変わり変わるセカイ

 

「くっ・・・うぉ!!!おぉっ!!」

「はぁっ・・・あぁぁっ!!」

 

かみ殺し、それでも漏れる喘ぎ声。流れる汗、染みの広がる白い寝床。

流れ出る愛液。蜜のようにとろりと蕩ける様な、それでいて絡みつくような流れ。

乱れる毛、乱れる吐息、乱れる布、どれも扇情的に刺激を与えるものでしかない。

中に、奥に挿入を繰り返し、あまりの快感に身体を震わせ、尾もぴんと跳ね上がる。

激しく、軟く。激しく、軟く。浅く、深く。浅く、深く。

俺の怒張が擦れるたびに漏れる声。泣きそうにこちらを見つめる儚い視線。辛そうに白布を掴む手。あられもなく投げ出す身体。どれもが興奮をかきたて、だからこそ愛しいと思う。

汗をかいてつやを出している肌。はらはらと落ちるように散るこげ茶の髪。赤みがかった頬。上気した身体。ふくよかな胸。濡れた森。

何もかもが愛おしい。

 

心底惚れているのだろう。そう感じてしまうほどに愛しくてたまらない。そして、だからこそもっと感じさせてやりたい、そう思わずにはいられない。ヒトの感情と言うのは何とも単純なものか。

好きだから身体を重ねる。好きだから求める。好きだからこそ。

 

やがて放出される自身の分身。身体に流れる電気。そして快感と満足感、気だるさ。

それでも愛しいと思う気持ちは微塵も変わりはしない。

 

 

 

「おつかれさま。」

そう言って軽く頬に口付ける。荒い息をして、肩を上下させる愛しきヒトに、ゆっくりと寄り添う。

顔は疲れきっていたが、ニコリと笑顔がまぶしく、つい俺もつられて笑ってしまう。

こんなことをするのはもう何回目か。

一週間に3回はするもんだから・・・まぁ、それなりの回数だ。

 

秋達が街を離れてから、俺達は何度も身体を重ねていた。

研究の邪魔になるからという理由で、子を作ろうとしなかった昔の自分を思い出す。

子供は嫌いではなかった。実際に遊びに来るケントやルークは可愛いと思うし、ちっぽけな大人のプライドだって持ち合わせていた。俺だって結婚すりゃ、そりゃ作りたいものも作りたい。

 

しかしどうしても受け入れることが出来なかったのだ。

 

研究に支障が出る。そんな馬鹿みたいな・・本当の研究馬鹿だったのだ。

研究肌である自分にとって、研究は俺にとっての生きがいであるようにも思われた。だからこそ、子供を作ることが必然ではないと感じていた。いや、必然ではないと思おうとしていたのかもしれない。

子供を作れば子育てに専念することになる。そうなれば研究だって疎かになる。子育ては必ず二人でするもの・・・そういったガチガチの固定観念に捉われていたのもその時期だった。

 

美咲にすべて任せればいい、そう考えたときも勿論ある。

しかし美咲に子育てを任せたとして、研究を続け何日かごとに顔を出す俺は果たして父親として認められるのか。そして自分はそのことを気にも留めず研究を続けることが出来るのか。

 

間違いなく、無理だ。

 

 

ただ単に自分が父親になることから逃げていたのかもしれない。

すべての不安が、進もうとする俺の背中の裾を引っ張る。それを脱いで進もうにも別の服の裾を掴まれる。そしてそれすら剥ぎ取っても掴まれるのは毛。逃げることは出来ない。

落としてきたのは日々の数々。研究の成果。失われていった二人の、俺と美咲との時間。

残り続けているのは、ちっぽけな俺のプライドと、臆病な心。

 

そして日がたつにつれ、それは固定のものとなっていき、ついには機会を逃していた。

そして3年。美咲も言い出さずにいたし、これでいいとどこか納得し、そしてほっとしていた。

ずっとこのままでいいと。

実際には美咲もとまどっていたのかもしれない。俺のような獣人となんて元の世界では考えられないだろうし、何より純粋だったのだ。そう考えると、3年と言う時間は長かったのか、短かったのか・・そんなことを考えさせられる。

 

だから、3年間は準備期間だったのだと思う。

俺は研究をしながらも、考えを巡らせ。美咲は美咲で過去の傷を癒し、そして考え。

二人で仲を深めて。二人で考えに考え。いつしかそれが当たり前のようになっていた。

どこかで予備軍となる気持ちを抱きながら。遊ぶルークやケントを遠めに見ながら。

 

本当は思っていたのだ。踏み出したいと。

本当は感じていたのだ。その心を。

どこか、奥で。

 

「そうか。だからこそ動き出したその日が・・・あいつらの来たあの日、だったんだ。」

「え?」

ベットで腕枕をしながら、天井を見つめて呟いた。その思い出した顔が、残像で見えたような気がした。

暖かい美咲の吐息が鼻にかかる。少し・・・くすぐったく、嬉しい。

 

髪を撫でる手が、ゆっくりと肌を伝う。くすぐったそうな声で美咲が悶えるのを見て、俺はまた自分の心がトクンと高鳴るのを聞いた。

美咲を見て、すぐに目を逸らした。そして美咲が微笑む。

すべてを受け入れてくれる優しい微笑み。大きくて黒く澄んだ瞳。柔らかで艶のある唇。

あぁ、俺は罪なやつだと思わせてしまう。

そして、俺はやはり美咲に支えられているんだと感じずにはいられない。

 

「俺達にはきっかけが必要だったんだ。普段の生活では味わえないような。俺はやっぱりどこか不器用なヒトだと思うから。何か大きな事件があって頭を叩かれないと起きなかったんだ。」

「・・・秋君たちのことですか?」

軽く頷いて、そして寝返りをうつ。向き合う形で、美咲の前へと流れる髪をゆっくりと後ろへ流した。

 

「すべて分かっていたんだ。研究のことばかり考えているなんて、そんなのは逃げているってことなんだって。苦労ばかりかけて、ぐるぐる回って、やっとここにたどり着いた。繋げてくれた最後の一筋は、あいつらだった。直接的なきっかけじゃなかったかもしれない。そして間接的でもなかったのかもしれない。だが確かにあの時感じた何かを、俺は大切にしたい。」

「・・・そうですね。」

美咲がぐっと身体を寄せる。毛に顔を埋め、その毛ざわりを確かめるように。またトクンと心が高鳴る。

 

旅の話を聞いた。秋は人間界から来ていた。ラークは秋を時空管理局へ届ける役をかっていた。二人を調べた。食事をした。洞窟を調べに行った。ケントが捕まった。ルークと合流し、洞窟の中で大木と戦った。秋と風呂に入った。(ここは・・まぁ興味本位で手も出した。)

そんな2、3日の話。ただそれだけの話。本当に、ただそれだけだったのだけど。

 

しかし、それが特別な一歩だったのだと。

(あぁ、あのとき俺達のことも話したんだよな・・・それが初心に戻らせたっていうのも、あるのか?)

 

だから。

 

「これからお前をもっと大切にしていく。子供が出来れば、俺達はもっと繋がっていけるはずだ。」

「はい。」

とんでもなく恥ずかしいことを言っていることに気付いて、俺は笑った。美咲も笑う。

「あなたは時に周りが見えなくなったり、ちょっと乱暴をしてヒトを困らせたり、子供達と同じ視線で遊んで危なっかしかったり、時に男のヒトと何かしたりしてますけど・・・。」

「うっ。」

すべて痛いところ。それに・・・一番最後のは・・・。

「すべてを含めて、あなたが好きです。だから、あなたの子供が・・・欲しいです。」

顔を真っ赤にして、言い終わってからは俯いてしまう。それが何とも可愛らしい。

 

「たまに周りが見えなくなって、お前をおいていくかもしれない。」

「見えているときに、その分たっぷり見てください。」

 

「乱暴をしてヒトを困らせるかもしれない。」

「その時は一緒に謝りましょう。」

 

「子供達と同視線で遊んで、危ないことに首をつっこむかもしれない。」

「帰ってくるまで待ってますよ。」

 

「・・・お、男とヤルかもしれない。」

「それはちょっと控えてくださいね?」

「・・うっ。」

 

 

ははは、と二人で笑いあう。そして見つめあい、唇を重ねあう。深く、深く。ちゅん、といやらしく音を立て、唇が離れる。

 

「美咲、好きだ。」

「私もです。」

 

 

二人は再度重なる。甘美な快楽に溺れる。花が舞い、それを見て、そして味わう。

 

今日も、夜は更けていく。流れる星々に様々な祈りを刻みながら。