エピローグ
「・・・ん。」
「ぉ、起きたね。ラーク。さすがにラークもこんな状況じゃ寝てられないってか。」
「まぁ、な。ってことは秋も?」
「うん。ちょっと嫌な夢を見た気がして。でも内容はよく覚えてないんだよな。ラークはどう?」
「あー・・・何回か頭を殴られるのに似たような感覚を感じた気がするが・・・特には。」
「そう。」
二人は話してゆっくりと背伸びをする。当然のことながら近くで燃えていた焚き火は消えている。さらには小屋の隙間から光が斜めに差し込んでいた。どうやら雨はすっかり上がっているらしい。腰を上げて小屋を出て、空を眺めればそこには雨上がりの真っ青な世界が広がっていた。
あまりにも清々しい陽気に、背伸びと欠伸が同時にする。
秋が横を見れば、ラークも鼻をひくつかせて、口が裂けそうなほど大きな欠伸をした。
「なーんか嫌な夢を見た割には、身体がすっきりしているんだよな。」
「あ、それ分かる。昨日あれだけ歩いたのに足の疲れとかすっかりなくなってるんだよね。まるでゲームとかで宿屋に泊まると一気に回復するみたいに。」
「なんかその例え、問題アリな感じがするのは気のせいか?秋。」
「え、そう?」
二人で笑いあう。
確かに身体の疲れも、気分もすっかり良くなっている。さらに不思議なことは、旅先でつけた小さな傷は完治しているし、汚れた服まで綺麗になっていることだ。(脱いだ緑のジャケットが、綺麗に皺一つなく畳まれて横に置かれていたことに、秋は驚いた。見ればラークの毛並みもさらさらになっている。何か人為的な行動が起こされた・・・という考えが出はしたが、生憎この小屋には秋とラークしかいなかった。
(だとしたら誰が?)
二人は小屋の入り口で顔を引きつらせながら笑った。
「えっと・・・俺達じゃなかったら誰がこんなことするのかな・・・。誰かここに住んでいる・・・とか言わないよね。ラーク。」
「いやいやいや。それはないそれはない。第一、ここに来たときも、今ここにいる間も他の誰もいねぇし。さらに見てみろよ、ここには誰かが暮らしているような形跡ってないだろ?考えすぎは悪い癖だ、秋。」
確かに、ここにはヒトが住んでいるような形跡はまったくない。布団や衣類が置いてあるわけでもなく、家具なども見当たらない。あるのは小屋の真ん中にある、夜に火を燃やしていた場所があるだけだ。こんなとこにヒトが住んでいるわけがない。
二人の頭の中には、すでに一つの考えが浮かんでいる。
(ここには何かがいる!?)
しかし口に出してしまえば、それは一気に現実と化してしまう。それだけは認めたくなかった。確かにこの世界には、そういった類のものもあるかもしれないが、(魔法とか不思議な力とかがあるのだから)実際には見えないものをヒトは恐れるのである。
だったら、考えない方がマシではないか。
「そ・・そうだよな。誰もいないよな。じゃあ、このジャケットの皺とかは何なんだろうな・・・とかはスルーしたほうがいいのかな。そうだよな。そうだよ、はははははは。」
「そうそう。早く準備して、行こうぜ。誰もいない誰もいない。」
『・・・いますけど?』
何かが、会話に混ざった。
「・・・。」「・・・。」
それは笑いと面白みを混ぜたような声。くくく、とかみ殺すように笑った。
勢いよく振り向けば、そこには秋より頭一つ分くらい身長の高い、細身の姿があった。その姿はサーカスに出演するピエロのようである。赤鼻、顔は白く、片目の周りは緑の星型にペイントされている。服は上は引き締まった赤服、下は緑のスパッツのようなもの。靴は先がとんがっている。
頭はアフロではなく、靴と同じような尖がった薄緑色の髪が天を向いている。
奇妙な道化師は、宙に浮いているというさらに奇妙な状況をもってその場にいた。
「!!」「!!」
一瞬その姿に唖然とした後、我に返った秋とラークはすぐさまその道化師を正面に向かい合い、態勢を整えた。秋は久しぶりだが鋭敏に感覚を研ぎ澄ませ意志の力を発動させ弓を、矢をつぎ向ける。ラークは牙を剥き、毛を逆立て警戒した。
「ちょ、ちょっと待ってくださいって。敵じゃありません怪しいもんじゃありません。怪しいもんじゃないって言うやつに限って怪しいとかそういうのありますけどまったくと言っていいほど怪しくはありません!!・・ってこれじゃ無限ループですね!!!ってもう!!えっと、とにかく聞いてください!!」
道化師は言葉をまくしたてて言葉を紡ぐだけ紡いで慌てふためき、上半身を少し反らせながら両手を前で振った。明らかに止めてくれと言わんばかりの狼狽に、秋とラークも唖然とする。
挙動不審に振舞うその姿からは敵意は感じられない。二人ともそう思ったのか、ありのままの現実をそのまま受け入れ、意志の力を収め、戦闘態勢からなおった。
話を聞くにその道化師は、ここに住まう精霊・・というにはイメージがだいぶ違うような気がするがそうらしい・・であるという。何故こんなところに精霊が住んでいるかなんて聞いてはいけない。
この話のためだけに作った捨てキャラ(扱い酷い)であるため、特に理由とかは考えない。(極悪非道)
「ここは旅人の皆さんを癒す秘密の休憩所。それを望むものだけの前にその姿を現し、そして彼らのために癒しを提供する万能なる秘密小屋。
普通の休息に比べて効果倍増、健康促進、病魔滅殺、大病予防、性欲増進、目の疲れ、肩の疲れ、腰の痛みに急〜心急心♪
とにかく何でもござれのこの癒し小屋。
私はこの小屋に居つく精霊。よく笑い、よく黙り、よく喋り、よく眠る。よく食べて、よく遊び、よくはしゃぎ、よく・・・夢を見る。そんな精霊。不思議な精霊。
時にはあなたの話相手になりましょう、時にはあなたの飲み仲間になりましょう、時にあなたの対戦相手となりましょう、時にあなたの仲間となりましょう。私は万物になりうるもの、そして万物の調和を元に善し悪しを判断しヒトの望みを叶えるもの。決して赤い石とは関係ない。あれはまがいもので凶事であるものだ。一緒くたにしてもらっては困る。
さて、これでお分かりでしょうか?言うなればここは、RPGとかにあるような、てぃらりららったった〜♪(ドラ○エ)みたいに一気に回復をしてくれるようなところなのです。まぁ、あんなに一瞬で事が運ぶわけではないんですが。
そして特殊なこととしては、私は無償で彼らに癒しを与えているわけじゃないのです。私が欲しいものは、旅人達の夢。私の与える夢の中で、どう旅人が面白い行動をとってくれるか、それを見るのが大好きなのです。そして私は、それを見ることで満たされる。つまらないもの、面白いもの、胸をふるわせるもの、なんでもいい。それを見ることが私にとってすべて。
それが見れるなら私は何でもいたしましょう。決してあなたたちに奉仕がしたいわけではないのです。ちゃんとした見返りをもらって生きています。それが私のすべてなのですから。」
(自称)精霊は、ずらずらと言葉を並べて説明を終わった。とりあえず要約するには。
人の夢の中身を見る代わりに回復してくれる便利な宿屋(クリーニングつき)・・というものである。
「このところどんどんファンタジー染みてきて、それに慣れてきてる自分がちょっと怖かったりするんだけど、やっぱりこういう場所もあるんだ。ラークは知ってた?」
「いんや〜。知らなかったな。それにしても凄いな、夢と引き換えに回復、か。」
改めて畳まれた皺一つないジャケットを広げる。毛並みのつややかさを眺める。いい仕事していますな、と賞賛したくなる出来である。
感嘆の息を漏らしているとその精霊は恭しく礼をして、ニコリと微笑んだ。
「満足していただけたようで何よりです。勿論こちらも満足したので五分五分ですが。」
後ろを振り返って口元をにやりと歪め、肩を上下に震わせている姿を秋とラークは訝しむ。
「どんな夢を見させたんですか。」「あぁ、俺もそれは気になる。」
そう尋ねると、その精霊は一度秋達に向き直ってからすぐにまた後ろを向く。先ほど以上に身体を震わせてくくく・・と笑う姿から、秋とラークは寒気のようなものを覚える。
「いや、何ってね。まぁ・・・ですね。そりゃもう色々と。ツンデレとか悪戯とかちょっとセクハラ的なものまで。どんな行動をおこすか楽しませていただきました。特には覚えていないはずです。まぁちょっとした痛覚とか感覚的なものは残っているかもしれませんが、実際の内容はしっかりとは把握できないようにしていますから。」
精霊はまた一気に喋る。どうやら教えてはくれないらしい。
「痛覚って何だ・・。」「この何だかちょっと頭痛いような気がするのもそのせいか?」
二人で必死に夢の内容を思い出そうとする。しかし、何かがあったことだけは分かるのだが、実際に何があったのかはまったくといっていいほど思い出せない。
しばらく考えて、別にいいか・・と思い直す。確かに気になりはするが、覚えてもいない夢の代償として傷やら疲労やらを取り除いてくれたのだから文句はあるまい。
「まぁ、それはいいとして・・・。」
「なんです?」
秋が先ほどの会話から拾い上げた単語を口に出す。
「赤い石のこと・・・知ってるんですか?」
「!?」
ラークが思い切り目を見開いた。どうやらラークは長話に最後の言葉を聞き取っていなかったらしい。秋が尋ねると、コホンと咳払いをして精霊は佇まいを直す。真剣な表情をとってまたもう一つ咳払い。
「赤い石のことを知っているらしいですね。」
「はい。」「俺達は・・・それを放っておいちゃいけないんだ。」
赤い石。結果として人の望みを叶えることの代償として人を狂わせ、被害を及ぼすまだそれがどういったものかも分からない物体。どこに出てくるかもどうして出てきたのかも分からない。
「先ほども言ったとおりあれは・・・まがいもので凶事であるものです。害を及ぼし叶えるための道具。その感情が強ければ強いほど、物体が大きければ大きいほどそれは脅威となる。人の感情を利用し世界を捻じ曲げる存在。そうとしか言えません。」
「世界を捻じ曲げる・・・。」
「脅威・・。」
「私に教えられることはほとんどありません。私はここに居続け、ここを見守り、夢を見させて癒すそのための存在。教えるには向いていないし、教えて世界に多干渉をすることもしません。私はそれだけの存在なのです。」
そう言うと、彼の姿はゆっくりと薄くなり始めた。
「おっと、そろそろ時間ですね。あなたたちがちょっと特殊な存在でしたので話しかけてみましたが・・・普段はこうして前に出ることは稀なこと。もう私は消えます。あとはあなたたちで。」
恭しく礼をして、さらにまた薄くなる。薄くなった場所から精霊の向こう側の景色、小屋の壁が見えた。どうやら本当に消えるらしい。ここで普通なら待ってくれとか情熱的に叫ぶものなのだが、勿論この章はお遊び的要素なので、深くは突っ込まない。ただその状況を受け入れ、その状況を本当のものと受け取る。
「答えは自分達で探せって事なんですね。」
「まぁ、そのほうが面白いっちゃ面白いんだがね。」
そう言って期待を抱かせてくれる二人に、精霊は一度驚き、そして満足げに微笑んだ。
「あなた達の今後に、幸いがありますように。」
そう残して精霊の姿が消えていく。瞬きをしたときには薄れていた姿はすでに消えていた。静かになったその場所で、秋とラークは二人、精霊が消えた場所を見つめていた。
「さて、行くか。」
「あぁ。」
皺一つないジャケットに手を通す。気候が少し温かいので、秋はその皺一つないジャケットの腕をまくり、また皺をつけた。そうしてから少し勿体無いな・・・と少し遅い考えを巡らせ一つ笑った。
その考えを見て取ったラークもくすりと笑った。
「で、どんな夢だったんだろうな。」
「あぁ、そうだな。まぁ、今更遅いがな。」
「だな。」
二人は歩き出す。
次のストーリーに向けて。
立ち寄った小屋には誰もいなくなった。
ただ黒ずんだ薪が、からりと音を立てた。そしてその瞬間、その薪はまた新品の薪へと換わる。
それは次の訪問者を待っているかのように、ただ外からの光を受けてそこにあり続ける。