第二章   サンタマーナ



第六話        自然の力・旅立ち    



日も落ち、辺りに暗闇が広がってくる。それと共に街のあちこちで灯が灯っていく。

満天の星もその明るさを一層強くするように光り輝いていた。

「ただ今。」「ただ今帰りました。」「腹減ったー。」

秋達はガトの家に戻ってきた。

「お帰りなさい。」

美咲がそう言って笑顔で迎えてくれた。安心した。秋は自分の家の温もりを感じた気がした。

 

「えっと・・夕飯に・・・んー、まずお風呂ね。」

美咲が秋達の姿を一通り見てそう言う。

白色の汚れはよく目立つとはよく言ったものだ。

一番の原因は管状の通路を滑ったときについた時のものだ。

秋もガトも服を土埃で汚し、所々にこげた後がある。

秋は顔の汚れだけですんでいるが、ガトやラークはそれに加えて毛並みがぐしゃぐしゃになっていた。もとからあった毛の流れがあちらこちらに向いていた。

 

くすっと美咲が笑った。その顔を見て秋が怪訝な顔をし、その視線の方向に気づいて二人を見る。秋も笑った。

「あ?」「なんだよ?」そう口々に言ってお互いに顔を見合わせる。

「ん?・・・・あれ?」二人の声が重なった。

 

笑いは広がる・・・・。

 

 

「ふうっ・・」

湯船に使って一息つく。大きめの風呂に真っ白な湯気が立ち上っては消え、立ち上っては消えを繰り返している。

体の疲れに少し熱めのお湯が心地いい。

それを両手で掬い取り、顔を洗うと湯が零れ落ち、波紋が広がっていく。

「いてててて・・・」

擦りむいたらしい顔に出来た傷にしみた。

 

「おぅ、秋、入るぞ。」

そう言ってガトが風呂場に入ってきた。

湯煙でぼんやりと姿が見え、やがてはっきりとしてきて・・・

「!?」

驚いた。

「ん?どうした?こらしょ。」

ガトが湯船に入ってくる。

「え・・?何でもない」

そう言いながらも湯船に顔の半分までつかってブクブクと泡を出した。

「いてててて・・」

また沁みた。

 

「それにしても驚いたな・・。」

ガトが湯船の淵に寄りかかって言った。

「そうですね・・・。」

あの時の光景が思い浮かぶ。

 

あの騒ぎの後、「もっと光が当たるところに。」というガトの提案からルークがその場に芽生えていた芽を手に取った。するとその芽から放たれていた緑色の光が一層光を増し、その部屋をまぶしいばかりに包み込んだ。気づいたときにはすでに全員、洞窟の入り口に立っていた。

 

それも驚いたことだったのが・・・・その後だった。

光のよく当たるところで芽を植えなおした。

するとその芽は急激にむくむくと成長し始め、秋達の何倍もの大木が生まれたのだ。

秋達は唖然としていた。

小さな森の中に、シンボルのように大きな木が生まれた。

 

「何か、あれを見て、自然の力ってものを再認識した気がします。植物にも意志があって、望みがあって・・。やっぱり俺らと同じ生き物、なんですよね。」

湯を両手で掬い取り、そして零す、ゆらゆらと波打ちながらそれは消えていく。

「そうだな・・当たり前のように木を切り倒したり、自然を壊しているが、それでもやっぱり自然に比べたら俺らはちっぽけな存在でしかないのかもしれない。」

ガトも同じように湯を掬い取り、ばしゃっと顔を洗った。

そしてしばらく押し黙って、そして思い出したように話し出す。

「そうそう、検査の結果だがな。」

「どうでした?」

ん〜と考えてから

「秋は特に異常はなかったな。残念ながらあの機械でははっきりとしたことは分からなかった。体の中や荷物にあの赤い石が入っているかとも思ったが、見た限りないようだしな。」

「そう・・ですか。・・・・ん?秋・・“は”って?」

「そう、問題はラークなんだ。あいつを調べた結果、妙なことが分かった。」

「妙な・・・こと?」

「そうだ。力の根源がすべて額の紋章付近に集まっているんだ。まるでそこに力が集まっているようにな。あの紋章は・・・何かの封印なのかもしれない、と考えている。」

神妙な面持ちでガトはそう言った。

「封印・・・。でもなんでラークがいるときに言わないんですか?」

秋が聞くとガトは自分の頭を乱暴に掻いて答えた。

「ラークに言うとまた考え込んでしまうだろ?それが封印なんて言ったらもってのほかだ。それに封じ込められている力がどんなものかが分からない限り、それを解いてしまうことも危険なことだからな。いいか?ラークには言うな。」

警告するように言われて、秋は黙ってうなずいた。

さぁてそろそろ出るか、とガトが言って湯船からあがる。

「!?」

秋がまた驚いた。


「ん?さっきからどうしたんだ?」

 

秋達が風呂から上がると

「やめろ!やめろって!!自分で洗えるから!!」

「いいの♪いいの♪」

ラークが無理矢理、美咲に風呂に連れて行かれた。

「美咲は世話好きだからな。」と、ガト。

「ラーク、がんばれよ。」と、秋。

肩からほかほかと湯気を出し、タオルを肩にかけた秋達はラークとのすれ違い様に言った。

「見てないで、ちょっとは助けてくれよ!ウクッ!・・首輪を引っ張らないでくれぇ〜。」

ラークが風呂場のほうへと消えていく。そして、



「・・・・・なんかこの頃、俺の扱い悪くねぇ?」


最後にそう聞こえた。



ラークがさらさらな毛並みをして戻ってきてひとしきり笑った後、秋達は夜食をごちそうになった。

その後、談話を繰り返し、その日は終わりを告げた。

 




そして、朝。出発の日。

ガトと美咲。ルークとケントも見送りに来てくれていた。 

美咲が今の服はだいぶ傷がついているから、これ以上つくと元の世界に戻るときに大変だろう、ということで緑色のジャケット、黒のシャツ、茶色のズボンをくれた。

そして、何日かもつ保存食、今日の弁当まで秋のリュックに入れてくれた。

 

「何もかも、ありがとうございました。」

「ありがとうな。」

と、秋とラーク。

「あぁ・・・こっちこそ楽しかったぜ。ありがとな。」

「元気でね、秋君、ラーク君。」

「秋お兄ちゃん、ラークお兄ちゃん。またね!」

「いつでもまた来てね。」

ガトと美咲、ルークとケントがそれぞれ言った。

「秋、昨日あの石の欠片を調べたんだが、あれはある程度の大きさ、あー野球のボールぐらいの大きさがないと発動はしないらしい。小さいとたいしたこともできないようだ。だからこの先、もし大きい石を見つけたら・・絶対とは言わない。お前達の判断で壊してくれ・・。」

「・・・はい、分かりました。」

「まかせとけ。」

秋とラークが言う。

最後にガトが迷わないように、とナビマップ(画面に今の位置、次の町への道筋を示してくれる、人とも連絡をとれる機械だ、と教えてくれた。)をくれた。

「じゃあな!!」

ガトがそう言った。秋がリュックを背負いなおす。ラークが鼻をかく。

そして手を振りながらその場を歩き出していく。

ガトと美咲、ルークとケントは手を振っていた。二人の姿が見えなくなるまで、ずっと振っていた・・。

 

 

そして二人の姿が見えなくなって・・・ルークやケントも自分の家に戻っていく。

そして・・・

「なぁ、なんかさぁ・・。」

ガトが指で頬を掻きながら言った。

「なんです?」

美咲がにこやかに言った。これからガトが何を言おうとしているのかが分かっているような顔つきだ。

「俺、ずっと思ってたんだ。研究の邪魔になるだろうし、お前もさらに大変になる。子供なんていらないって思っていた。・・・・・・だけど・・俺、あいつらを見てたら、なんか子供が欲しくなったよ、いいかな・・・。」

いつもの口調より優しめに、はにかむように言った。


美咲がくすっと笑って・・・そして一つうなずいた。

その場で二つの影が重なる・・・・。


 


「いい街だったな。うん、楽しかった。」

「あぁ、いいところだった。」

秋とラークが懐かしむようにそう言った。

 

前を向き、そして空を眺める。

雲がゆっくりと流れ、隠していた太陽を再び現した。

 

「なぁ、秋。」

ラークが言った。

何?と秋が言うと

「風呂場でガトと一緒だったろ?何か言ってなかったか?」

秋は少し考えた。ガトの「ラークには言うな」、という警告の言葉がよみがえる。

そして、んー何も。と言った。そして・・・思い出したように・・

「だけど・・」

と、付け加えた。

「だけど?」

ラークが言葉を促すように聞いた。

「でかかった・・・。まさかあそこまでとは・・。」

「はぁ?」

 

くだらない話をしながら街を遠ざかっていく。

「またここに来たいか?」

一人がそう尋ねて

「そうだね。」

と、もう一人が答えた。

 

 

二人の後ろで一本の木が雄大にたたずんでいた。

葉をざわざわと揺らしていた。

 

一言、声が聞こえた気がした。

 

 

 

『ありがとう・・』と。

 

 

雲がゆっくりと・・・流れていた。


           ――――――第二章・完―――――――




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