プロローグ
降られて着いたは夢の小屋
「ふわぁ・・・こんないきなり雨が降ってくるとは思ってなかったよ。うへっ、冷たいっ!!」
「うぅ〜・・気持ち悪い〜・・」
秋は濡れたジャケットをばさばさと振りながら、ラークは全身を震わせながら言った。頭から足まで濡れに濡れていて、絞れば水が何リットルも出てきてしまうのではないかというほどだ。
彼らは森の中を歩いている間、突然の豪雨に襲われた。最初はまったくといっていいほど気づかなかった。彼らにはその一粒が、まだ乾ききっていない朝露が落ちてきたのだと思った。しかしすぐに、それはまた一つまた一つ。小粒、大粒と姿を変えて、後には一気に上から降ってくるような状態になっていた。バケツをひっくり返した・・という表現があるが、ここは森の中。表現するなら、上からシャワーを浴びているような感覚だ。結局、濡れることには変わりない。多少、木が傘になって緩和されているものの、完全な穴あき傘であるため雨は分散して落っこちてくる。
木にいくつもの雨粒が当たるたびに、テレビの雑音のようなざーっという音が響き渡り、そして一気に身体を濡らしていく。すぐにもう、ずぶ濡れ状態。雨もしたたる・・・という言葉は、可もなく不可もなく、の二人にはあまり似合いそうもない。
手ごろな雨宿りの出来る場所を探して走っていたところ、彼らは偶然小さな小屋を見つけた。
木だけで組まれた簡素小屋。しかし、まったく雨が凌げない外よりはマシである。
二人はこうして小屋の中にかけこんだ。
中は意外にしっかりとしている。何かの童話の冬山で出てきそうな小屋で、水道は外ではあるがしっかりと通っているらしい。中は中心に薪をくべる囲炉裏があり、そこには誰かが使わなかったのか、まだ真新しそうな薪がすでに用意されている。火をつければ暖まれるだろう。
雨に濡れた服を空いた床に広げて、秋はバックから代えのシャツを取り出した。これは、サンタマーナのガトの妻、美咲が用意してくれたもので、ずっと大切に使っている。本当にお世話になってるな、と心から美咲の優しさにじんと胸を打たれる。
「ここでしばらく雨宿り・・・だな。雨漏りもないみたいだし・・旅人専用の休憩小屋かもしれない。ついてるよ、ラーク。」
「おぅっ、そうだな。偶然だが助かった・・・・っへぇーーっくしょぃ!!」
「ぉ、大丈夫?」
「うぅ〜・・。」
秋は、鼻水をたらすラークを横目で見て、バックからさらにカルテスの街で手に入れた簡易ライターを使って、さらにいらない紙を取り出して火をつけ、それを薪にくべた。小さな灯が明滅し始め、息を吹きかけてそれを大きくする。しばらくして、ぱちぱちと爆ぜる音と共に薪に火がついた。
「これで、よし。」
「ん。あったかぃ。」
出来るだけ熱を逃がさないように、とラークは火の近くで、そして燃え移らない程度の絶妙の距離をとって丸くなった。ラークの銀色の毛とまだ残っていた雨粒が、火の光に当てられてキラキラと輝く。
「ラーク、まだ濡れてるよ。風邪引かないようにしっかりと拭いとこ。」
「ん。ありがとな。」
「いえいえ。」
秋はさらにタオルを取り出してラークの毛を流れに沿って撫でていく。端から見ればペットの世話を甲斐甲斐しくやっている主人とそのペットのよう。しかし、実際はお互いを気遣って信頼しあう友達、仲間、はたまた・・・。
秋は手を後ろについて足を前に投げ出し、そしてラークはそのまま丸くなったまま火の温もりに目を細めている。特にこれといった会話もなく、それぞれがぼんやりと火の揺らぎを眺めている。
時はもうすでに夕方。外は未だに雨が降り続いていた。
雨によって奪われた体温と、体力。そして火の揺らぎが心地よい眠りを誘う。
秋の瞼は、ゆっくりと・・ゆっくりと下がっていき、頭ががくっと前に落ちたことではっとまた目覚める。そうしてからラークの方を見てみれば、もうすでにラークは温かさに包まれて眠りの中へと入っているようだ。何とまあ、優雅なことで。
「それにしても・・・暖かいな。それに何だか・・いい匂い。何か薪に入っているのかな・・・。」
秋がそっとラークを起こさないように呟いた。もう半分眠りに入っている状態で、自分が何を考えているのか、呟いているのかも分からないような状態だった。
薪から出ているのは、癒しの効果をもたらすアロマの匂い。そしてその癒し効果は、眠りを誘う。
そんな匂いが、薪からするなんてことは普通ない。
そんなことすら判断出来ないくらいに、秋は疲れきっていた。
「俺も・・・少し寝よう。」
火のぱちぱちと鳴る音が聞こえる。外での雨のざーざーという音が聞こえる。
二つが交じり合って絶妙な調和をもたらし、アロマの助力もあって眠気は一気に増していく。
「ん・・・。」
秋が横になったのと、目をつぶって息を整え出したのはほぼ同時である。
そこにはただのぱちぱちと鳴る音だけが響いていた。
**
そして現れたのは一つの影。背は高く、秋と並ぶと頭一つ超えてしまうぐらいの体躯。そして身体は細くしなやか。しかし火からはずれた場所にいるため、どんな姿をしているかまでは見えなかった。
「はい・・・今回も中々の効果のようですね。喜んでいただけたでしょうか。
ここは旅人の皆さんを癒す秘密の休憩所。それを望むものだけの前にその姿を現し、そして彼らのために癒しを提供する万能なる秘密小屋。
普通の休息に比べて効果倍増、健康促進、病魔滅殺、大病予防、性欲増進、目の疲れ、肩の疲れ、腰の痛みに急〜心急心♪(ぉっと、知らない子もいるかな?)
とにかく何でもござれのこの癒し小屋。ここで会ったのも何かの縁。私があなた達を癒してさしあげます。
・・・え?私?私はこの小屋に居つく精霊。よく笑い、よく黙り、よく喋り、よく眠る。よく食べて、よく遊び、よくはしゃぎ、よく・・・夢を見る。そんな精霊。不思議な精霊。
時にはあなたの話相手になりましょう、時にはあなたの飲み仲間になりましょう、時にあなたの対戦相手となりましょう、時にあなたの仲間となりましょう。私は万物になりうるもの、そして万物の調和を元に善し悪しを判断しヒトの望みを叶えるもの。決して赤い石とは関係ない。あれはまがいもので凶事であるものだ。一緒くたにしてもらっては困る。
さて、これでお分かりでしょうか?言うなればここは、RPGとかにあるような、てぃらりららったった〜♪(ドラ○エ)みたいに一気に回復をしてくれるようなところなのです。まぁ、あんなに一瞬で事が運ぶわけではないんですが。
そして特殊なこととしては、私は無償で彼らに癒しを与えているわけじゃないのです。私が欲しいものは、旅人達の夢。私の与える夢の中で、どう旅人が面白い行動をとってくれるか、それを見るのが大好きなのです。そして私は、それを見ることで満たされる。つまらないもの、面白いもの、胸をふるわせるもの、なんでもいい。それを見ることが私にとってすべて。
それが見れるなら私は何でもいたしましょう。決してあなたたちに奉仕がしたいわけではないのです。ちゃんとした見返りをもらって生きています。それが私のすべてなのですから。」
よく喋って、その精霊は紳士のように右手を上から下へ振り、足を交差させて礼をした。
しゃーんと、鈴の音が響いた。
「さて、此度来た旅人たちは何を見せてくれるのか。尚、この話は本編とはまったく関係のない話となりますので、すべてフィクションでございます。風景が思い切り変わったり、文章が変だったり、文章で書けない部分をイラストで補ったりといたします。また本編とは違った世界が開かれると思っております。まぁ、言うなれば・・・次の本編の話までの繋ぎ、そして休憩タイムと思ってもらって構いません。さらに、この章は・・書いている途中にあのダメ管理人が何かを思いついた場合、勝手に話が増えたり減ったりする可能性がありますが、ご了承くださいませ。それでは、私の夢の話・・・お楽しみくださいませ。ませませませ〜・・・・。」
そう言って、精霊はゆっくりと闇にとけていく。
何もそこになかったかのように。誰も、何も存在していなかったかのように。
ただ・・・火だけがぱちぱちと爆ぜながら、輝き続ける。