第二章      サンタマーナ

第三話  秋の想い、ラークの想い

ここはガトの研究室。

「じゃあ、服を脱げ。」

「へ?」

部屋の内装のすごさに気を取られていていきなりの発言にすっとんきょうな声を出してしまった。

「服を・・・脱ぐんですか?」

「あ?当たり前だろ?検査するんだからな。」

あ、そうかと俺は心の中で納得した。

いきなりだったものだから俺はてっきりガトにはそっちの“け”があって体の隅々まで触診されて俺を目くるめく快感の渦の中へ・・・・。

・・って何バカなこと考えているんだ俺は・・。情けなっ・・意味わからん。

ははっ、本当に、意味が分からない。


「何してんだ?はやくしろって。」

くだらないことを必死に考えている俺を見かねてガトがそう言った。

俺を別室の部屋へと通し、ガトは大掛かりな機械を点検していた。

ボタンがたくさん並び、モニターが四つほど付いているものだ。

俺は別室内で服を脱ぐ。最も夏の気候のときにここにきたのだから多くは着ていないので脱ぐのは造作もなかった。

脱いだものは近くにあった籠へと突っ込んだ。

俺がいる部屋は立方体の箱のような部屋。

ガトがいる部屋とは一枚のガラスでつながっていてこちらが見えるようになっている。

そのガラスの下に一つスピーカーがついていた。そこからお互いの会話のやり取りをするのだろう。

そして中央に設置された一台の機械。これは元の世界でレントゲンを取る機械とよく似ていた。

(ただ性能はこちらのほうが上だとは思うが。)

「おい!検査を始めるぞ。秋、その台の上に乗って体をその機械にくっつけてくれ。」

スピーカーからガトの声が聞こえる。

「あ・・あの〜。」

「なんだ?」

「パンツも脱ぐんでしょうか?」

「はぁ?」

俺は検査が始まるまで情けなかった。

はぁっと自然にため息がこぼれた。







秋が研究室に入ってから10分が過ぎた。

俺は美咲さんのすすめでソファーでゆっくりとくつろいでいた。

「ラーク君、隣いいかしら?」

「あ・・あぁ。」

美咲さんがお茶を二つ持ってソファーに座り、そしてお茶を一つ俺に差し出した。

俺は体を起こし、そのお茶を両手を使って器用につかむ。

訓練された獣であればこんなことはたやすいものだ。

一口飲む。ちょっと渋めだったが体が温まっていい感じだ。

「ラーク君、記憶が曖昧だというのは本当なの?」

「あ・・あぁ。」

美咲さんに痛いところをつかれた気がした。先ほどのガトとの会話のときのように美咲さんは細かいところに目がいく。

「俺は時空の歪みのせいだと思うんだけどな。秋に会う前までの記憶だけがはっきりしないんだよな。」

美咲さんが一口お茶を飲む。

「秋君に会う前の記憶がないの?何かしら、だとしたら秋君に会う前に何か辛いことがあったのかもしれないわね。」

つらいこと?確かにラシエの村では妹を失うという最大の衝撃を受けた。しかし、あれは秋と出会った後の話だ。

秋と出会う・・前?

「あまり・・思い出せないな。」

何があった?俺、何してたっけ?

「人って言うのはあまりにも強いショックを受けるとそれを本能的に封印しようとする力が働くの。精神的にそれを受け付けられない、ってね。それは生半可な衝撃じゃない。」

ぞくっと体が震えた。

俺は・・・何をしていたんだろう。

こんなこと言われると俺は何なのか?俺は・・誰なのか?ラークというものは存在するのか?そんなことまで考えてしまう。

不安になる・・。

俺は苦悶の表情を少しでも紛らわそうとして一口お茶を飲んだ。

「不安にさせたのなら謝るわ・・・。でも知っていて欲しいの。記憶が戻っても自分という存在を見失わないで。ラーク君はラーク君。無理に思い出す必要はない。ゆっくりゆっくり取り戻して行けばいいと思うの。あせることはないの・・。」

美咲さんがそう言って頭を撫でてくれた。

不安が安らいでいく気がした。

美咲さんから感じるぬくもり。俺は何を必死に考えてこんでいたのだろう。

「俺は・・俺は負けません。例え、それが辛い過去だとしても・・・。それが物凄い恐怖だとしても・・・。立ち向かってみせます!!」

「そう・・。気の利いた言葉は言えないけど、頑張ってね。」

「はい!!」

 

ガチャリ。秋が研究室から出てきた。

「ラーク、お前の番だ。」

「あぁ、今行く。」

俺はまだ奥底に眠る不安を抱きながら歩き出した。





 





秋は一人、ベランダから外を眺めている。自宅から見る景色とは違う風景。星がいくつも輝いている。

 

獣人世界マティオス、時空管理局への出発。ラシエの村の壊滅。

ここに来てからいろいろなことが起こってあたふたしていたからこんなにゆっくりと物を考える時間なんてなかったな。

俺は・・一対ここで何をしているのだろうか。

時空管理局を目指して旅立ったはずなのに。

こんなところでゆっくりとしている場合ではないのに。

そういえばラークに時空管理局のこと、まだ聞いていなかったな。


俺は小さいころRPGゲームの主人公にあこがれていた。

仲間と共に旅をする。出会いと別れ、そして強くなって敵を倒す。

そんなに世界に俺はあこがれていたのかもしれない。

なんだかんだ言って俺はこの世界を楽しんでいる。

驚きの連続。未知の世界。

もっと色々な世界を見たい・・・。

 



この壮大な夜空を眺めながら思う。

 


意志の力。ラシエの村の洞窟で手に入れた力。

自分の意思に反映して生じる力。

つまり、俺の心の強さが・・・力になる、ということだ。

何故、こんな力が俺に生まれたのか。分からない。

俺はすぐにでもこの世界から出て行ってしまう身だ。こんな俺に託して何になる?

俺には・・何もできないのに。

俺は妹を失って落ち込んでいるラークのために何もしてあげることが出来なかった。

昔も・・・・そうだった。

思い出すと・・つらい。

 



あの時、声は言った。

・・・・成すべきことを成せ、と。

その課せられた課題が何を意味するのかはわからない。

俺の・・・成すべきこと、とは?

それは今はわからない。



・・・・けど、これだけは言える。

 




俺はこの世界が・・・・・好きになってきている。

この気持ちは・・・・

嘘じゃない。





 

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検査が終わった後、二人は空いている部屋を使わせてもらうことになった。

「お休み、ラーク。」

「お休み、秋。」

二人はゆっくりと眠りに付いていく。

秋の想い。

ラークの想い。

その二つの想いが重なって、新しい明日を開く。

この先何が起こるのか、何が待っているのかは分からない。

 

満天の星空だけが静かに二人の行く末を見つめていた。




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