5、意志の力
私の村が赤い魔物に飲み込まれていく。
それは一瞬にして広がり村全体を埋め尽くしていく。
そんな中に・・・私はいた。
私はお姉ちゃんを探していた。たった一人のお姉ちゃんを。
お姉ちゃん!!どこにいるの!?返事して!!
そう私は叫ぶ。
・・・・しかし。
その声は聞こえない。その声は届かない。
なぜなら・・・・・・・。
「・・・エル。そこにいるんだろう?」
秋の言う通り、エルはそこにいた。恐る恐る出てきて少し怖がって縮こまっているのが分かる。しかし、その顔には少し動揺の色が見えた。
「な・・!?エル。お前は外に出ていろって言ったじゃないか!!」
ラークは叫んだ。ロックは最初は唖然としていたが何かを悟ったらしく黙ってそのやりとりを見つめていた。
「わ・・・私。一人で帰るのが怖かったの。だから終わるまでここにいようと待ってたの・・・。」
エルが言う。その声は少し震えていた。
一息入れた後、秋は真っ直ぐにエルを見つめた。
「もう・・いいんだ、エル。村を襲わせたのは・・君なんだろう?」
「なっ!?」ラークが唖然とした。
「な・・何を言っているの!?なんでそんなこと言うの!?」
会った時の弱々しい印象はもうなかった。それは明らかに動揺していた。
「・・・理由ならあるさ。」
「!?」
秋がまた一つ息を吐いた。
「一つ。君は言った。(ここに来るのは初めてだ)って。」
「!?」動揺が大きくなった。
「そう、ここに来るのが初めてならあの洞窟の中を抜けてここに来るのはまず不可能だろう。それにあの暗がりの中だ。あんなに正確に歩いていけるはずがないさ。」
秋が一本、指を立てながら言った。すこし黙っていたエルがふっと一つ笑った。
「・・・違うよ。ここに来るのは初めてじゃない。(ここに引っ越してきて初めて)ってことを言いたかったの。だから分かるのよ。ここに遊びに来たことがあったのよ。」
エルが反発の意見を述べる。それでも秋は動じず、もう一本指を立てた。
「二つ。今聞いた、ロックの話からだ。それは君のその匂い。その匂いって結構特徴があるんだ。その匂いが伝令から微かにしたそうだ・・。」
「・・・。」エルは黙って聞いていた。
「そして三つ。もう一度君に質問するよ?君は何故あの村にいたんだ?」
「何故って・・私は一週間前にそこに越してきて・・・・!!」
エルはそういってから自分の間違いに気づいようだった。小さく舌打ちして目線を下に向ける。
「ラーク。君なら分かるだろう・・・?」
秋がラークのほうを向いてそう言った。
「・・・あぁ。俺の村は狼以外は住んではいけないしきたりなんだ。客人を二、三日迎えて泊めることはあっても長居をさせることは禁じられているんだ。」
「くっ・・・・。」
エルは何も言わなかった。いや、言えなかったのだ。
「それと・・・俺も匂いに関しては気になったことがあるんだ。お前は特殊な匂いをつけているな。」
「それが・・・なんだって言うの!?」
「子供がこんな匂いをつけているのが不思議だった。なぜなのか?・・・今、ここでわかった。お前、その匂い以外、匂いがしないんだよ。生き物の匂いが。生き物ってのは何かしら匂いがするもんなんだ。・・・エル。お前は何者なんだ?」
しばらくの沈黙があった。その間、三人はエルをもう一人は地面をじっとみつめていた。
クスクスクス・・・。
今までに聞いたことのない声が聞こえた。エルの発した声だ。
前のような弱々しいものでなく、いたずら好きな子供のような声であった。
「クスクス・・なぁ〜んだ。わかっちゃったんだ。もう少しうまくいくと思ってたんだけどな〜。君みたいな子がいるなんて誤算だったよ。まぁちょっとした余興だと思ってやってたから結果オーライかな。」
そしてまたクスクスッと不適に笑った。
「エル・・本当にお前が・・・。」
ラークがエルを見つめていった。
「・・・そう、私がやったの。」
そう、静かに答えた。
「なぜ・・なぜ君のような子がこんなことを・・・。」とロック。
「何って?人を殺すのが楽しいからに決まっているでしょう。クスクス。」
「なっ・・・!?」
「あ〜あ。やっぱその場だけで考えただけの案じゃ穴がありすぎだったなぁ。失敗失敗。」
エルが残念そうな言葉を口にするが、まるでこのことを想定していたかのように顔には笑みが見える。
「お・・俺の仲間はどうしたんだ!!」
ロックが言った。その場がしん、と静まり返った。
「・・・・殺したよ。」
「え・・?」
エルの静かな声がロックには脳天に響き渡るほどに衝撃を与えていた。
「想像はできたでしょう?お兄ちゃんたちの話を聞いた時点で。ふふふ・・・。そして村を襲ったのも私。まぁ、村に火をつけたのはあいつらだけどね。クスクス・・。」
「・・・・。」
ラークとロックは黙っていた。しかし、そこには静かな怒りが見えた。
「あーあ。疲れたよ。泣き虫の子を演じたり、伝令までやって。こんなことしなくてもよかったなぁ〜。まぁ、暇つぶしにはなったかな〜。」
その仕草はやはり子供だ。本当にただおもちゃを使って遊んでいるような。
しかしそれはおもちゃとは違う。人をもてあそぶ。それは危険なマリオネット・・。
「でも・・もうおしまい。お兄ちゃんたちも殺してあげるよ!!」
エルの顔が今まで見たことのないようなにやけた顔になった。口が大きくにやけ、目がかっと開き、濃い黄色へと変わった。
エルの手足の爪が長く伸びる。鋭い歯をのぞかせる。
「フフフ・・いくよっ!!・・・!?」
その時だった。
ブンッ!!
それはほんの一瞬の出来事だった。
ラークとロックが一斉に飛び掛った。ロックが大きく槍を上から振り下ろし、ラークが前足の爪で飛びかかっていた。
しかし、その攻撃は寸前のところでかわされた。
「・・・っ。お兄ちゃんたち。不意打ちなんてひどいよ。もっと楽しもうよ〜。エルつまんない。」
エルがまたクスクスと笑う。明らかにこの状況を楽しんでいる。
「お前だけは許さない!!俺の妹を・・・俺の村を・・。よくも!!よくもっ!!」
「俺の仲間をよくも!!仲間のカタキだ!!覚悟しろっ!!」
エルと一定の距離を保って構える。
エルは笑いを止めない。
「ふふ・・二対一?お兄ちゃんたち、結構、卑怯だよね。でもいいや。まとめて遊ぼうよ!!」
「二対一じゃない・・・三対一だ。」
秋が静かに言った。弓をひきしぼり、エルに狙いを定めている。
「秋・・・」ラークとロックが秋のほうを見た。
「へぇ・・君みたいな弱そうな子が私とやりあうっていうの?それじゃ私は倒せないよ。」
エルがにやけた顔でクスクスとまた笑う。
「俺も・・・もう許せない。これ以上、こんなことが起こらないように君を倒す。」
構えて引きしぼった弓がかたい、ぎぎぎという音を立てた。
「あたれっ!!」
秋が手を離した。矢が物凄い速さで飛んでエルに向かっていった。
しかしエルはすぐさま横に回避する。
「ほら?弓ってのは狙う標的が動いたら当たらないんだよ!?むしろこんな真正面から宣言されてから当たるやつなんているわけ・・・・がっ!?」
奇妙なことが起こった。はずれてエルの後ろに飛んだはずの矢がエルの肩に突き刺さったのだ。後ろへ飛んだあと、急速に反転してエルめがけて飛んできたのだ。
「なにっ!!なんでっ!?」
肩の矢を抜きながらエルが秋の方向を向いた。肩からは血が流れていなかった。
「し・・秋!?」
ラークとロックが驚きの表情を見せた。
「・・・そうか。」
秋はかけをつけている右手の手のひらを見てから、ぐっと握った。
「なっ・・!?」
「村であいつらの額の石に当たったとき、偶然にしてはうまく当たったのが不思議だった。もとの世界では俺は不調だったんだよ?いろいろ考えて・・ここでは強く思えばそれが力として発揮するんじゃないかって思ったんだ。あの時も俺は強く「当たれ!」って思った。そう思ったとき何かを感じたんだ。これではっきりした。」
秋がまた一本矢を矢筒から取出しながら言った。
「さぁ、どうする。三対一でどう戦う。」
ロックが静かな口調で言った。
クスクス・・。
「・・・!?」
エルの発した笑い声に一同が驚いた。
「お兄ちゃん。おもしろい力を持っているんだね。意志の力ってやつ?でも、三対一でも私は倒せないよ・・・なぜなら・・・。」
「なっ!?」
突然、エルの体が宙に浮き上がった。それはどんどん昇っていき、頭上をはるかに越す高さにまで至った。
「お兄ちゃんたちは一度も私に触れることができなくなるからね!!」
「空中に・・・浮かんで!?」
エルの言うとおり、ラークのジャンプ力でもロックの槍の長さでもそれは届かない高さだ。
「あいつ、あんなこともできるのか!!反則だぞ、あれは!?」
ラークが上を見上げながら言う。
「クスクス・・・。じゃあ、私の番だよ!!」
そう言ってエルが大きく腕をクロスに振った。
するとエルの手の爪から風の刃が生まれ、秋たちのいる地面に当たり、岩盤を破壊する。
それは地面をえぐって大きな爪跡を見せた。連続して風の刃を繰り出してくる。
「うわぁぁぁっ!!」「うわっ!!」「くっ!!」
それぞれが風の刃をよけて右へ左へと分散する。
「そらそらそらっ!!ほら、頑張ってよけないと切れちゃうよ〜♪」
一つ一つの攻撃は大きいものなので避けるのは簡単だが連続でやられるので大変だ。
避けきれなかった風の刃が少しずつ体に傷をつけていく。
ロックは槍で風を叩き落している。ラークはその素早さで刃を避けている。
秋もなんとか避けることが出来ている。
「はぁっ・・・はあっ・・くっ!!」
秋がエルの攻撃をぬって矢を放つ。しかしそれはすぐに風の刃に破壊されてしまった。
「当たれっ!!!」
もう一度矢を放つ。それはうまく攻撃をさけてエルの手の甲に命中した。
「いたっ!!」
エルの攻撃が一瞬やんだ。その一瞬を見逃してはいなかった。
「くらえっ!!」
ロックが槍を宙に投げた。それはエルに向かっていき、そしてエルの腹に突き刺さった。
「がっ!?」
エルの体に秋の矢とロックの槍が突き刺さっていた。
「痛い・・・痛いよ・・。」
エルが苦痛の声をあげる。それから自分の腹に突き刺さった槍と矢をぐっと引き抜いた。
そしてそれをそのまま下へ落としてから、腹を押さえて下を向いていた。
「やったのか・・?」
ラークがその状況を見ていった。
「・・・なーんちゃって♪」
エルの腹には穴が開いていたがそこからは血は出ていなかった。
エルは痛みを感じる様子もなく、先ほどと同じように笑っていた。
「ラークおにいちゃん言ったよね?私には人の匂いがしないって。そりゃそうよ・・・私は生き物じゃない、人形だもの。」
「な・・!?人形??」
「あぁ〜あ、でもちょっと嫌だな〜。穴開いちゃったよ。がっかり。」
エルが三つの穴の開いた自分の腹を見てそう言った。
「ふふ・・その弓、邪魔だね・・。」
一瞬、エルのにやけた顔が見えた。
「危ない!!」「・・え?」
ロックが叫んで、秋を抱えて飛び込んだ。突然さっきとは違う細かい風の刃が秋の持っていた弓を粉々に刻んだ。その細かさにまったく秋は対応できなかった。
「うわっ!!」 「秋!?」
ぱらぱらと弓の切り取られた破片がその場に転がった。
ロックが助けてくれなかったら弓をもてないほどの傷を負っていたに違いない。
「ゆ・・・弓が・・。」
弓の破壊、それはエルへの攻撃方法がなくなったことに等しい。
「く・・くそっ。」
すでに三人は壁際に追い詰められていた。
「もう終わりだね、お兄ちゃんたち。結構、楽しかったよ。」
爪が今までにない緑の輝きを放つ。最大の攻撃が来る!
「死んじゃえっ!!」
両手をぶんと振ってクロスする。そこから、今までとは違った何倍も大きい衝撃波がとんできた。
や・・やられる!!
秋がそう思って目を瞑った瞬間だった。衝撃波が目の前で止まっていた。
それだけではない。秋以外のものがすべて止まっていた。
白黒の世界、何もかもがモノクロになって止まっていた。
「オマエハ・・・」
「え?」
どこからか声がした。トーンの低い声だ。直接、頭に語りかけてくる感じだ。
「オマエハ・・ドウシタイ・・」
もう一度その声がした。
「誰・・?」
「オマエハ、ナニヲノゾムノダ?」
「俺は・・・」
周りを見渡してそれから自分の手のひらを見つめた。
「俺は・・・力が欲しい。エルを倒すための・・あの子を救ってあげるための・・。あの子は苦しんでいる。なんとなくそう思うんだ。だからあの子を苦しみから解放してやりたい!!そのための力が欲しい!!」
「・・・・オマエノ、イシノチカラヲシンジヨウ・・・。オマエノナスベキコトヲナセ!!」
成すべきこと・・・。
その時、秋の中で力が生まれた。それはいっきに湧きあがってきた。
・・・この力があれば・・。
秋は止まった時間の中で確かな確信を抱いていた。