第二章   サンタマーナ


   第一話   出会いは突然に




自然は雄大である。

自然は美しい。

自然は恵みを与える。

自然という言葉から想像するのはそんなことだ。
しかし、それが意思を持ち、襲ってきたとしたら?
台風、地震、雷・・様々に起こる自然の物理現象による災害。
それが意図的に行われたとしたら・・・。
その脅威は計り知れないだろう。
生物はその雄大さを敵に回すのである。
勝ち目のない敵に・・。
自然に比べたら生物などちっぽけな存在。
もし、そんな状況が起こったら、私たちはどう考え、どう行動すればいいのであろう・・。
今まで私たちがしてきたことへの報いだと考えるしかないのかも知れない。

それでも・・・。






その日(おそらく今日は土曜だ)、いつもと変わらず空は晴れ渡っている。
鳥が二羽、連れ立って上空を高く飛び、時折吹く風は暖かい。
今日もいい日になりそうだ。そう期待を抱かせるはずなのだが・・。



「なんだ・・?ここ。」
最初に言葉を発したのはラークであった。それほど大きくない目をさらに大きく、丸くして目の前の現状を見ている。秋も唖然としながら今の状況が読み取れず、なんとなく気まずくなった気がして顔を人差し指で掻いた。
「なんだ・・・ろうね・・。」
秋達はラシエからへとへとになるまで歩いてサンタマーナの街に着いた。
新しい出発点でもあるその街には・・・・

人間と獣人が共に暮らしていた。



広場はにぎやかだ。
犬の獣人の子供が人間の子供とかけっこをしている。
また、噴水がある傍では人間のお爺さんとあれは・・キツネかな?の獣人が世間話をしている。猫の獣人の店にてなにかの部品を買う女の人。
芝生の多い場所で寝転んで日向ぼっこをする人たち。
服の店を開く人。それを見る獣人。誰もが幸せそうな顔をして、のどかな時間を過ごしていた。

・・・・・。
それはとても奇妙な光景に思えた。
ラークの話とまったく違っていたからだ。
しかし・・・一番不思議に思っていたのはラークであった。
「人・・?なんでここに・・?」
ラークは目を凝らしてから目をガシガシとこすってもう一度見た。
しかし、変わらなかった。
「あれ?・・・あれれ??」
ラークはとてつもなく混乱しているようだ。頭を抱えて数秒。頭を掻いて数秒。

秋はラークが隣で悩んでいる中、期待を膨らませようと思ったのだが、なんだか一人浮かれるのもどうかと思い、一緒に悩んでいた。


「なぁ・・秋。聞いていいか?」
「あ・・あぁ。」
「あれ・・人だよな?」
「・・・そうみたいだね。」
「夢じゃないよな・・?」
「夢じゃないね。」
そう言ってラークの頬をつねってみせた。


「イタタタタ!!・・・・で、なんで?」
「知らないよ。」
「そうか・・・。」
「これも時空移動における一時的な記憶喪失?」
「そ・・そうなのか?」
「ん〜。よく分からないけど。さすがにおかしいかもしれないよな。一回、医者に診てもらうか?
「うー。」

ラークはさらに困って頭を抱えてうなって見せた。本当にどうなっているんだ。
混乱している二人を除いて、そこは平和だった。
「ラーク。とにかく街へ入って何か情報を入れようよ。医者にも診てもらったほうがいいと思う。きっと疲れているんだって。な?ロックの言っていたガトって人も探さなきゃ。」
秋はラークの後ろに回ってラークを押した。
「う〜。」
ラークはまだうなっていた。



その街は簡素な木のアーチから始まり、ラシエとは比べようにもならない大きな家が立ち並んでいる。ラシエとは違って獣人が住んでいるから大きめに作ってあるのだろう。
少し歩くと道の分岐路があった。
これは街の中に通っている三つの大きな道に通じる小道路と言われるところらしい。
まるで京都の街のつくりのようだ。
街の中心を基点として、そこから一番北側、南側、西側、東側それぞれに広場がある。
つまり、五つの広場がそこにあった。
その場所は店のある場所、休む場所、遊ぶ場所などと様々で街の人たちの活動の中心となっているようだ。街の人たちが賑やかに街の中を歩いていく。
「ふぅ・・結構広いな。ラーク、離れるなよ。」
秋はすぐそばにつくラークにそう言った。
「分かってるよ。」
ラークはまだふてくされているみたいだ。
一通り広場をすべて回ったときには、もう昼を過ぎ、日が最も高くなる時間帯を過ぎていた。


そしてここは中央の広場。
秋達はそこにいた二人の獣人の子供に目がとまった。
二人とも犬の獣人の幼い子供だ。
一人目はオレンジ色のパーカー、青のジーンズを着ていて、裾を少しまくってある。それに茶色のブーツ。毛は白と頭の少しの茶色で成っている。
どうやら泣いているようだ。尾は垂れ下がり、耳もしょぼんと折れている。
二人目はオレンジ色が主の毛色をし、少し白が混ざっている。
もう一方の子と違った緑のパーカーを着て、青のジーンズ、つば付の帽子を逆にかぶっている。こちらの子はもうひとりの子を必死に慰めている。でも、なかなか泣き止まないので困惑してしまっているみたいだ。
「どうしたの?」
秋が二人の獣人の子の近くにいく。それにラークもついていく。
二人の獣人の子がぴったりと息の合ったようにこちらを向いた。
「あのね。あのね。ルークのね。あっ、ルークってのはこの子。この子のこのおもちゃが壊れちゃったんだ。それでルーク、泣き出しちゃって。あっ、僕はケントだよ。」
ケントと名乗る獣人の子が、歯切れのいい言葉運びで一気に喋った。
相当、困惑しているらしい。
ルークと呼ばれた獣人の子は両手に大切そうにねずみのおもちゃを持っている。
下に車輪がついていて、ねじを巻くとゆっくりと走るタイプのようだ。
「うぇぇぇん・・・僕のおもちゃ〜。ケント〜どうしよう〜。」
「泣くなって、ルーク!!こんなものすぐにおじちゃんに直してもらえるって。ほら・・泣くなって!」
ルークが泣き、ケントがなだめる。それでもルークは泣き続けている。

「落ち着いて、落ち着いて!!ねっ?とりあえずちょっと俺にそのおもちゃ見せてよ。」
秋がその子と同じ目線になるまでしゃがんでそう言った。
「お兄ちゃん、直せるの?うくっ・・」
涙交じりでルークが秋におもちゃを渡す。
秋はおもちゃを手にとってしげしげと見つめる。
綺麗に磨かれたボディ部分。
機械であるとは思えないほどそれは滑らかに出来ていて、撫でてみてもひっかかるところはない。
そのおもちゃは小さくてかわいらしい、ねずみのおもちゃであり、耳が上にちょんとくっついて、鼻先がとがり、そこに小さく黒い鼻。
下に車輪が四つくっついている。
ねじの巻きによってギアが回り、それが車輪を動かすタイプらしい。ケントが言うにはこのギアが回るとおもちゃは前に進み、ユニークなことに尾が上下に動いたり、鼻が赤く点滅したりするらしい。
「で・・・どうだ?」
ラークが一生懸命におもちゃを見ている秋に向かってそう尋ねた。
「ん〜。車軸部分が壊れているみたい・・。ちゃんとした技師とかに頼まないと無理かな。」
秋はふうっ、と一つ息を吐いてから、そのおもちゃをルークに返した。
「な・・・直せないの?」
ルークがまたその大きな瞳から大粒の涙をあふれ出し始める。
「うっ・・」
秋はその瞳に見つめられて、あのCMの音楽が聞こえた気がした。
「困ったな・・」
秋はばつの悪そうに頭をかいて、助けを求めるようにラークの方を向いた。
ラークは知らんとばかりにふん、と鼻を鳴らした。
今までルーク相手に困っていたのが一人から三人に増えてしまった。
「ん〜、どうしたものか・・・」
ルークは泣き続ける。
三人が困っていると、
「あ?どうかしたのか?」
声のした方を振り向くと近くに一人の犬の獣人が立っていた。
年は三十くらいだろう。
黒い毛並みを持ち、耳がぴんとはね、短めの鼻。
服装は自分の毛よりさらに黒い服。その上に白衣を着ている。
その白衣には、少し黒ずんだ焦げ痕、何かが引っかかったような破れ痕が所々にある。
胸元には赤と黒のペンが目立つ、他にも何かが入っていそうだが見えなかった。
煙草をくわえた、少しがさつそうなその犬の獣人はポケットに手を突っ込みながらこちらにやってくる。


「おじちゃん!!」
ルークとケントが即座に反応した。
その獣人のそばに駆け寄り、その獣人に二人して抱きつく。
やめろって、とその獣人が言ったが顔はそれを拒絶しているわけではないことがすぐに分かった。
お構いなしに二人はじゃれついている。
二人がその獣人を好きなことは二人の子を見れば分かった。
子供達の尻尾はうれしそうにぶんぶんと勢いを増していた。
「おじちゃん!いつ研究室から出てきたの?」
ケントが尋ねる。
「ん?・・昨日の昼だな。それからは一日中寝ていた。ついさっき起きたばっかだ。まさか一日ずっと寝ちまうとは思わなかったよ。ハハハハ!!」
そう豪快に笑った後、その獣人は二人の子の頭を豪快に撫で、少し落ち着かせた。
「で?何があったんだ?ん?」
獣人は二人の目線に自分も合わせるようにしゃがみ、そう尋ねた。
「あのね。これ、壊れちゃったの!!おじちゃん、直して?」
ルークはもうすっかり泣き止んでいた。でも声はまだ少し涙声であった。


「お?これか?あいよ。」
獣人がそのおもちゃを手に取る。あごに手を当て、上、下と一通り眺める。
「ふむ・・・」
そう一言言ったその獣人はポケットからドライバーやらなんやらを取出し、その場で解体を始める。
ボディを開け、中の構造を見、工具でかちゃかちゃと作業する。
「よし、出来たぞ。」
その間、3分もしなかった。
それしか経っていなかったのに、そのおもちゃは元通りの原型へと姿を変えていた。
ルークが試しに動かしてみる。ねじを巻き、手を放す。するとそのおもちゃはからからと音を立てて進みはじめ、尻尾を上下に、鼻のランプを照らしながら走っていく。
完全に直っているようだ。
わっと喜ぶ声を子供達はあげた。
「す・・すごい。」
秋はその手際のよさに驚いた。
ルークはおもちゃを拾い上げ、また獣人のところへ戻ってきた。
「ありがとう♪おじちゃん!!わーい♪」
ルークがそのおもちゃを持ってはしゃぐ。
「ありがとう!!おじちゃん。やっぱ、おじちゃんはすげぇや!!」
ケントもルークと一緒にはしゃいだ。
「おーおー、よかったな。次からは壊れないように大事に使うんだぞ。」
そう言ってもう一度二人の頭を豪快に撫でる。
「うん!!」
そう二人が並んで大きくうなずいた。
「よし!いい子だ。・・・で?あいつらは誰だ?」
その獣人は秋達を指差してそう子供達に尋ねた。
子供達が秋達を見る。ぼーっとその場を眺めていた秋と目が合う。
少しの間、二人はこちらを見て、その後、互いに顔を見合わせて
「えっと・・・・知らないお兄ちゃん達。」
ケントがそう言った。
そういえばこっちはまだ自己紹介もしていなかったことに気づいた。
「あ・・俺、小向井 秋って言います。」
「俺はラークだ。」
秋達は簡単に自己紹介をする。
「秋にラークか。お前らこの子達に変なことしてないだろうな?」
そう少し重みのある声で言った。その圧力感には何か怖さを感じる。ただものじゃない、そう感じた。
「違うよ!おじちゃん。この人たち、僕のおもちゃを直そうとしてくれたんだよ!!」
ルークが獣人の白衣の袖をつかんでそう言った。
獣人は本当か?とルークに尋ねてルークはそれにうなずく。
「そうか、疑ったりしてすまなかったな。お前ら、見ない顔だな。」
そこには先ほどの怖さは存在していなかった。子供達と接していたときの優しい口調に戻った。
「はい。俺達、時空管理局目指して今、旅しているところです。」
(別に旅なんて大層なもんでもないだろう・・)
と横でラークがぼそっと言ったがそれを秋は無視した。
「へぇ、時空管理局目指して、か。随分と遠くまで行くんだな。あそこになんか用なのか?」
その獣人が煙草の煙をぶわっと上に吐き出してそう言う。
「あぁ、こいつをもとの世界に帰さなきゃいけないからな。」
ラークがそう言う。
「なるほどね。こいつもこっちに飛ばされてきた人間ってことだな。」
秋の目前までその獣人は顔を持っていってしげしげと見る。
「え・・こいつ“も”?」
そう言った瞬間。



ぐぅぅぅぅぅ・・



秋とラーク、どちらも同時に腹の虫が鳴った。
「わっ!!」
顔を真っ赤にしてお腹を押さえる。
無理もない、ラシエの村を出てからまったく食べ物を口にしていなかったのだから。
「ハハ・・ハハハハ・・。ごめんなさい。」
秋は恥ずかしくなった。
それも他人の目の前で。ラークも同じようだ。
しばらく三人の獣人は秋達を見ていた。
沈黙・・・・。
そして・・・・・
「ぷ・・・ははははっ!!わははははははははっ!!」
笑い出した・・。
秋はさらに恥ずかしくなってうつむくことしかできなかった。
そうしていると・・・突然、その獣人に肩を回された。
「ふははっ!!お前達!気に入った。今日は俺のところに泊まれ!腹いっぱいご馳走してやる♪」
心の中では悪いと思っていても本能には逆らえなかった。
「いいのか!?」
ラークが舌を出して嬉しそうに尻尾を振った。ラークは本能に忠実だ。
「おぉ!!いいぞ!大歓迎だ!」
その獣人は物凄い力で秋をそのまま引っ張っていこうとする。
「で・・でも、俺達、ロックの知り合いの”ガト”って言う人を探さなきゃいけないんです。だから・・」
秋は本能を少しだけ抑制してそう言った。
「ガトに会いに来た?なら心配いらねぇ。」
「えっ?」
秋がそう言うとその獣人は人差し指を立てて、にっと笑った。
「この俺がガトだからな!!がはははははっ♪


えぇぇぇぇぇっ!!??



沈み始めた夕日の中に、秋とラークの驚きの声がこだました。
それは・・あまりにも突然だった。突然過ぎた・・。




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