃんたち!!こっち来て!」
ケントとルークがその芽がある場所のさらに奥のところで叫んだ。
三人がその場に駆け寄るとそこには別の・・赤い光が広がっていた。
そして、その淡い光の中心には“石”があった。
大きさはガトの背と同じくらい。形は三角錐を上と下からつなげたような形。平たく言えばひし形だ。それは透き通っていて通じて奥の壁が見える。
そしてその石は何らかの力で浮遊していた。そしてその力を感じさせるように地面にらせん状に光が巻き上がっている。石はただ静かにその場でゆっくりと回っている。
「これは・・・。」
秋がその石を見つめる。
興味津々でその石をぺたぺたと触り、きれいー、ぴかぴかー、うわー中が見えるー、とはしゃいでいるルークとケントをよそにガトはその石を熱心に調べている。
「何か、こう・・・力を感じるな。心地いいけど・・・逆になんか嫌な感じだ。」
ラークがそう言ってその石の周りをぐるっと回って戻ってくる。
「そうか・・・これが木が暴走した原因か・・。もともと大きな力は持っていないようだがこの大きさだ。小さな望みを叶えようとしたのだろう・・。」
ガトが言った。
少し前、一つの小さな芽が生えた。洞窟の天井から差し込む小さな光に包まれ、またそこの湿った空気は草木が芽生えるには絶好の場所となった。
・・しかし、それが土砂崩れが原因で壊れてしまった。・・・・光は遮断された。
光がなければ植物は育たない。小さな芽は枯れるだけの運命だ。
そこに石が現れた。力を与えた。そしてずっと訴え続けていたのだ。その石が現れた経緯は分からないが、これが原因となっていることだけは、何となく感じられる。
結果的には望みは叶ったことになる。
「なんにしても・・・」
ガトが言った。はしゃいでいるルークとケントを拾い上げるようにその石から離れさせる。
「うん。」
秋がうなずく。ラークのほうを見るとラークも同意するように一つうなずいた。
「こんなもの、あっちゃいけない。望みを叶える石・・・・。それは夢のような話だけど・・。これは、危険だ。」
なにか理由があるわけでもない。しかし、その場にいる全員がその石に何か不穏な空気を感じていた。
秋が光の弓矢を作り、そしてそれに向かって打った。光の矢に触れた瞬間、その石は粉々に砕け散った。
散った欠片が光に反射して舞い、そして消えた。
それはまるで雪のようだった。赤い雪。降り注ぐものは、幸か・・・・不幸か。
その様を見ていたその場の全員がただ呆然と見ていた。