第三章 “イベント”の街 カーフィス

最終話  願い続ければきっと

 

ここに来てから、鷹人と優太のうちに来てから、ずっとやりたかったことがあったんだ。

今まではイベントでごたごたしてて出来なかったけど。

今なら出来ると思うんだ。うん、今っきゃない!!

久しぶりだなぁ♪

 

「うみ―――っ♪」

秋は前に広がる大海原に向かって思い切り叫んだ。

青い空。青い海。少し肌には暑い陽射し。白い砂浜。暖まった砂地。海に陽射しが反射してちらちらと青い海に宝石をばら撒く。波の音。波は穏やか、寄せては返す波は心地よい音を奏でている。

潮の香り。ちょっと磯・・・塩、かな。その匂いが鼻につく。

でもこれらすべてで海!!これらすべてあってこそ最高の海♪

 

―――秋

 

うーーんっ、気持ちいい!!

そう!!ここに来た時からずっと出てみたかったんだ。なんせ、イベントの準備期間中は入っちゃいけないって鷹人達に言われていたからね。あとは、鷹人達のお疲れ様祝い、か?

俺は鷹人から水着を貸してもらって、いち早くビーチに出たんだ。ハーフパンツ型の水着、黒地に外側には白いラインが入っている。ガタイのいい、鷹人のものだからちょっと大きめだけど、紐を結べば何も気にならない。

子供っぽいと思うかもしれないかな。でもなんだか騒ぎたくてウズウズしてるんだ♪

なんせ海なんて行ったのは本当に久しぶりだから。自分の家は夏に出かけることはあるけど、やっぱり山系だもんな。海なんてめったに行かなかった。なんだか前に父さんが海で溺れたことがあるとか、なんとか・・。

まぁ、そんな前説はいいとして・・・昨日の重い気分を一気に晴らすために、今日は目一杯楽しまなきゃ!!

「おーい!!はやくこいよぉ〜。」

俺は浜辺にやってくる三つの影を見つけて、その影に向かって大きく手を振った。

今日のビーチは人がまったくいない。鷹人達のプライベートビーチか?と思ってもみたが・・そんなわけないよな。ただ皆、昨日の“イベント”の疲れがたまって眠っているだけなんだよな。おそらく。

・・ん?ということは鷹人たちにも迷惑かけてる?ありゃりゃ・・・。あとで謝っとかなきゃな。

 

――――ラーク

 

うぃ〜眠いな・・。今日はまた一段と暑い。そのせいでいつもよりしっかり起きれたのは自分でも驚くものだ。(でもなんか起きたら体のあちこちがひりひりして、周りで他三人が笑ってたけど・・何かあったか・・?)

あ?何・・・俺、また寝ぼけてた?いつもよりしっかり起きれたってのは気のせいか?

ん〜、この癖はなんとか直さなきゃいけないな・・。度が越したら俺、何個たんこぶ出来るかな。

うわっ、マジでやべぇ。

俺は特に水着なんて用意する必要はないからな。・・・というか、俺が水着なんて着てたら変だろ?

あ、そこ・・笑うな。俺はこのままでも充分泳げるぜ〜。実はこの首輪もそこにぶらさがるペンダントも防水仕様なんだぜ。へへん。

さて!!今日は泳ぐぜ〜。


・・・犬掻きで。

俺は遠くで手を振る秋に手を振った。

「お〜い、秋〜!!」

 

―――優太

 

今日は皆で海水浴!!いつも間近にあるからそんなに頻繁には泳いだりしないんだけど、今日は三人の兄ちゃんと一緒♪ちょっと昨日はしゃぎすぎて眠いのもあるけど、今しかないかもしれないから、秋兄ちゃんたちは明日出発するって言うから。うん、今日しかないんだ。

僕はいつもどおりの海水パンツ。兄ちゃんも小さい頃に同じようなものを使っていたんだって。

・・・・ふ〜ん、今の体じゃこれは兄ちゃんには・・きつすぎるよね。ふふふ。

今日ははちまきも外してます。泳ぐんじゃ邪魔でしょ?



よっし!!今日はたっくさん、はしゃがなきゃ!!

兄ちゃんにもはしゃいでもらわないとね。

 

秋兄ちゃんが呼んでいる。ラーク兄ちゃんが走っていく。

「ちょっと待って〜♪」

僕も走り出した。

楽しまなくっちゃね。

 

―――鷹人

 

秋達には短い間だったけど、世話になった気がする。だからこそ(ちょっと眠いけど)今のうちに仲間らしく遊んでおこうと思うんだ。仲間、でもいいよな?

俺は、やっと仕事が終わったんでバンダナも外している。仕事中は気合いを入れるためにああやってバンダナを巻いている。だから今日は仕事もないから、それに次のイベントの準備までしばらく空くから外しておこう。優太と同じ立った髪。でも優太よりは短いから同じ、というのにはちょっと違うかもしれない。俺はハーフパンツ型の赤地の義父さんの水着を穿いている。


俺のは秋が使っているからな。・・・なんだか、自分の水着を他の人が穿くってのはちょっと恥ずかしいかもしれない・・・。

 

空を見上げた。澄み渡る空。最近は切羽詰ってこんなにもしっかりと空を見上げたことはなかったな。・・・・綺麗だ。

気持ちが晴れると、こんなにも清々しいのか。・・・すべて喋れてよかった。心の奥にあった暗闇が晴れた気分だ。

先に走っていくラークと優太。そして秋のところまで行き着き、そして振り返る。

「鷹人もはやく〜。」「はやく〜。」「兄ちゃん〜。」

皆が呼んでいる。

「しょうがねえな♪」

俺は、走り出した。

 

 

皆で泳ぐ。ビーチボール。すいか割り。

砂浜で走っているだけでも楽しかった。とにかくはしゃいだ。

 

「ふーっ。」

一息入れて秋は木陰に腰掛ける。砂は温かみを帯びていたが、なんだかそのじんわりとした温かみが心地よかった。木陰は日向の部分と比べると格段と涼しかった。

秋がゆっくりと仰向けに寝転がると、突然上を何かの影が覆った。

「秋、楽しんでるか?」

鷹人が秋を見下ろすように笑顔で立っていた。そして、秋の横にと腰掛ける。

「うん、めっちゃ楽しんでるよ♪」

そう言って、よっ、と力を入れ起き上がった。

「そうか、よかった。」

そう言って、鷹人は砂浜を見た。砂浜では、優太と鷹人が砂で山を作っていた。優太が砂を集め、組んでラークが水を加えていくといった過程をしている。

それを見つめ、鷹人はふふっと笑った。

その笑顔を秋はじっと見つめた。すると鷹人はその視線に気付いたのか秋の方へと顔を向けた。

「な・・・なんだ?俺の顔になんかついてるか?」

すると秋は首を横に振る。

「違う違う。なんかさ、似てるなって思って。」

「?」

秋は砂浜の方へ顔を向ける。鷹人もそちらの方へと目を向ける。

「優太とさ。」

「兄弟なんだから当たり前だろ?」

怪訝な目を向ける鷹人を見て、うん、そうなんだけど・・と言って秋は少し考えた後、言った。

「最初は、性格的に本当に似てない兄弟だなって思ってたんだ。なんか人懐っこくて優しい優太に比べてさ、なんだか・・鷹人は無愛想だな、って。」

鷹人が少し、ムッとした顔を作る。それを秋はごめんごめんととりなした。

「でもさ、笑ったときの顔が、やっぱり同じ、なんだよな。なんだか、安心できる笑顔ってやつ。それを見たらやっぱり鷹人も優太と同じ性格なんだなって。兄弟なんだな、って感じたんだ。鷹人のお母さんもきっとこんな笑顔をしてたんだろうね。・・・・守りたいって気持ち、わかる気がするよ。」

秋がそう言って鷹人ににこりと笑って見せた。

「そう、だな。俺は自分の顔だからよくは分からないが、優太を見てると本当に母さんの面影を見るよ。そう、おとといの夜、優太が俺と二人きりで話があるって言ったときもそうだったな。」

秋があぁ、と思い出したように相槌をうった。

「そういえば、あの夜、優太と何を話したの?」

ん・・・そうだな。とつぶやいてあの夜を思い出すように鷹人は瞳を閉じた。

 

俺が物音をした方に顔を向けると、そこには力強く手を握っている優太がいたんだ。

「どうした?こんな夜遅くに。」

「兄ちゃん、話がある。」

「どうせまた赤い砂を使うなと言うんだろ?何度言っても無駄だ。俺はこれで最高の出来の花火を完成させるんだ。」半ば、優太を突き放すように言ったんだ。

そしたら優太は俺に力強く抱きついて来た。

「何度でも言うよ。あんなものを使うのをやめて。お願い。あんなものなくても兄ちゃんの花火は最高の出来だから。大丈夫だから。もう、やめてよ。」

優太が顔を胸にうずめて声を押し殺すように泣いていた。そのことについては少々折れたが、それでも赤い砂を使おうという気持ちは完全には揺るがなかった。

「優太。これはお前のためなんだ。」

俺はそう言って、優太を離し、涙をそっと拭ってやった。けど、涙は止まらなかった。優太は強い目で俺を見つめてた。

「僕のため、僕のためって言うけど・・僕のためでこんなことされても迷惑なんだ!!僕は・・・僕だけじゃない、兄ちゃんも幸せであってほしいんだ!!だから、僕のためで兄ちゃんが傷つくのは見たくないんだよ!!バカ!!」

俺は目を丸くした。自分はどうなってもいい、それでも他人を幸せにしたい。それは自分は死んでも優太を産みたいと言った母さんと同じだった。そのとき、母さんとの約束が俺の中でまた思い出されたんだ。

なんだか、母さんを見ているみたいだった。

――――――――――――――――――――――――――

「俺は知らずのうちに優太をもう一度抱きしめ、何度も謝ってた。そして、優太と赤い砂は使わないって約束した。」

「へぇ・・・。優太、頑張ったんだな。」

そう秋がその話に感心していたとき・・

「ん?僕がなんだって?」「なんだって?」

優太とラークが傍に寄って来ていた。

「あ・・なんでもないよ!!優太と鷹人は仲良しだなって話をしていただけさ。」

「そ・・・そうだぞ。」

秋と鷹人が慌てたふりを見せた。それを不思議に思って優太はラークと顔を見合わせた。

「?・・・まぁいいや。でも兄ちゃん、とっても優しいよ♪いつだって僕のことを気遣ってくれるし、怖いときにはいつだって一緒に眠ってくれる。お風呂だって一緒だよ。」

「こ・・・こら、優太。そんなプライベート情報を流さなくても・・。」

顔を真っ赤にして鷹人は言う。

「へぇ〜♪」

秋とラークが同時に感心する。

(お?結構、ラークと同レベルか?)秋が心の中でにやける。

と、鷹人の反応が楽しいのか、優太はいじわるな顔を浮かべ、さらに暴露話を続ける。

「でさ、僕が洗ってあげると兄ちゃん、たまーにちんちん大きくなったりするんだ。でね、それがまたね・・・♪」

「ゆ・・ゆうた!?」

これまで見たことないような慌てぶりを見せ、鷹人が全身を赤くさせている。

「ふぅ〜ん。」

そう言って秋、ラーク、優太が一斉に鷹人をにやけた顔で見つめた。

明らかに「楽しんでいます」という顔をしている。

「こうなったら確認しなきゃ駄目だよな。」と、うんうんとうなずく秋。

え?

「そうだな、確認しなきゃ。やっぱり。」とラークも納得。

えええっ?

「兄ちゃん、覚悟しなよ?♪」今まで見たことないようないじわるな顔をして、優太が笑う。

えええええっ!?

「や・・・・やめろぉぉぉっ!!!」

 

 

他愛もないことをしてその日は一日過ごした。秋達にとっても優太にとってもそれはいい一日になったに違いない。それでも・・・

「こんなのってありかぁぁぁぁぁっ!?」

「ありぃぃぃっ♪」

 

楽しいんだけど・・・・素直に喜べない・・・==;
俺の叫び声は波の音でかき消される。

 

 

秋達が出発する日の朝。

鷹人と優太は秋達を玄関まで送り出す。

「じゃあ、元気でな。秋、ラーク。本当にありがとう。」

「秋兄ちゃん、ラーク兄ちゃん。楽しかったよ♪」

「うん、そっちこそ元気で。こちらこそ色々とありがとう。」

「楽しかったぜぃ。」

それぞれが握手を交わす。鷹人と優太が笑顔を見せる。

こうして並んでみると本当に似てる。そう秋は感じた。

じゃ、と言ってのれんをくぐり、外に出ると鉢合わせで秋は人とぶつかってしまった。

「いたっ!!」

鼻を抑えて前を見ると、同じように鼻を抑えた獣人がそこに立っていた。

茶色の毛並み。そして、少し混ざったオレンジ色の毛・・・。

あれ?もしかして・・・。

『義父さん!!』

秋が叫ぶのよりも、鷹人たちの方が先に叫んだ。

「と・・とうさん?」

ラークは突然の出来事に目を丸くしている。あ、ラークは知らなかったんだっけ。

やっと痛みが治まったのか鷹人の義父さんは大量の荷物を背負いなおして真っ直ぐに鷹人と優太を見つめた。

「すまんな、行き先でちょっと事故にあってな。しばらく動けなかったんだ。長い間、すまなかったな。」

『義父さん!!』

二人が義父に抱きつく。幸せを噛み締めるように涙を流し、そして顔をうずめる。

そして、それを秋とラークは見つめていた。ラークは静かに涙を流している。

「ラーク。そろそろ行こうか。」

「そ・・そうだな。」

名残惜しそうにしていたラークに声をかけ、秋は歩き出す。顔に満面の笑みを浮かべて。

すると、それに気付いたのか鷹人と優太は秋達に手を振る。

「本当に、本当に・・・・ありがとう!!元気でなーーー!!」

「兄ちゃんたち〜。じゃあね〜!!」

秋達は歩きながら振り返って手を大きく振った。

 

そう、願い続ければ望みは・・・・きっと叶う。

 

 

路地の曲がりで秋達が見えなくなって、俺達は手を振るのをやめた。

すると一人状況を読めない義父が尋ねる。

「ん?誰だったんだ?」

 



話したいことがたくさんあるんだ。一人の優しい子供と、ちょっと食いしん坊の獣の話。

とりあえず・・・・

 



「お帰り!!義父さん。」

「・・・・おぅ!!ただいま♪」

 

感謝の気持ちは絶えることはない。俺はきっと刻み続けるだろう。

これだけは言える。

 

俺達は、きっと・・・

 



もっともっと幸せになれる!!

 





 

第三章  イベントの街 カーフィス    完




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