〜生きる場所〜

”簡素”
その一言ですべてが片付いてしまうような空間。
あるものはここの住人の手作りである。もちろんこの家自体も。
天井は高く、壁にはいくつか照明が下がっている。壁はすべて丸太で構成されていて、雨漏りや腐り防止の対策もしているようだ。
そしてこの空間の中には、簡素ながらにも最低限の生活物品が揃っている。

丸型で小さいテーブル、それに見合った小さな椅子。雑な・・いや独創的な形をしてはいるが、壊れないだけの強靭さを併せ持っている。

小さい暖炉。すす汚れたその暖炉は、もう何年も使っていないのだろう。
これは住人が雰囲気作りの為だけに作ったのではないのかと思われる。放置しすぎにも程がある。

窓際に置かれたベッド。何の工夫もない粗末なベッドだ。しかし、シーツはしっかりと張りを持っている。入ってみれば中々にふかふかとした布団が迎えてくれる。
日の光がよく当たるところに設置されているので、昼寝をすれば気持ちが良さそうだ。

台所。水場は外になるが、大抵の料理はここでやっているようだ。棚がいくつかあって、そこには料理道具が入っている。包丁、まな板、鍋など最低限は揃っているようだ。

そして本棚。色とりどりの背表紙、種々様々のジャンルタイトル。医学書・歴史・文学・ファンタジー・企画・芸術その他。
そして、4つあるうちの入り口から3つめ。上から3段目の単行本の裏、そこにはちょっとHな本がある。タイトルは・・・Oh・淫ら。またベタなタイトルである。
内容は・・・・うぅむ。ここは割愛させてもらおう。

しかし、本当に何もない部屋である。本というものがあるからまだしも、それ以外にはこれといって趣味を感じさせるものが何もない。
男の部屋ならもっとこー乱雑になってて・・Hなものが数点あってもいいもんだが(隠し場所はまたベタにもベッドの下だったりする。)ここにはやはりあの本一冊しかない。それにすっきりし過ぎている所もこれはまた殺風景。
あー、寂しいねぇ。

刺激的に生きるには、こんな殺風景なところはつまらない。
「ここじゃなくて、森の中で色々あるからいいんだよ。」
それが本人談。

家の中はこんなものであろう。
そしてここの住人。小説を読んでいる人はもうにんまり気付き始めていると思う。
そう、ここはクロドの家です。ちょっと紹介してます。

ここの住人クロドは無類の本好きであり、もう何年もここで暮らしている白虎獣人である。朝は夜明けと共に起き朝食、そして森に出て暇を潰し、さらに屋根の上で昼寝と読書にふける。さらにまた森に出て水辺で遊び、また屋根の上で乾かしがてら昼寝。何度寝ているのか分からないような退屈な生活を送っている。

夜は読書。一人、ベッドの上でずっと月明かりで読書。
そして就寝。一日のスケジュールはこんなもんだ。

性格は乱暴で適当主義。交友関係は少なく、一週間に一回は街に出て図書館に行く。
そこで仕事をこなしてちょこっとばかし金をもらってくる。
あらら、こっちも寂しいね。

たまに来る客を誘って食事を一緒にするが、そのぐらいしかちゃんとした交友がないのが本当に寂しいね。というか、それが交友関係と呼べるのか。
情けなく、ただ一人で過ごすことが多く、それでいて乱暴。
インドアなのかアウトドアなのか、分からない。


本の選択もよく分からない。
”ヒトの生き方”
人の生まれの歴史と、進化の過程、現代に至るまでの歴史を多く記した本だ。
しかし、途中途中に私事的な文章が多く本当に伝えたいことがよく分からないのが不評で絶版になったらしい。もちろん高い価値はついていない。
これを持っている時点でちょっとばかし世間体の認知と評価がおかしいような気がする。

”見ろ、我が手のこの世界”
ファンタジーの本だ。
地球を守るために旅立った少年が、途中途中の困難を乗り越えて敵を倒しながら冒険を進めるこれまたベタな物語。

こういうのを買うときはまずストーリーをあらすじなどで確認すべきだ。
そうか、絵の綺麗さだけで選んだのか。
これまた初心者の陥りそうなミスだ。


まぁ、見ればどれも難癖のついた本ばかりだ。
買うほどのものでもない。そう判断されるものばかりだ。



クロドという人物、そして住まい。
あれこれ言うなら尽きることは決してないと思う。
ただ、これだけは言える。

”ここは、生きることを考えさせられる場所である。”



あ、そうだ。
最近、何か一冊本が増えたみたいだ。隠し場所は本棚の入り口から・・・
確かエロ本のタイトルは・・・


「だー!!こんのエロ馬鹿親父!!どこまでくどくど言えば気が済むんだ!!気にならないなら出て行けっての!!」


おっと、本人の登場だ。
私はここで退散することにする。それではっ。


「あの親父・・何で俺の・・・本の隠し場所まで知ってるんだよ・・。あの歳になっても・・まだ現役ってことなのか!?そうなのかっ!?」


ふふふ。どうでしょう?w


からかって遊ぶことが、私の日常の楽しみだ。
まぁ、それなりに楽しんでるぞ。ほほほほほほ。



終わりきれないまま・終