第二章 サンタマーナ
第四話 四人の冒険
新しい一日の始まり。
窓から入ってくる光から今日も天気がいいことが分かる。
暖かい・・。
秋とラークは昨日の疲れから昼近くまで眠り込んでいた。
そばにあった置時計を眠気眼で眺めると、その遅さに気づいて秋は飛び起きた。
そばにいたラークを頭を乗せていた自分の手にだらしなくよだれを垂らしている。
寝顔はこの上なく幸せそうだ。
「・・・・・ったく。起きろよ、ラーク!!」
秋がラークの体を揺するとラークはまだ眠そうに目を開け、そして全身をぐっと伸ばす。
そして・・・
「あと・・・一時間・・zzz」
眠った。
そのラークに一発の撃がとぶことは言うまでもなかった。
「それじゃあ、行ってくるわ。」
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
起きてリビングに出るとすでにガトと美咲さんは朝食を終えていた。
調査にはもう少し早く出る予定だったが秋達が起きるのを待っていてくれたらしい。
秋は寝坊してしまって時間が遅れてしまったことを謝った。
ガトは「気にするな」と一言言った。
早めの昼食(秋達にとってはこれが兼、朝食となる)をとった。
最後にはまだ眠いとつぶやいたラークへの秋の平手打ちの音で、このばたばたと騒然とした食事は終わりを告げた。
結局は家を出たのは昼過ぎだった。
荷物を背負いなおし、三人で美咲に出発の合図をした。
それに対応して美咲が優しく送り出してくれた。
「行ってきます」という言葉とそれに対する「行ってらっしゃい」という言葉。
帰る場所が存在する、やすらげる場所がある、それだけで嬉しいと感じた。
「行ってきます」
もう一度そう小さくつぶやいた。
秋達はガトについて街を出る。
街を出て少し歩いたところに小さな森があった。その森はただそこにある洞窟を隠すためだけに存在するような小さなものだった。
森に入ると、最近あったという土砂崩れの跡があった。
今は乾いてはいるが大雨があった日にはかなり大規模に起こったことが予想される。
木の根元には流れた土砂をせき止めた跡が生々しく層を成して残っていた。
日が陰っているところはまだ湿っているところがあるみたいだ。
しかし、洞窟へと続く道は誰がやったのかしっかりと平らに舗装されていた。
湿った風が肌に心地いい。その風に喜ぶかのように木々の葉もそよそよと揺れていた。
洞窟の入り口にたどり着く。
そこで秋達は見知った顔を見つけた。
白い毛並み、おどおどした行動。実際、今も洞窟の前でうろうろしている。
ルークだった。
「おい!ルーク!」
ガトが手を振り叫ぶとルークは今にも泣き出しそうだった顔をさらにくしゃくしゃにしてガトのそばに駆け寄ってきた。そして泣き出した。
「な!?どうしたんだよ?」
ガトがしゃがみこんでルークの涙を優しくぬぐう。
「あのね、あのね。今日、ここを探検しようってケントと一緒にこの洞窟に入ったんだけど・・途中で急にケントの声がしなくなっちゃって。はぐれたみたいなんだ。」
「何!?」
「帰りの途中まで一緒に歩いてきたんだけど・・。何せ、あたり真っ暗だったし。いつのまにか・・・うくっ。」
泣いているルークを前に、ったく、と一言そうつぶやいて頭をがしがしとかく。
その後でルークの頭に手を置く。
「大丈夫だ。ケントは必ず見つかるさ。心配するな。秋、ラーク。行くぞ。」
「はい。」
秋とラークが返事をする。美咲に持たされた懐中電灯に明かりを灯し、洞窟へと足を踏み入れる。
「ぼ・・僕も行く!!」
ルークが声を張り上げ、走り、一番後ろについていたラークの尾をつかむ。
「ひぎゃっ!!?」
ラークが痛烈な声を出した。
その声に反応して秋とガトがラークのほうを向く。
「よし、そうやってついてこい。並びは俺が先頭で。秋は一番後ろだ。ラークとルークは真ん中だ。」
「ラーク、我慢しろよ。」
そう二人が言って、ガトは秋の懐中電灯を取り歩き始める。
ラークが
「ふぃ〜・・・」
と、ふぬけた声を出したがそれは無視された。
目の前に広がっているのは暗闇。入り口からの光がさして少しだけ足元が見える。
ロウソクも何もない。この入り口の光がなくなったら辺りは完全な闇と化すだろう。
「暗い〜。尾が痛い〜・・。」
ラークがそう文句を言った。前回のときもそうだ。ラークは暗闇が苦手、なのだ。
「ラーク、お前狼だろ?そんなんでどうするんだよ。」
秋がそう言った。
「狼・・狼だよ、俺は。そうだ(闇に生きるかっこいい獣)だ。・・そうだ・・こんなんでどうする・・こんなんで・・・あぅ・・。」
一人でぶつぶつと喋るラーク。自分に語りかけるようにしている。
「・・・駄目だこりゃ。」
秋はつぶやいた。
5分くらいは歩いただろうか。辺りはすでに暗闇だ。足元も見えない。
そのなかにライトだけがその光を放っていた。
通路は狭い。大人二人がやっとで通れるような道だ。それでも天井は高いらしく、冷たい空気がそこを支配していた。
「ここ。この辺だと思う。」
ルークが突然そういって立ち止まった。ラークがいきなり立ち止まられたことで尾を引っ張られ、またひぎっ、と声をあげた。
「この辺か?ケントとはぐれたっていうのは。」
ガトがライトで一回ルークを照らし、その後で周りをくまなくライトで探ってみる。
「ん?」
照らした壁の中にぽっかりと穴が開いていた。
明らかに人の手が加えられている。
その穴は丸くぽっかりと開いていて、岩のごつごつとした感じは見ただけでは感じられない。
光を当ててみるとそれはどうやら長い管状になっているらしく、どのくらい続いているかは分からない。
・・まるで滑り台のようだ。
ガトは他にはないか、とライトを照らしてみた。あるのは進む通路のみ。
「ルーク、もしかして帰り、ライトの電池切れただろ?」
「う・・うん。行きはついてたんだけど突然切れちゃった。だから壁伝いに帰ってきたんだよ。一本道だったし、通路狭かったから。」
ルークがガトに聞かれてそう答えた。
「ケントはここから落ちたんだな。子供の背で壁伝いに歩くとちょうど手をつくところに壁がない。あると思っていたものがそこにないと・・・自然に体が傾いてしまうもんだ。」
ガトがそう言ってライトで穴を照らす。真っ暗な通路が続いている。
「じゃあ・・・ここにケントが・・。」
秋がそう言って同じように穴を覗く。
そのときだった。また突然の地震が起こった。
「わぁっ!?」
突然の地震に驚いてラークの尻尾を握っていたルークがさらに強く尻尾を握る。
「ふぎゃあっ!!」
ラークが声をあげ、あまりの痛さに暴れる。
そして秋にぶつかり、ガトにぶつかり・・。
「うわぁぁぁぁっ!!」
四人はそのまま穴へと落ちていく。
管状の穴(中は本当に滑り台のようだった)を抜けるとそこには新しい通路があった。
しかし、先ほどの通路よりは広い。奥へと続いている。
通路は少し薄暗い。
自分の体がようやく見える程度だ。
その光が“妙”だった。
微妙に緑がかって発色している。
どうやら奥の方から何かの光が漏れているらしい。
「いててて・・・。」
四人はもみくちゃになって通路に倒れこんだ。
「もう〜ラーク〜。」
下から二番目から、秋が苦しそうな声をあげた。
「しょうがないだろ!!俺、ずっと尻尾捕まれてたんだぞ!!うぅ〜痛い〜。」
ラークが下から三番目から言った。
「うぅ〜ごめんなさい〜。」
一番上からルークが泣きそうな声で言った。
「うわわ!?泣くな、泣くなって!悪かった、悪かったって!!」
「あ〜、ラーク泣かした〜。極悪人〜。」
「おい、なんでそうなるんだよ!!俺だけが悪いんじゃないだろ?」
「ふぇ・・・」
「泣くな!泣くなって。うぅ〜。」
「ご・く・あ・く〜。♪」
「だーかーらー。」
「・・おい。」
下からくぐもった低い声がした。
「・・・ん?」
三人が声をあげた。
「はやく・・降りろ。重い・・・苦しい。」
その声にすぐさま三人は反応し、次々とその場を離れる。
「ご・・・ごめんなさい・・。」
そこにはうつ伏せのまま、ガトが倒れていた。